1月号
暮らしの劇場・阪急うめだ本店
株式会社 阪急阪神百貨店
代表取締役社長 荒木 直也さん
2011年11月21日、阪急うめだ本店がグランドオープン。新しいコンセプト「暮らしの劇場」とは…。全国に15店舗を展開する荒木社長にお聞きした。
商品とお客様をめぐる物語が主役の劇場
―グランドオープン以来、お客様の反応はいかがですか。
荒木 想定以上に多くのお客様に喜んでいただき私共もうれしく思っております。若いカップルやファミリーなど、以前とはまた違った年齢層のお客様、また遠方からもご来店いただいているという印象を持っています。9階「祝祭広場」はグランドオープン時に、大阪フィルハーモニーのバーチャル指揮者体験でも好評いただきました。その後も実施している色々なイベントやプロモーションを階段に座ってご覧になっているお客様の様子を見るにつけ、大人も楽しめる百貨店が実現したなと実感しています。
―まさに、ストアコンセプト「暮らしの劇場」ですね。
荒木 非日常を演出した空間の中で時間消費ができ、買い物ができる劇場型百貨店をイメージしています。具体的には、生活文化情報を発信して、それに共鳴して買い物をしていただくことを目指しています。店舗に足を運んでいただくからには、商品にまつわる背景や情報をお伝えし、それに伴って購買が生まれる。その手法が劇場型です。舞台装置として新たに祝祭広場やホール、ギャラリーなどを設置し、それ以外にも全館で24カ所のイベントスペースを配置しました。また、場面に応じた照明やBGMにもこだわりを持っています。
―懐かしい外観も雰囲気を残していますね。
荒木 1階から8階までの外観には、1929年創業時からの特徴である丸窓や田の字窓を現代的な感覚で残しています。9階以上は未来に羽ばたくイメージです。伝統と革新に分けて表現することで、全てを新しくするのではなく、皆さんに持っていただいている長年の愛着も大事にしたいと思っています。
―商品を、顧客タイプ、専門アイテム、生活文化提案の3つに区分したワールドを設定していますが。
荒木 新しい商品や有名ブランドで差別化すれば商品が売れた時代もありましたが、今はお客様自身が多くの情報と、商品を選ぶ厳しい目を持っておられます。そこで、年齢や生活スタイル、ライフステージなどを基にお客様像から約20のカテゴリーに分けて想定しました。それぞれの興味に合わせて売場をゾーニングし、お客様のニーズに対応した環境やサービスで売場づくりをしたのがワールドです。一方、お客様の立場で考えると、アイテムやライフスタイルから入るほうが買いやすいという場合もあります。そこで結果的に、ニーズ、アイテム、ライフスタイルの3つのワールドが出来上がりました。例えば、10階スークは女性が年齢層には関係なく、手作りや雑貨などの切り口で楽しむライフスタイルのワールドです。
―いわゆるデパ地下のご自慢は。
荒木 食品売場が、それぞれに特色のある2層に分かれています。B1のフードブティックはお菓子や惣菜のブランドを通してパティシエやシェフのこだわりを表現しています。一番は長さ100メートルの通路に約50のブランドが並ぶ「スイーツブティックストリート」です。B2のフードマルシェは基本的に対面接客販売で、世界の食文化体験をしていただこうというものです。中でもワインの品ぞろえはかなり充実しています。
―レストランも人気ですね。
荒木 百貨店内のレストランですからランチタイム主体です。ランチが千円から3千円程度の価格帯でバリエーションを楽しんでいただける設定です。その範囲内で、有名なお店、人気のあるレストランなどを選定しました。旧梅田阪急ビル1階のドーム型コンコースの天井をそのまま移設した大型レストラン「シャンデリア テーブル」は格調高い空間ですが、価格はリーズナブルで非常に人気が高いです。神戸の人気レストラン「ハルヤマシタ」もとても好評です。そしてお酒も飲める夜の時間も賑わっています。
―男性は阪急メンズ大阪へ行かなければあまり楽しめないのですか。
荒木 ファッション性が高く、おしゃれにこだわり、気合を入れた日のコーディネートの買い物にご利用いただけるのが阪急メンズ大阪です。本館8階はシニアのご夫婦から若いカップルまで、どちらかというと女性主導での買い物にご利用いただけるコンパクトな売場を作りました。
激戦区・梅田で一番店を目指す
―百貨店激戦区、梅田での一番店を、新店舗で目指すのですか。
荒木 もちろんです。建て替え前の圧倒的な一番店に返り咲くことが目標です。
―目の前の阪神百貨店との棲み分けは。
荒木 それぞれが持つキャラクターがかなり違いますから、お客様にもお伝えできると思っています。阪急はファッション志向で幾分高級感を追求する一方で、阪神は〝暮らし志向〟です。食品や名物催事を中心にして、カジュアルな親しみやすい雰囲気で地域の皆さんに日々の生活を提案する百貨店を目指していこうとしています。
―神戸っ子としては、神戸から阪急の拠点がなくなったことが気になりますが…。
荒木 確かに、神戸方面は手薄というのは否めない事実です。今後更に大切にしたい商圏と考えていますが、残念ながら新店舗など具体的な計画は今のところありません。私共としては、阪急うめだ本店は最新鋭の都市型百貨店と自負していますし、西宮阪急も全国トップクラスの郊外型百貨店です。私自身も神戸の住人ですからよく分かるのですが、神戸っ子は神戸の中で衣食住全て完結する方が多いですし、それが出来る街です。そこで、この2店舗を知っていただき、神戸からも30分でお越しいだけるようにアプローチしていきたいと思っています。
―素敵な百貨店が完成しました。今後の方向は?
荒木 阪急うめだ本店という「暮らしの劇場」が出来上がり、役者も揃いました。勝負はこれから。お客様に大きな拍手をいただける脚本を書いて演じていきます。是非一度、足を運んで楽しんでください!
インタビュー 本誌・森岡一孝
荒木 直也(あらき なおや)
株式会社阪急阪神百貨店 代表取締役社長
1957年兵庫県生まれ。1981年株式会社阪急百貨店入社。2004年執行役員。2010年株式会社阪急阪神百貨店取締役執行役員。2011年事業開発本部担当。
2012年3月代表取締役社長に就任。