8月号
フランク・ロイド・ライト その思想と建築を今に Vol.2
空間の連続性
─そのころの住宅は、故意に徹底的に切り刻まれていた。(中略)内部は、箱また箱、さらにその中に箱、といった具合だった。部屋と呼ばれる箱である。すべての箱は、複雑な外側の箱のなかに納まっていた。建物内部機能は、ひとつひとつの箱に割り当てられていた。
このような抑圧的な態度、部屋ごとに物事を区切るようなやり方には、ほとんど何の感性も認められない。むしろそれは、刑務所に長いこと慣れ親しんだ先祖たちの心性への退行を意味しているような気がする。
フランク・ロイド・ライトの建築は、当時の「常識」への挑戦であり、「革新」であった。今や当たり前となっている近代建築は、彼の戦いなくして生まれなかったであろう。
部屋と部屋を切り離していた壁を取り払うという、大胆とも言える彼の発想により、空間は広がりを見せ、自由度は格段に広がった。それだけではない。ドアの数や窓の穴の数が減少する一方で、窓の面積は大きく拡大。外を内に取り込み、内は外に広がる、明るく快適な空間が誕生したのである。しかもその空間のつながりは、有機的な統合性のもとにある。
平尾工務店のオーガニックハウスは彼のイズムを受け継ぎ、寝室や浴室など区切りが必要な部分をのぞいて、空間はゆるやかにつながっている。しかし、ただ単純に空間が広がっているだけでなく、例えばリビングとダイニングは明確な境界はないものの、おだかやかな変化により程よく独立性を感じさせる。
その秘密は上下の抑揚。旧山邑家住宅(ヨドコウ記念館)などにも採用されている手法だが、天井の高さにアクセントを設けることで、自然にスペースの独立性を演出している。例えば廊下のように玄関からリビングにつながる部分は天井が低く、リビングのエリアに至ると天井が高くなっている。この上下空間の変化で、リビングはより広く明るく感じられる。
空間の結びつきは、家族の結びつきにも通じる。区切りのない空間は常に家族の気配を感じさせ、自然なコミュニケーションを育む。個々が区切られた空間に閉じこもるような家での生活では、果たして絆など生まれてくるのだろうか?しかしながら現在も、建築は「箱また箱」という呪縛から完全に解放されているかは疑わしい。ライトの先進的な発想に、もしかしたら未だ時代が追いついていないのかもしれない。