11月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.12
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme 今日は路面電車で来ました。ちょっと旅気分で乗ったら、お客さんがたくさんいてびっくり。普通に町の人の足になってるんですね。
辻 井 そこは昔から変わらずですね。外観はだいぶ変わってますけど。僕は昔のデザインが好きです。
松 本 僕の思い出の中にある東京の路面電車はクリーム色だった。年に1度、車体を造花で飾りつけた「花電車」っていうのが走ってた。何かのお祝い事の時だろうね。可愛かったな。広告ばっかにしちゃうと電車がかわいそう。
meme 路面電車といえば、はっぴいえんど、『風街ろまん』です。
松 本 最後の見開きね。あの後、第1次オイルショックがきて、ジャケットがシングルしか作れなくなっちゃった。そういう時代のアルバムです。
meme 11月3日レコードの日に合わせて、アルバム3作がアナログ盤で再発売されます!赤盤とかクリア盤とか未発表音源ありとか、話題も特典も盛りだくさん。
松 本 特典とかもいいんだけどね、シンプルに、今回の音はいいよ。はっぴいえんどの音はアナログ盤が合ってる。
meme 独特の音質、ノイズの温かみ、ですね。プレイヤー、今ってわりと安く買えるんですよね。小さいの。
松 本 お弁当箱みたいなね(笑)。あれで聴いてるんだね(笑)。
辻 井 針を落とす感覚、懐かしいですね。
松 本 ちょっとコツがあるんだよね。最近、『社外取締役 島耕作』のレコードの持ち方が話題になってたよ(笑)。
辻 井 べたっと掴んでる(笑)。
松 本 正しく持ってほしかったね(笑)。傷ついたら聴けなくなっちゃうから、大事に扱ったよね。そういうところもよかったのかな。聞かずにインテリアにする人もいるでしょ。レコードっておもしろいよね。
meme レコードに持ち方があるってことすら知らない世代の子が、はっぴいえんど中心史観を語る。世代も国も、時空も超えてますね。
松 本 それはサブスクのおかげもあるんだけど、70年代にはっぴいえんどを聴いた人たちが、洋楽と変わらない音楽を作って歌い始めて、その歌をいいと思った人がまた作って。そうした流れが見えた子が増えてきたんだろうね。
僕たちは画期的で革命的な新しいことをやってたんだけど、今は想像するのが難しいだろうな。生まれたときから、当たり前にいろんな音楽があるから。当時CMで流れてた曲とかベストテンとか聞いてみるともっと見えてくると思う。
meme それは今だからできることですね。時代関係なく幅広く聴いて、より深く好きなアーティストを知ることができる。
松 本 でもお気に入りはレコードで聴く。お弁当箱のプレイヤーで(笑)。
当時流れていた音楽と僕たちが作る音楽って水と油。フォークソングの時代で、加藤和彦さん(ザ・フォーク・クルセダーズ)たちが作る優しい音楽が人気だった。メジャーのレコード会社は僕たちのレコードを出してくれなかった。後に作ったけど、商売になるってわかってからのこと。
URC(アングラ・レコード・クラブ)があったから、はっぴいえんどはレコードを出せたと思う。日本初のインディーズのレコード会社で、そこは才能ある若者たちの歌を世に出してくれた。はっぴいえんど、岡林信康。ちょっと音楽的に難しくなる。
meme 11月4日の鈴木茂さんとのトークイベント(タワーレコード渋谷店にて)では、その辺りの難しい話も聞けそうですか?
松 本 わからない(笑)。茂とは南佳孝のライブで会ったきり。隣でギター弾いてて、相変わらずいい音出すなと思って聞いてた。どんな話になるんだろね。