2026年
2月号
作品製作と並行して、畑を耕し、動物たちと暮らし、新月・満月の日に催しを開く。「tamaki niimeはアパレルブランドではなくネイチャーブランド」。愉しく、自分たちが納得し、皆に誇ることができるように、モノづくりの常識を超えていく。

常識にとらわれず、毎日愉しく。 “きもちいい”を追い求めた軌跡

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兵庫の伝統産業・播州織のポテンシャルを広げ、ファンを獲得してきた「tamaki niime」。
この号では、会社設立20周年を迎える同ブランド創設者の玉木新雌(たまきにいめ)さんにインタビュー。
彩り豊かで、とろけるように柔らかい作品はどのように生み出されてきたのか?
会社に羊やヤギ、動物がわんさかいるのはなぜ? 宿を開業予定ってホント? 
「あたりまえを疑え」と進んできた、これまでの歩み&これからの野望(⁉)を伺いました。

きもちいいはうつくしい

小さい頃から服が大好きだったという玉木さん。小学生時代、毎日異なるコーディネートで通学するというルールを自らに課し、その頃からミシンで自分の服を手作りしていたという。
「自分が着たい服への想いがめっちゃ強かったんです」。
玉木さんが着たい服って? 人と同じではないもの、そして何より肌触りのいいもの。実は播州織に惚れたのも、その要素が大きい。兵庫県西脇で江戸時代から続く播州織は、綿花から採れる綿を中心とした織物。染め上げた糸で柄を織る「先染織物」で、生地にする段階からデザインが可能。綿ゆえに洗濯もOK、デイリーに着用でき、着続けると自然な風合いや独特の肌触りがさらにアップする。
玉木さんはそんな播州織の特徴を生かし、着心地抜群な一点モノを送り出してきた。それは階級や所属を示すユニフォーム的な服ではなく、シルエットを矯正するコルセット的な美しさでもない。頑張りすぎず、無理しない、素のままの自分の、自然な美しさに寄り添う服だ。
『tamaki niime』のコンセプトは「きもちいいはうつくしい」。出来上がった服はもちろん、その製作工程、そして日々の暮らしも含めて、きもちいいこと。少女時代の変わらぬ想いを今も貫き、西脇から世界に向けて提案する。

モヤモヤからの脱出

玉木さんの社会人第一歩は、大阪にある繊維商社のパタンナーから始まった。服づくりに全身全霊で向き合いたいと就職したものの、企業という枠組に属する者ゆえのルールやしがらみにエネルギーを吸い取られることが多々。もっとこうした方がええのになぁ…。
「モヤモヤ生きるよりスッキリ死にたい」と決死の覚悟で独立の道を選ぶ。ゼロからやれば自由にモノづくりができると考え、2004年大阪で自らのブランドを設立。仕入れた播州織でシャツなどを創っていた。
2009年には玉木さんが師匠と敬う播州織職人の勧めで西脇に移住。「産地を守り継いでいかなければならない」という師匠の思いに共感してのことだ。生地を仕入れるのではなく、自ら織る。西脇にラボを構え、織機や染色設備を整備し、今やスタッフ90名を超える規模まで成長。伝統産業の抱える問題に産地で向き合い、海外に負けない日本の産地発展のため、全エネルギーを注ぐ。

意識はアーティスト

自分たちにしか出来ない織物を作る。「技術がなかった創業当初は、とにかく簡単に織るのが一番。熟練の職人さん達がめざす、細い糸で目が詰まった織り方とは真逆の方向に振り切った」と笑う玉木さん。古い力織機で、密度を緩く、ざっくり織ると、従来の播州織にないフワリ柔らかい織物が出来た。その後、最新の織機を導入しても回転数を落とし、空気を含むように優しく織る。「急いで織ると生地に表情がなくなってしまうから」。
色糸の連なりを試すことも好き。例えば、秋の山は樹々の葉の赤や黄が複雑に絡み合って美しい。「あんな織物を作りたいよなぁ…」。経糸と緯糸を複雑に組み合わせ、絵を描くように織る。全てが実験的なトライ。「スタッフにも毎日、何かに挑戦することを続けてもらいたい」。だから作業場でなくラボ。創られるものは商品ではなく作品と呼ぶ。『あたりまえを疑え』を合言葉に柔軟に変化しながら動き、理想の作品づくりを実践している。

原点に立ち返る

世の中にモノが溢れ、環境配慮への要求が高まるなか、玉木さんはこのままモノづくりを続けていいのか、と頭を悩ませた時期があったそう。「ちっぽけな自分たちが地球に対して出来ることは何? むやみに消費を増やさないためにも、モノづくりをやめた方がええんちゃうかな…」。
たどりついた答えは日本が誇る、勤勉で丁寧なモノづくりをやめるのではなく、「大量生産され、大量消費されるモノを、自分たちの想いがこもった作品と入れ換えてもらい、長く大切に身につけてもらえる人を増やすこと」。 
おじいちゃんやおばあちゃんになった時に愛用した服を孫に譲りたい、孫も貰いたいと思ってもらえるような服をつくる。そのためにはどんな素材で、どんな想いで服づくりしているか、きちんと伝えることが大事と考えた。
まず服づくりの原点に立ち返るべく、農薬不使用の綿花栽培を始めた。並行してウール研究のために羊やアルパカ、ヤギなど、動物の世話にも奔走する。「コットンやウールという原料のルーツに関わり、育てる手間や創り手の想いを説教っぽくない形で顧客に伝えることで、すぐには捨てず、大切に着ようと思ってもらえるかも…」という希望的仮説を立て、原料から取り組む循環型モノづくりを実践している。
慣れない作業は大変だったが、地球にとって良い選択であり、自分たちも愉しく、地域の人たちとも繋がることができた。
出来ることはまだあるはず。例えば、馬車を走らせたり、蚕で糸をつくったり…、自然と関わる動きはさらに活発化しそうな気配。

地域発展への貢献

tamaki niimeでは、播州織にとどまらず、地域資源の価値を伝承することにも取り組んでいる。昨夏には地元の名士、故岡澤薫郎氏の旧宅をイベントや物販を行う拠点「新雌邸」として開館した。西脇が播州織で栄えたころに建てられた希少価値の高い建物ゆえ、出来る限り手を加えず、そのままのカタチで活用。人間の本能や感性を研ぎすませる意味もこめて、月に二度、新月・満月の日限定で一般公開している。 
屋敷内には約20もの部屋や日本庭園を望む縁側、隣接して大きな蔵もあり、昭和の時代、播州織が西脇に好況をもたらし、この地で豊かな時間を過ごしただろうとイメージが出来る。
「単に建物を残すだけではなく、イベントなどの動きを進めて新しい価値を発見し、現代を生きる人たちと協働し続けることが未来へ伝えることにつながると思う」。
日本の文化に誇りを持つ、きっかけになれば嬉しいと語る玉木さん。今後はレンタルスペースなど、実験的な稼働で最適な使用方法を模索していくらしい。

会社設立20年の節目

2026年は会社設立20周年。「やりたいことをコツコツと積み上げ、一から十までピースが揃った。これからは横に1本の串を通したい」と玉木さん。まず人のつながりを通すため、各部署で頑張っている皆が一緒の時間を過ごし、語り合える場と時間を作って、自発的に面白いモノづくりができる環境を整備したいそう。柔軟な勤務体制はもちろん、例えば、子育て中のスタッフのために将来を担う子ども達が感性や自立心を育んでいけるよう大人が構いすぎない社内の子育て環境を整えたり、老若男女、皆が参加できる食や暮らしのイベントを開催したり。宿泊施設「新雌の家」、山間の温泉「新雌の湯」の開業も計画中。そのための準備も着々と進めている。
「一緒に働くということは、一緒に生きること」。衣も、住も、食も、仲間と共に生きながら、何ものにもとらわれすぎない、自由な発想で人生を愉しむ。暮らし方や生き方もtamaki niime唯一無二のスタイル。一点ものの人生を自らで切り拓く人が集うそこには、新たな可能性やポジティブな空気で満ち溢れていた。これからの展開が楽しみすぎる!

作品製作と並行して、畑を耕し、動物たちと暮らし、新月・満月の日に催しを開く。「tamaki niimeはアパレルブランドではなくネイチャーブランド」。愉しく、自分たちが納得し、皆に誇ることができるように、モノづくりの常識を超えていく。


播州織に使われていた元染色工場を改装した「tamaki niime shop&lab」。手前にショップ、奥にモノづくりの現場、ラボを構える。ラボは常時ではないものの誰でも見学可能。


ショップスペースでは人気のショールをはじめ、年齢や性別、体型に縛られず自由に身にまとえる服を販売。柔らかな着心地と鮮やかな色彩で、どれも一点モノであることが特徴


2階の社員食堂では週末、グルメイベントも開催


「織り」部門では手前から奥に向かって1960年代製の力織機、1980年代製のレピア織機と様々な織機が並ぶ。古い織機にしか出せない立体的な風合いがあるから大切にメンテナンスして使用


糸にストレスをかけないよう、ゆっくりと動かす
優しい織りで、柔らかさを追求する


Tシャツやスウェットなどの「編み」も手掛ける。旧式の丸編み機にオリジナルのムラ染め糸をかけ、流れ星のようなグラデーションに。ニット事業は編み物の歴史がなかった西脇でゼロからスタート


自分たちで紡績し、ハンドメイドで染める。「世界中の皆さんが、その人に似合う色を見つけることができるようカラーバリエーションは豊富に」と玉木さん。毎日新しい色づくりに挑戦


糸が切れないよう糊をつけて織り、洗いをかけて糊を落とす。自然乾燥で空気を含ませ、柔らかな風合いに仕上げる


染め・織り・編み・縫製・販売まで一貫して自分たちで行う。ラボ内には刺さるメッセージがあちこちに


手書きメッセージ入りのパッケージなど、出荷業務もクリエイティブな発想で




縫製デザインルームで、ひとつひとつ手作業で縫い上げる


ボーダーの入れ方など、生地の裁断は
作品の出来具合の肝となる


ニット作品の最終仕上げに勤しむスタッフさん。
着用のアイテムもニュアンスのあるブルーが素敵!


「tamaki niimeはネイチャーブランド」と玉木さん。自然に寄り添い、動物と人が共存し、原料から携わる、未来に続くモノづくりを実践




ラボのすぐ外で羊やヤギ、アルパカなど、繊維に関係する動物を中心に50頭以上の仲間を飼育



自分たちの畑で栽培したコットンを100%使用して紡績を行い、染色、製織、縫製まですべて国内で手掛けた「純国産」のデニムやTシャツを販売


玉木さんの出身地・福井県は生糸の産地として有名。日本の蚕技術の継承のためにも蚕飼育の本格展開を視野に入れる


故岡澤薫郎氏※の旧宅(景観形成重要建造物)を集いの場「新雌邸」として開館。嶋地区は播州織産業の中心地でもあり、播州織の価値や発展を伝えるにも最適な場所と言える


※岡澤薫郎氏について
昭和の時代、播州織の好況を背景に「文化工芸都市」を名乗った西脇において、文化連盟の初代会長や兵庫県議会議員、西脇市の岡之山美術館の初代館長も務め、西脇のまちの文化を代表する顔的存在だった

長く閉ざされていた歴史的建造物を改装。「子供時代から憧れていた名士の邸宅を見学できる」と地元民にも好評だとか。家と外をつなぐ役割を果たす土間もあり、まさにここが交流の場となることをめざす


母屋のふすまを開けるとドーンと大広間が!


満月と新月の日に一般来場者向けにオープン。tamaki niime作品の展示販売やトークイベントなどを実施する


取材当日は服づくりの過程で出る端材から再生糸を作成し、再び服へ蘇らせた作品も展示


端切れを原料に使用した「新雌紙」のオブジェ。捨てるものは何ひとつない


日本庭園を望む縁側。播州織の座布団でほっこりするのもいい


蔵を活用したアーティスト作品の展示など、多様なコンテンツを検討中

玉木さんの本が完成!


『きもちいい は うつくしい』
著者:玉木新雌
2025年12月23日(火)発売
発行:幻冬舎メディアコンサルティング

会社設立20周年を記念した玉木新雌さん初の著書『きもちいい は うつくしい』。神戸っ子で紹介しきれていない玉木さんのモノづくりの想い、生きるヒントやポジティブワードがいっぱい詰まっています。Amazonで購入可能です。

●shop&lab

西脇市比延町550-1
0795-38-8113
11:00~17:00
月曜日定休(祝日は営業)
https://www.niime.jp/

●新雌邸

西脇市嶋19 
11:00~17:00
満月と新月の日のみオープン
入場無料・出入り自由
※開館日などの情報はインスタグラムで

tamaki niime 代表 玉木 新雌(たまき にいめ)さん

福井県で洋服店を営む両親のもとに生まれる。2004年大阪でtamaki niimeを立ち上げ、2006年法人化。2009年、播州織の産地・兵庫県西脇へ移住。伝統技術を受け継ぎながら、独自の色と風合いで播州織を再構築。糸を紡ぎ、染め、織り、編み、縫製、仕上げまで自分たちで行った一点モノを、西脇のshop&labほか鎌倉の直営店、国内外の契約店、オンラインショップなどで販売する。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

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