5月号
アジアの中で最も信頼される食肉加工メーカーをめざして
伊藤ハム株式会社
執行役員 西宮工場長 岩下 康之さん
1960年の工場開設以来52年、神戸・阪神間で親しみのある伊藤ハムの西宮工場では、誰でも知っている商品を数多く生産している。長年にわたり生産に携わってこられた岩下工場長にお聞きした。
―西宮工場は伊藤ハムの中でも大規模な工場ですね。
岩下 西宮工場は「本社工場」とも呼ばれ、千葉県柏市の東京工場とともに当社の基幹工場の一つです。日本国内のハム・ソーセージの年間生産量約50万トンのうち、約10%をこの2工場で生産していることになります。
―西宮工場の主な生産商品は?
岩下 ハム・ソーセージが中心で、当社全体の約25%の生産量を占めています。主力ウインナーの「アルトバイエルン」、ロングセラーの「ロイヤルポールウインナー」、ハム、ベーコンの主力商品「朝のフレッシュ」シリーズ、創業70周年を記念して発売した「神戸」シリーズなどを生産しています。全ての商品がここからスタートしているといってもよいほどです。生産量が増えてくると他の工場に設備を造り生産拠点を移します。西宮工場生まれの「チーズイン」は六甲工場へ、「ポークビッツ」は東京工場、豊橋工場へといった具合いです。惣菜などの生産は他工場が中心ですが、元々は西宮スタートの製品も多く、ピザもここから神戸工場へ移しました。
―創業者の伊藤傅三さんがアイデアマンだったそうですね。
岩下 当時、腸詰めウインナーの天然腸の質が弱くて苦労しました。そこで創業者が、飴や薬品の個別包装に使われていたセロハンの切れ端を利用して試行錯誤の末に開発したのがセロハンウインナーです。今も西宮工場で生産しているロングセラーの「ロイヤルポールウインナー」です。
プレスハムも創業者のアイデアなのですが、元々はコストが高い食肉をもっと安くお客様者にも届けたいという思いだったと聞いています。コストを下げるために当時安かったマトンを輸入し、その臭みをいかに無くすかという課題を技術開発で解決して誕生しました。
―西宮工場から生まれたヒット商品は?
岩下 小さなソーセージの中にチーズがエンピツの芯のように入っている「チーズイン」です。当時は画期的な商品でした。何故かというと、生肉を扱うので衛生上、冷たくなくなければならないソーセージの中に、逆に冷たいと固まってしまうチーズを流し込むわけです。開発当時は、工場内のチーズ生産工場から、乳化して軟らかくしたチーズを、離れた場所のウインナー生産工場まで熱いままバケツに入れて走って持って行きました。今なら「工場内は走るな!」と怒られますね(笑)。のんびりしているとチーズが固まり、ウインナーの細い穴の中に送り込めないから大変です。でも、こんなことばかりやっていられないので、その後、ウインナー生産ラインの横にチーズの乳化設備を作り製品化することになりました。お陰さまでヒット商品になり、設備投資の甲斐があって良かったです。
チーズインの技術を逆に利用しようという発想で生まれたのが極細のウインナー「ポークビッツ」です。天然の羊腸ではなくコラーゲンを使った皮に肉を詰め込むウインナーです。ウインナー生産時にコラーゲンを筒状にしながら、同時に詰め込んでいこうというものでした。しかし設備投資しても、うまくいかなければダメ。そこで、「中がチーズで外が肉」のチーズインの設備を利用して、「中が肉で外がコラーゲン」の実験生産をしました。ところが、コラーゲンは非常に軟らかくて、大きいと丸くならず、へしゃげてしまいます。硬くしようと塩水をかけると塩辛くなる。そこで、極端に小さくしました。当初は社内で「こんな小さなものを誰が買うの?」と批判も受けましたが、爆発的なヒット商品になりました。
―安全・安心についてはもちろん万全の体制を整えているのでしょうね。
岩下 品質管理についての考え方は時代の流れに伴って大きく変わりました。昔は、「出来上がった商品を検査して大丈夫ならそれで良し」というものでした。今はHACCPが導入され、工程ごとにマニュアル化して確認、記録し、基準・規格を守って仕事をするというのが基本です。「大丈夫、仕事する、大丈夫、仕事する…」この繰り返しで、次の工程に渡し、また繰り返しです。
また、大きな問題として異物混入があります。生産している側からすれば、100トンレベルの話ですが、お客さまにとってはこの1袋が全て、100%なんです。ですから、たとえ1袋でも異常があってはならない。これを徹底することが大切だと考えて確認を徹底しています。金属探知機やX線検査装置も導入して確認を徹底しています。特に目視や試薬等で確認できないアレルゲンについては、作業をマニュアルに添って間違いなく行わなくてはなりません。
―これからお客様に好まれるのはどういう商品でしょうか。
岩下 景気が良ければ外食が盛んですが、景気が低迷してくると中食、内食が好まれる傾向にあります。また今は、共働き世帯が多いですから、家庭の主婦は大変です。簡単に美味しく、安くという商品が好まれるのではないでしょうか。一方、高齢化が進み、「たくさんは要らないが、美味しいものを贅沢に食べたい」という人も増えてきているようです。
―岩下工場長はずっと西宮工場で生産に携わってこられたのですか。これからも?
岩下 出身は九州なのですが、最初は西宮工場に就職しました。2年間、九州工場へ行きましたが、昨年4月に戻って来ることができて嬉しく思っています。
本社工場で長年、仕事してきたことにはプライドもあり、またここで「チーズイン」「ポークビッツ」を始め、色々な商品の生産に関わらせていただけたことに感謝しています。いくつも失敗しましたし、若い頃には「なんでこんな苦労せなあかんねん」などと思ったこともありましたが、今思い返すと「楽しかったなあ」と思えるんですね。不思議なものです。
これからも本社工場というプライドを持って、お客様から「当社の商品は安心・安全で美味しい」と言っていただける品質を提供する使命を果たしていきたいと思っています。
岩下 康之 (いわした やすゆき)
伊藤ハム株式会社 執行役員 西宮工場長
1953年、福岡県生まれ。1971年、伊藤ハム(株)入社以来西宮工場にて、ハム・ソーセージの製造ライン業務に従事。2007年、西宮工場製造部長をへて2009年、九州工場長に。2011年、執行役員西宮工場長就任、現在に至る。