9月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第157回
地域医療連携推進法人と
かかりつけ医
─地域医療において、かかりつけ医はどのような役割を果たしていますか。
木村 日本医師会はかかりつけ医について、医療機関としての機能を磨くことを縦糸、地域における連携を横糸と表現しています。縦糸・横糸の具体的な内容は(表1)の通りですが、横糸、つまり地域における役割はかかりつけ医と他院の専門医との連携だけでなく、介護・福祉との連携、公衆衛生や保健行政との連携も含みます。地域における面としての機能を担うかかりつけ医は、地域包括ケアシステムを構築するため中心的役割を担うべきと考えます。そして、この縦糸と横糸をつなぐ有力なツールとなり得るのが、地域医療連携推進法人です。
─地域医療連携推進法人(以下、連携法人)とは何ですか。
木村 連携法人とは、地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院などに関する業務の連携を推進するための方針を定めて医療連携推進業務を行う一般社団法人のことで、都道府県が認定します。今年4月までに39の法人が認定されましたが、地域医療の実情によってどのメリットを利用するかは全く異なり、連携法人ごとにかなり個性があります。
─連携法人の制度ができた背景を教えてください。
木村 2012年~2013年の社会保障制度改革国民会議において、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年を念頭において病院完結型から地域完結型への変更が強調されました。その流れの中、2015年9月の第7次医療法改正において「ご当地医療の構築」「競争より協調」とのスローガンのもとに連携法人の制度が創設され、2017年4月に施行されました。その趣旨は、グループの一体的運営により人・モノ・カネを有効活用することとされました。
─連携法人は兵庫県内にいくつありますか。
木村 これまで川西・猪名川地域ヘルスケアネットワークとはりま姫路総合医療センター整備推進機構の2つが認定されましたが、後者は兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院の統廃合というミッションを完了して一昨年に解散していますので、現在は1つということになります。
─川西・猪名川地域ヘルスケアネットワークはどのような経緯で設立されましたか。
木村 川西市・猪名川町のある阪神北圏域は病床過剰地域とされ、川西市・猪名川町では病床減少の必要性と病床機能の転換が重要な課題となりました。その一方で近隣の他市の実情がほとんど分からず、医療提供体制の調整は極めて難しいものだったのです。そこで、諸問題に対処すべく連携法人を立ち上げることとなり、2021年に川西・猪名川地域ヘルスケアネットワークが設立されました。
─連携法人ごとに個性があるとのことですが、川西・猪名川地域ヘルスケアネットワークはどのような特徴がありますか。
木村 モノやカネのメリットは利用せず、医療提供体制の長期的かつ効果的な維持、隣接する他圏域との連携を図りながら、川西・猪名川地域における医療機関相互間の機能分担・連携を進め、質の高い医療を効果的に提供することを目的としています。また、地域内にある法人格を持つ病院のすべてが参画し、川西市医師会・川西市歯科医師会・川西市薬剤師会のいわゆる三師会が理事となっていますが、三師会が関与している連携法人はほかに山形県酒田市の日本海ヘルスケアネットなどわずかしかありません。県外で医療圏も異なりますが、患者さんの行き来がある隣の大阪府池田市の医師会長が評議員になっているところも独特です(表2)。
─ここで、医師会はどのような役割を担っていますか。
木村 川西市医師会は互選によって代表理事となっています。川西市医師会は、連携法人の本来あるべき姿を監督・指導するという役割を担っています。
─川西・猪名川地区ヘルスケアネットワークのこれまでの実績を紹介してください。
先生 稀有なことですが、民間と公的病院の統廃合を成し遂げ、令和4年9月に主に急性期医療を担う川西市立総合医療センターを立ち上げて病床も150床あまり減らしました。また、法人内で病床の融通が可能であることを利用し、今井病院が協立病院から余剰病床の一部40床を無償で移譲を受けることを連携法人で決議し、令和5年4月に主に回復期を担う川西リハビリテーション病院を開院させました。
─かかりつけ医機能向上にはどのような効果がありましたか。
木村 川西市立総合医療センターの開院により紹介率と逆紹介率が増加したことで、病診連携の向上、外来医療、入退院時の支援などのかかりつけ医機能が向上しました(図1・図2)。また、川西市立総合医療センターの救急受け入れが増加したことも、病診連携の向上、休日・夜間診療といったかかりつけ医機能の向上につながりました。その上、法人内の病院相互でより顔の見える関係が構築されて病病連携が向上し、病院をかかりつけ医とする患者にとってメリットをもたらしました(図3)。
─連携法人の展望や可能性をお聞かせください。
木村 連携法人について、全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案が昨年5月に可決、今年4月から施行され、個人立の病院等や介護事業所等が参加できることとなりました。これにより、かかりつけ医はより幅広く地域医療連携推進法人に参加できることになると思われます。また、連携法人は地域包括ケアを実現するための有用なツールであることが期待され、地域包括ケアの中心的役割を担うかかりつけ医がその機能を発揮するためにも有効でしょうね。川西市・猪名川町では、かかりつけ医が他市の医療機関に紹介・救急搬送する件数が多かったのですが、連携法人設立後は地域完結型の連携強化が可能となりました。かかりつけ医機能を発揮・充実させる上で、地域の実情に応じ連携法人を設立することが有用である地域は兵庫県内のみならず、全国にも多く存在するのではないでしょうか。