2013年
12月号

浮世絵にみる神戸ゆかりの源平合戦 第24回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

中右 瑛

女人哀史
義経を恋う静御前の舞

悲劇の英雄・源義経と歌舞の才芸に秀でた薄命の佳人、白拍子・静との恋は、純で凛とした日本的な恋物語として語り継がれている。
静は京都・北白川出身。母は同じく白拍子の、磯の禅師という。静の白拍子としてのデビューは、後白河上皇の求めに応じて雨乞いの舞を、百人の白拍子とともに奉納した際のこと。ひときわ抜きん出ていた美貌の静の舞に、神が感応したのか三日間も続く大雨が降った。以来、静の美貌と才芸の名声は、都中に広まったという。
平家を壇ノ浦で滅した智勇名将・義経が京に凱旋し、邸を構えたとき、多くの公卿や平家ゆかりの武家たちが、身の安泰のため、義経に多くの白拍子を差し出した。その中に静がいた。義経は美しい静に心を奪われた。
義経の人気が高まるにつけ、兄・頼朝は義経を強く警戒しはじめ、側近の梶原景時の讒言により、義経追討が下された。
都落ちをする義経一行は、尼崎大物浦より西国に向け船出。静も同行していたが、船は難破し、大阪住吉の浜に打ち上げられた。
その後、雪の吉野山で義経と静は別れ別れになり、義経の消息は途絶えた。これが、義経と静との生涯の別れとなった。
静はやっとのことで北白川にたどり着くが、間もなく鎌倉に召し出される。
文治2(1186)年4月、鶴岡八幡宮で頼朝公の御前に引き出され、奉納舞を求められた。
白い小袖に白い袴。頭に水干をつけた白拍子姿の静は、哀しくもあわれ、なんとも不思議な魅力をかもし出していた。義経への愛を切々と詠じ、舞う静の姿に、一同は感嘆した。

 しづやしづ 賤(しづ)のをだまき繰り返し
 昔を今に なすよしもがな
 吉野山 嶺の白雪踏みわけて
 入りにし人の 跡ぞ悲しき

頼朝公の面前で、恐れ気もなく義経への恋慕の心情を歌い上げたが、頼朝公や正妻・政子は不快感をあらわに嫉妬したという。
このとき、静はすでに義経の子を身ごもっており、7月に生まれた男の子は抹殺された。その直後の9月、静は北白川に戻ることを許された。
静は、子を殺された悲しみが癒えず、髪を下して子の菩提を弔う。しかし、その翌年、20歳の短い生涯を終えた。
一方、義経は各地を流浪の後、奥州藤原秀衡方にかくまわれていたのだが、秀衡亡きあとの文治5(1189)年、衣川の館の戦でついに討ち死にした。
政争に巻き込まれた義経と、薄命の佳人・静との哀しい恋として、後世に語り伝えられている。

井上探景画「教導立志基」 鶴岡八幡宮にて頼朝公の御前で舞う静御前

■中右瑛(なかう・えい)

抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2013年12月号〉
ぶらり私のKOBE散歩 Vol.13
KOBEルミナリエ
マリンピア神戸で見つけるおしゃれスタイル Marine-Pia Style Ma…
マリンピア神戸でのお買い物がますます楽しく!ウェブマガがスタート!
Bridal Collection カミネ
「カワイイ!」「素敵!」な神戸の女性たちの ライフスタイルにもうワンプラス|そご…
暮らしの真ん中に食卓を 神戸菊水
弁護士は社会生活の医師
神戸初! 第18回弁護士業務改革シンポジウム開催
可能性と夢のある公認会計士の世界
老祥記 vol.2 「豚饅の日」とKOBE豚饅サミット
神戸の初詣
玉岡かおる原作 『お家(いえ)さん』舞台化
神戸はなぜ 探偵小説が似合うのか 『探偵小説の街・神戸』を野村恒彦さんが出版
KOBEの人気ヘアサロン コウベ/スタイル Vol.5
佐藤悦枝 創作50周年記念パリ展「風に吹かれて」
パリの街並「パサージュ」をイメージしたクラシカルな複合ビル
みんなの医療社会学 第三十六回
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 75
神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 神戸の芸術・文化人編 第47回
関西の地球人
浮世絵にみる神戸ゆかりの源平合戦 第24回
触媒のうた 34
徳島発 無添加ハム・ソーセージの美味の秘密は「健康」にあり
「第58回CWAJ現代版画展」神戸外国倶楽部で
ポートアイランド「UCCコーヒー博物館」リニューアル
「神戸は第二の故郷」駐日ハンガリー大使 歓迎会を生田神社で開催