2月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第150回
尼崎市民医療フォーラム「そうだったのか!日本の医療」
~かかりつけ医あれば憂いなし?~について
─昨年の尼崎市民医療フォーラムはいつでしたか。
杉安 10月21日に尼崎市立小田南学習プラザで開催し、多くの方にご来場いただきました。フォーラムは平成19年から開催し昨年で第16回を迎えましたが、尼崎市医師会では毎回、注目されている話題について掘り下げています。今回は市民のみなさまに最も身近なお医者さんであり、岸田内閣の「骨太の方針2022」に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」が明記されたことがきっかけで昨今注目されているかかりつけ医をテーマにしました。
─今回も落語からのスタートだったそうですね
杉安 社会人落語家の浪漫亭不良雲さんが、六代目桂文枝作「お忘れ物承り所」で会場を和ませてくれました。
─第1部の基調講演はどなたがお話されましたか。
杉安 日本医師会常任理事の黒瀬巌先生が「かかりつけ医は皆様の健康づくりのパートナー」~かかりつけ医“機能”ってなあに?~をテーマに講演しました。かかりつけ医とは何かという基本の解説から入り、かかりつけ医のメリットやかかりつけ医を選ぶポイントなど、市民のみなさまの関心がありそうな話題を盛り込んだお話でした。
─かかりつけ医制度についてはイギリスに見習うべきという財務省の意見がありますが、黒瀬先生の見解はいかがでしたか。
杉安 日本ではフリーアクセスと皆保険制度により「いつでも、どこでも誰でも」自分が選んだ医療機関や医師に診てもらえますが、イギリスではアクセスが制限されているので受診までに時間がかかるという解説がありました。結果的に新型コロナウイルス感染症での累計死亡者数をみると、イギリスは日本の10倍近いというのが現実で、これは医療制度の違いの差が大きいのではないかということです。
─かかりつけ医を持つメリットや選ぶポイントについてのお話はいかがでしたか。
杉安 日頃の健康状態を知ってもらえる、病気の予防や早期発見・治療につながる、症状に応じた専門家への紹介がスムーズなどのメリットがあるとのことです。また、選ぶにあたっては、健康に関することを何でも相談できるか、説明がわかりやすく安心できるかを重視すると良く、診療科ごとなど複数のかかりつけ医がいても問題ないそうです。
─第2部はどんな内容でしたか。
杉安 兵庫県立小田高校看護医療・健康類型2年3組有志のみなさんの演劇でした。「郷に入れば郷に従わないといけない?~世界の医療は十人十色」という題で、ある若夫婦の赴任先のヨーロッパのある国と尼崎の実家を舞台に、それぞれ医療を受けた様子を劇で比較し、最後に医療システムはそれぞれの国の文化や思想をもとにした固有の歴史があり、大病院が混雑するという日本のフリーアクセスのシステムの課題解消のためにもかかりつけ医の役割が重要であるとまとめていました。
─第3部はどんな内容でしたか。
杉安 尼崎市医師会理事の鷲田和夫先生と私が司会を務めて、5名のシンポジストのみなさまとシンポジウムをおこないました。県立小田高校教諭の福田秀志先生が生徒にかかりつけ医に関するアンケートをおこなったところかかりつけ医を意識している割合は半分くらいで、「健康相談と予防ができる」「幼少期からお世話になっている」「専門の病院を紹介してくれる」などというイメージがあるとのことです。一方で、かかりつけ医を見つけるのが難しいという意見もあったそうで、それに対し地元選出の衆議院議員、中野洋昌先生から、診療所にかかりつけ医としての機能を報告してもらう制度をはじめるというお話がありました。
─それは新しい情報ですね。
杉安 基調講演をおこなった黒瀬先生によれば、この報告制度は2025年4月頃にスタートする見込みだそうです。この制度に関して兵庫県医師会会長の八田昌樹先生は、特にかかりつけ医を持っていない人が医療機関を探す際に活用できるだけでなく、医師間の情報共有にも役立つのではないかと期待していました。
─かかりつけ医制度についてはどんな議論がありましたか。
杉安 中野先生によれば、イギリスのような極端な制度ではなく、フリーアクセスの原則を担保する形に落ち着くだろうということです。八田先生は、フリーアクセスの視点からも行政などからの指定ではなく患者自身がかかりつけ医を決めることが重要で、医師も腕を磨いてかかりつけ医機能を発揮していくべきと述べました。黒瀬先生からは、ゆりかごから墓場まで産婦人科~小児科~内科といったかかりつけ医のリレーが人生を伴走してくれているようなイメージでライフステージに合わせかかりつけ医を選べるようになればという意見がありました。
─地域医療の視点からの意見はありましたか。
杉安 尼崎市医師会医政委員会委員長の武部健先生は、「面で支える」地域の医療や介護の提供にもかかりつけ医は不可欠であると指摘し、尼崎市独自の「尼崎市医療・介護連携支援センター あまつなぎ」を紹介しました。また、かかりつけ医側は患者に頼られるためにも日々変化する医療に対応することが大切なので、自分が診られる範囲を少しずつでも拡げていくよう努力していきたいと決意を新たにしていました。
─かかりつけ医はどのように探せば良いのでしょうか。
杉安 シンポジウムでも話題に挙がったかかりつけ医機能報告制度はまだ準備段階ですが、現在でも医療機能情報提供制度の一環で県が提供する医療機関情報システムで医療機関の検索ができますし、尼崎市医師会でも医療機関の検索システムを公開していますので、ぜひインターネットを通じてご利用ください。また、インターネットに不慣れな方は各地の医師会にご相談いただければと思います。みなさまの健康を守るためにも、ぜひかかりつけ医を持ちましょう。