6月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十回
女性医師の現状と課題
男女とも働きやすい職場づくりを目指すために
─女性医師の現状について教えてください。
宮地 近年、女性医師の数は増加しています。平成12年の女性医師の数は約22万6千人で医師全体の約14%でしたが、平成22年には約29万5千人と増加、割合も約19%になっています。図のように年齢階層別の医師数の男女比を見てみますと、50代以降は少ないのですが、20代や30代の若い世代で女性医師が多く、比率も高い傾向がみられます。また、近年医学部では3~4割が女子学生というデータもあります。一方で医師に限ったことではありませんが、20代から30代というのは出産や育児の適齢期でもあります。女性医師の活動率は、30代で落ち込んで再び回復するというM字カーブを描いています。
─出産や育児の際、女性医師はどのように対応しているのですか。
宮地 多くの女性医師は産休や育休を取得しその後復職しますが、退職するケースも少なくありません。女性医師の休職や離職の理由のトップは出産で、飛び抜けて多くなっています。2位は子育てです。つまり出産と育児が女性医師のキャリアに大きな影響を与えているのです。一般の企業ではほとんどの女性が産休・育休を取得していますが、女性医師の産休の取得は全体で8割にも満たず、4分の1の女性医師はまともに産休を取っていない、あるいは退職・休職を余儀なくされるというのが現状です。育休取得も4割以下で、一般企業の半分以下の水準です。
─女性医師が産休や育休を取得しにくいのはなぜですか。
宮地 休業の穴埋めができる代わりの医師がおらず、その背景には医師不足、医師の偏在が影響しています。育児休暇ですとどうしても年単位の長期休暇となりますので、女性医師本人が周囲に遠慮したり、育休取得後の復職に不安を感じたりしています。また、日進月歩の医療の世界においてキャリアの中断が大きな不安になり、育休の取得を断念するケースも少なくありません。上司の無理解も理由の一つです。
─女性医師はどのように育児をおこなっているのでしょうか。
宮地 自分で育児をしている方も多いのですが、保育所や託児所などに子どもを預ける、親など家族親類のサポートを受けるケースも多いです。どの業界でも同じとは思いますが、女性医師は仕事と家事の両立に悩んでいます。さらにキャリアアップに向けた勉強時間の確保にも腐心しているようです。
─出産や育児に対し、どのような勤務支援が求められますか。
宮地 まず、産前産後や育児期の休業は女性として当然の権利なので、気兼ねなくきちんと取得できるようにしなければなりません。診療科によっては時間外診療やオンコール、当直勤務などもありますが、子育て期間中は免除したり、フレックス勤務、短時間勤務などの制度も求められます。そのためには代替医師の確保のみならず、主治医制度から複数担当医制への移行も検討が必要でしょう。院内保育施設の設置、院外保育所との提携、病児保育の整備は重要です。このような対策は看護師等すべての女性が働きやすい環境をつくることに繋がります。そして何より、同僚や上司の理解が不可欠です。
─兵庫県医師会は、女性医師をどのようにサポートしていますか。
宮地 兵庫県医師会では、育児などで長期間休んでいた女性医師を対象に、復職に向けた研修など再就職の支援をおこない、さらにドクターバンクで就業先のあっせんを無料でおこなっています。また、女性医師の会や女性医師支援相談窓口を設け、女性医師の情報交換や相談に応じています。学会や研修会などの際に託児サービスをおこなったり、ベビーシッターの費用の一部を負担したりもしています。学会や研修医に対しても、懇談会の開催や勤務先病院への訪問などを通じてサポートしています。女性医師が長く安心して働き続けられる制度環境を整備していくことは、男女共に働きやすい職場づくりに繋がります。それには男性の協力が不可欠であり、ひいては息子を育てる母親、家族、社会の理解・啓蒙が望まれます。
宮地 千尋 先生
兵庫県医師会理事・医療法人明倫会理事長