2024年
1月号
1月号
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第四回|
立体幾何学としての大工技術 ―規矩術模型
「大工と雀は軒で泣く」という言葉があります。屋根の軒廻りをきれいに納めるのに大工が苦労するさまを、軒先でチュンチュンと鳴く雀にかけたものです。
屋根は雨水を流すために斜めに傾いていますが、建物の隅に行くと、屋根を支える垂木を隅木に差し込む必要があります(写真中模型参照)。そのホゾ穴や切り口は水平方向にも垂直方向にも斜めになり複雑な立体幾何学になってしまいます。寺院や神社では屋根が反り上がっているためさらに大変になります。
とはいえ、きれいな屋根のラインをつくるにはホゾ穴を正確に墨付けする必要があります。そこで大工はこの難問を図法で解いていく技術を編み出しました。これが大工技術の真髄といわれる規矩術です。大工棟梁が習得すべき技の一つであり、また最大の技術的難関でもあります。棟梁たるもの手先が器用なだけでは不十分で頭の柔らかさも求められました。
この規矩術に欠かせないのが曲尺。直角三角形を持つので和算の勾股弦の関係を利用できます。また裏には表目の√2倍の目が振られていて、平の寸法を隅に移し替えるときに計算が不要になるなどの工夫が施されています。規矩術を曲尺使いの技というのはこのためです。
この規矩術の初歩を体感できるクイズボックスが模型の横にありますのでぜひチャレンジしてみてください。
(主任学芸員・坂本忠規)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30
(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/