2月号
未来を駆ける神戸の新風 VOL.9|アルツハイマー病や糖尿病など、ニーズの高い医薬品の開発を進めるグローバル企業を直撃!
国際都市、そして医療産業都市と言われる神戸を象徴するかのような企業がある。日本イーライリリー(神戸市中央区)である。
イーライリリーは、米国インディアナ州インディアナポリスに本社を置く、グローバルな研究開発型製薬会社で、1876年に創立。そして、日本の拠点として1975年に設立されたのが日本イーライリリーだ。同社が日本で流通させる薬は全て西神工場(西区)で作られる。そして、そんな西神工場に対して2025年までに70億円の投資を行うとの発表があった。また、日本人に多いと言われる2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の発売、アルツハイマー病薬「ドナネマブ」の承認申請など、同社が世の中から注目を集めた去年。そのビッグニュースについて、社長のシモーネ・トムセン氏にお話を伺った。
グローバルな知見で革新的な医薬品を開発する日本イーライリリー
イーライリリー社にとって日本は、どのような位置づけなのでしょうか?
まず、リリーにとって日本での事業は米国に次いで2番目に大きく、戦略的には最も重要な拠点のひとつです。
そして、日本は超高齢化社会という状況があり、それによって糖尿病や認知症といった、生活が損なわれるような病気を持つ方々が今後増えていくことが予想されますので、このような病気でお困りの日本の患者さんに対して、革新的な治療をいち早くお届けすることを目指しています。
去年、西神工場(神戸市)に70億円の投資を行うと発表されましたね。
グローバルな知見と日本での活動を組み合わせて、革新的な医薬品を患者さんにお届けするということが私達のミッションです。その上で、現在の中期計画では2025年末までに、累計2400万人の日本の患者さんに、当社の薬をお届けすることを目標としています。投資の意図の一つは、それに向けた生産能力の増強です。
超高齢化社会の問題と向き合う!
話題の新薬への想い
先ほど、超高齢化社会がもたらす病気の例を挙げて頂きましたが、アルツハイマー病薬「ドナネマブ」を昨年、厚労省に承認申請されましたね。
リリーでは認知症薬の研究開発に35年以上、60億ドル以上を投資しており、その間も山あり谷ありでしたが、ようやく申請にこぎ着けたことを非常に嬉しく思っています。
アルツハイマー病というのは、時と共に認知機能が衰えてきて、それは当時者の方ご自身にとっても、また介護されるご家族にとっても非常に負担が大きい疾患です。日本においては2030年までにアルツハイマー病の患者数が700万人に達すると言われており、この数は、高齢者の約5分の1に当たります。これによる社会的な負担は非常に大きく、2060年には24兆〜25兆円に上る社会的コスト(現在のがん治療の約3倍)がかかると考えられています。
これまでも、認知症の70%がアルツハイマー型の認知症だと言われており、患者数が非常に多いにも関わらず、有効な治療法がありませんでした。
しかし、私どもの臨床試験においては、「ドナネマブ」により、認知機能、そして日常生活機能の低下を有意に遅延させる結果を見ることができました。
このことからも「ドナネマブ」は、患者さんの生活、そしてご家族の負担に対して大きく貢献できる、社会的な意義が大きな治療薬になるものと期待しています。
御社は2016年に「認知症にやさしいまちづくり推進のための連携と協力に関する協定」を神戸市、医療産業都市機構の三者で結ばれていますね。
はい。疾患の治療そのものと同様、認知症に関しては、その治療全体を取り巻くケアの環境というものも非常に大切です。
その上でこの協定では、認知症という病気の社会的な理解を促進することと、臨床的な面と両方含めて、認知症でも安心して住める社会、モデル都市づくりに向けて活動を続けています。
そこには、革新的な治療薬の開発だけでなく、課題となる疾患を取り巻く患者さん達の生活環境を整えるということも含まれており、その両方を柱に据えて、日本だけでなく世界中でより長く、より健康に、そしてより幸福に人々が生活できる社会を作っていきたいと思っています。
革新的な治療薬の代表例として、2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の発売がありますが、現状についてお聞かせ下さい。
インスリンの分泌に重要なGIPとGLP―1という2つのホルモンの受容体に単一分子として作用する世界初の治療薬で、2型糖尿病を適応症として上市しましたが、非常にポジティブな影響があったとの報告をいただいております。
糖尿病の治療法というのは進化を続けていますが、それでも未だ血糖管理に苦労されている患者さんがたくさんいらっしゃいます。そういった患者さんにとって、「マンジャロ」は新しいクラスの治療薬であり、世界の糖尿病の治療を、一段とレベルアップして加速させるものになると考えています。
神戸こそがベストな拠点!
世界企業が見るこの街の魅力
改めて、日本イーライリリーはどのような会社でしょうか?
創業者が掲げた、誠実さ、卓越性の追求、人の尊重、この三つは、変わらぬ価値観として、リリーのどこの国の組織でも守られている文化です。
そして、先ほども申しましたが、イノベーション(革新)を旨とし、革新的な医薬品を特定の疾患分野にフォーカスし、糖尿病やがん、自己免疫疾患、認知症、中枢神経疾患などの治療を必要としている患者さんに最適な薬を届けたい、という想いを大切にしています。
そして、このイノベーションということをやっていこうとすると、どうしても人材の多様性が大切になってきます。そこで、日本イーライリリーは約20年も前から、この多様性ということに注力し、推進しています。そして、リリーの中でも、日本の組織は、性別や年齢、LGBTQなどの多様性とその理解・推進で先駆的な地域と自負しています。
さらに、世界の基準と比べても患者さん中心主義の徹底、ならびに、患者さんの視点に立った現場力、遂行力、実行力という点が、非常に大きな強みであると思っています。
多様性というお話がありましたが、日本の中では神戸は多様性に富んだ街であると言われたりしますが、街との相性はいかがですか?
神戸との親和性は強いと思っています。やはり神戸は国際的なコミュニティがありますし、空港もあり新幹線も通っていて交通の便が良いという点は、海外からの人間も出入りする我々のような外資系の企業からすると大きなメリットです。
また、インターナショナルスクールもありますし、ワークライフバランスも進んでいる。さらに、神戸市や兵庫県とも色々と共同で活動させて頂いていることを踏まえても、我々にとって神戸こそがベストな拠点だと感じています。
中心地は東京ですが、それでも神戸がベストでしょうか?
交通アクセスやワークライフバランスなど様々な要素を総合的に考慮してやはり神戸がベストだと思います。私たちは西神工場で作った薬を日本の国全体に届けているのですが、地理的にもメリットを感じています。
御社のようなグローバル企業からご覧になられて、神戸経済はいかがですか?
神戸、兵庫の将来の経済ということに関しては市長や知事も非常に注力をされています。当社も意見交換などの様々な行政との会合に参加させて頂いていますが、外資系多国籍企業が神戸で事業をするためには、どういった環境が必要なのかという議論をこれからも続けていくことが大切だと思います。
そういった意味では、まず神戸医療産業都市の取り組みがありますが、このような産官学連携の機会も、我々のような製薬業界、医療業界は経済的なポテンシャルを強く感じています。
また、日本でのポートフォリオを拡大するという意図で西神工場に70億円を投資したということも、地域の経済に貢献できると思います。また、このような投資を行うこと自体が、我々が会社として神戸に魅力と未来への確信を持っているから、と捉えて頂ければと思います。
日本イーライリリー株式会社
代表取締役社長
シモーネ トムセンさん
Simone Thomsen
1968年ドイツ生まれ。1997年ルートヴィヒスハーフェン・アム・ライン大学学士号取得(経営学・日本学専攻)。2002年イーライリリー・ドイツ入社。2008年イーライリリー・オーストリア ゼネラルマネージャー。2011年日本イーライリリー株式会社 マーケティング本部長。2014年イーライリリー・ドイツ・ハブ 社長 (ドイツ・オーストリア・スイスを統括)。2018年イーライリリー・アンド・カンパニー (米国インディアナポリス)リリーインターナショナル事業部バイスプレジデント-インターナショナル・マーケティング。2019年日本イーライリリー株式会代表取締役社長に就任
日本イーライリリー株式会社
神戸市中央区磯上通5-1-28
LILLY PLAZA ONE BLDG.
https://www.lilly.com/jp/