5月号
発信!デザイン都市 ビジュアルデザインで人とアートをつなぐ
神戸芸術工科大学
デザイン学部ビジュアルデザイン学科 教授
かわい ひろゆき さん
経験が可能性を育む
ビジュアルデザインという分野は、どの大学でもおそらく守備範囲の一番広い学科ではないでしょうか。本学では、3年生でグラフィックデザイン、WEBデザイン、エディトリアルデザイン、イラストレーション、絵本制作の5つのコースに分かれ専門分野を学びます。しかし、実社会での仕事となると、さほど明確に分かれているわけではありません。グラフィックデザイナーで本の装丁を手がけたり、絵を描いている人は大勢います。
また、広告制作の現場で、カメラマンやスタイリストといった多くのプロの才能をディレクションするような場合、自分が写真表現をある程度経験しているかどうかは、スタッフとコミュニケーションを取るうえで、延いてはできあがる広告の善し悪しに少なからず影響します。
ですから、専門分野を掘り下げるだけでなく、学生のうちにさまざまなことを経験しておくことは、とても大切なことといえます。
一粒の種から広がる心の絆
私の研究室で進めている「ヒトキズナぷろじぇくと」は、4年前に神戸ルミナリエのポスターを制作したことがきっかけでスタートしました。
これまでは阪神・淡路大震災を次世代に伝えるという趣旨で活動してきましたが、東日本大震災の発生を受け、昨年は被災地支援も活動の大きな柱となりました。
学内で育てていた「はるかのひまわり」の種をいわき市や南三陸町に送ったり、神戸のこどもたちが描いた絵に応援のメッセージを添えた缶バッジを神戸ルミナリエと1.17のつどいの会場でつくり、被災地の小中学校や仮設住宅に届けるなど、活動はいまもつづいています。
学生たちは、このプロジェクトを通して、社会のさまざまな問題に触れることができます。命の尊厳、人のつながりの大切さ、家族のあり方、経済問題……。こうしたさまざまな問題に直面し、何を感じ、何を考えるか。単にデザインの技術を勉強するだけでなく、人としての人間力をしっかり養ってほしいと思っています。
美しさだけがアートではない
私は幼い頃から絵を描くことが好きでしたが、最近では、アート・パフォーマンスやインスタレーションにも取り組んでいます。
現代アートの作家たちは、自分の生きざまとして個々の表現を追求しています。身近なアーティストたちが、いま生きているこの瞬間に何を訴えようとしているのか。作品を通してそうしたメッセージに触れることは、とても面白く、ワクワクします。
よく、現代美術は難しいとかわからないという声を耳にしますが、決してそんなことはありません。はじめから作品を理解しようと思わずに、「好き」とか「何これ?」といった第一印象を素直に受け止めるところからはじめたらいいと思います。テーマとかコンセプトなどを気にせず、まずは感じてみるのです。
そのうちに、展覧会の会場で作家に出逢うことがあるでしょう。そんなときは勇気をだして声をかけてみましょう。作品についての深い話しが聞けるかもしれません。多くの作家は、そんな出会いを待っているものです。作品をきっかけに、アーティストと友達になるというのも、現代アートならではの楽しみ方ではないでしょうか。
ひまわりんく(ヒトキズナぷろじぇくと)
ホームページ http://visual.kobe-du.ac.jp/himawalink/
かわい ひろゆき
神戸芸術工科大学
デザイン学部ビジュアルデザイン学科 教授
1957年、長野県生まれ。1980年、東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。1980年~1990年、株式会社電通アートディレクター。1993年、多摩美術大学大学院美術研究科修士課程修了。1994年~1998年、多摩美術大学グラフィックデザイン科非常勤講師を務める。2005年、神戸芸術工科大学教授、現在に至る。「パルコ アーバナート展」パルコ賞、「From A THE ART展」ペインティング大賞、「日仏現代美術展」日本テレビ奨励賞など、受賞多数。ヨガ哲学に心酔。東洋神秘主義的エコでロハスな生き方を信条とし、自転車でのぶらり旅をこよなく愛する。神戸市在住。