2023年
9月号

音楽をやってる理由は明確。 僕は人とひとつになりたい。|T-SQUARE 伊東 たけし さん

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人

デビュー45周年、50枚目のアルバム『VENTO DE FELICIDADE~しあわせの風~』をリリースした、インストゥルメンタル・バンド T-SQUARE。新旧メンバーによるレコーディングのこと、坂東慧さん(Dr)との現在のT-SQUAREについて、いま音楽について考えていること。伊東たけしさん(Sax, EWI)にお話を伺いました。

アルバムのこと

Q.45周年、50枚目のアルバム、おめでとうございます!
 数字に驚きますね。けど、メンバーも人数も時々変わるし、僕もいない時期があったし(笑)、人が変わると曲も変わるし。長くやってるけど、わりといつも新鮮ですよ(笑)。
 現在は坂東と2人ですが、コンサートやアルバム制作には新旧メンバー、他にもゲスト、サポートとして優秀なミュージシャンが集まって賑やかにやっています。

Q.新しいアルバムは、全曲が新旧メンバーによる書き下ろし。アレンジ、演奏、参加人数が多いですね。
 この体制になってよかったのは、多くの人が関わることで色彩感が生まれたことです。
 タイトルになっている『VENTO DE FELICIDADE~しあわせの風~』は、坂東が作曲。直球的なボサノバで、これまでにはちょっとない感じ。僕はフルートを吹いていますが、軽やかで、最後にはみんなでお祭りみたいに楽しくなってる。かと思えば、河野啓三(Key)松本圭司(Key)本田雅人(Sax)がそれぞれの個性で、かっこいい曲を作ってきてね。
 レコーディングがまた面白いの。それぞれ世界観がまったく違うから。そこが今のSQUAREらしさだと思う。

Q.『CLIMAX』は、映画『グランツーリスモ』日本語吹き替え版テーマ曲になりましたね。いよいよ今月公開です。
 決定の連絡が来たときは、ものすごく嬉しかった。
 『グランツーリスモ』はカーレースの話。実話です。ドライビングゲーム(Play Station)のトッププレイヤーが、本物のレースドライバーに挑戦する。そこに生まれる哀愁、ヒューマニズム、「人」の物語でもあります。
 疾走感のある曲でね、そこに日本的な情緒を表現している。河野らしさが、物語にぴったりだと思います。

Q.思い出すのは『F1 グランプリ』(フジテレビ)のテーマ曲『TRUTH』です。
 僕もそう。オープニングがCGでね、あの頃はそれが新しくて、あの曲はF1とマッチしてたよね。映像と合わさったのを初めて見たとき、「うわぁ〜!こんなことになるのか!」ってすごく感激した。ウインド・シンセの音がピッタリ合って、何もかもうまくいった曲。僕も大好きな曲です。
 『CLIMAX』は映画館で聴ける、もう楽しみで仕方がない。

楽器のこと

Q.日本のウインド・シンセの第1人者です。
新しいものが好きなんです(笑)。今は、早く空飛ぶクルマを運転したい(笑)
新しい楽器は大変でしたよ。デジタル楽器は何故音が出るか、それはコンピューターがあるからです。僕、コンピューターは専門外、ソフトも何もなくて、作った方も世界初なので、日本仕様としては何もかも行き届いていない。しかも高額。
それでも、何かおもしろいことができるかもしれない!という好奇心が勝ったんですね。結果、ウインド・シンセがSQUAREに新たな音楽をもたらしたのは間違いない。それと、「サントリーホワイト」のCMに起用されて、見たことのない楽器がテレビで流れ注目を浴びた。ラッキーでした。

Q.今では楽器店にも並んでいます。
「電子楽器は誰が吹いても同じ」という声もあった。変化する時には、必ずアンチがいるからね。
何十台も吹いたけど、相性も個性もあって、初期のウインドシンセは、そういう意味では魅力のある楽器でした。それに、なんかここ(胸に手)にきた。必死に練習して、僕なりの音の出し方を掴んで。付き合い方は、デジタルもアナログも同じです。僕は自分らしさが出せない楽器は愛せない。

Q.“自分らしさ”といえば、Saxは伊東さん、本田さん、宮崎隆睦さん。みなさん個性のある奏者ですね。
クセがありますね(笑)。基本的には自分の音色で歌えているなら、それでいいと思う。
僕と本田のSaxは違う。アプローチの仕方も違う。尊重し合うのが音楽。バトルじゃない。どんなミュージシャンでも、いいものを作りたくて演奏します。だからよくないものは回避する特性があると思うんですよ。お互いが理解していればいい方向に向かう。

Q.向かう方向は同じ?
そう信じる。じゃないと、本番一緒にやれないでしょ。本番は何が起こるかわからないんだから(笑)。でもそこがいいの。完璧なんてつまらない。
フジコ・ヘミングのピアノは何故いいのか。ここ(胸に手)で演奏しているからです。演奏を聴いて涙する人がいるのはここ(胸)です。ミスタッチは多いけど、そんなことは重要ではない。
「上手いですね」「見事ですね」より「音に心がある」って褒められたのが、僕はこれまでで1番嬉しかった。

Q.学校の音楽の時間、そんなふうに教わりたかったです。
僕は、先生から音楽を指導されるのが嫌いだったの。決められた「楽譜どおり」が嫌い。音楽は、国語、算数とは違う。自分で覚えるものだと思ってる。教則本なんかも嫌いで、とにかく楽器は吹いて覚える。
楽譜が嫌いってことじゃないよ。バッハの楽譜は幾何学模様みたいで美しい。音符がそこにある意味を考えて、自分なりにイメージして演奏したい。
バッハは好きでよく吹いてるんですよ。でも30分後にはスウィングしてたりする(笑)。アフタービートにアクセント入れてオリジナルバッハ(笑)

望んでいる音楽

Q.練習はいつしていますか?
目覚めてすぐに楽器を持ちます。寝起きに出す音が1番好き。いい音なの(笑)。寝ぼけ眼で、初めは優しい音色。出したい音を好きに出してる。途中スケール入れたり、メロディになっていったり。人の声って最高の楽器だと思う。人の息ね。強い弱い、太い細い。朝は自分の息を意識しながら、です。
それ以外の練習時間はムキになるのでよくないですよ。自分がグッとくる音をひたすら探してるとき、口の中が血だらけになることがある。…練習の仕方が間違ってるんです。最近ようやく気づいた(笑)

Q.音楽と“付き合ってる”感じですね。
自分が自由になるために音楽をやってる時期もあったけど、いま、理由は明確なの。人とひとつになりたいからです。女とか男とか年齢とか、職業も関係なく、みんながひとつになれるのが音楽。楽器をやらなくても、聴くだけでもね。僕は音楽家だからステージにいる。伝導体のつもりです。
本当にひとつになって、ステージと客席とが一緒にフワ〜〜ッと浮くような体験を何回かしたことがあってね、またそんな音楽ができたらいいなといつも思っています。技巧より、ひとつになること。僕にとって音楽ってそういうことです。

Q.神戸のライブハウス『チキンジョージ』とのお付き合いも長いです。
共に育ってきた感じがします。古い時代、キャバレーの2階にあった頃から。時代的にも面白かったし、みんな若かったし、ライブ後は何軒もはしごして、いつも楽しかった。神戸の街はよ〜く知っています(笑)
演奏も思いっきりやらせてもらって。それは今も変わらずです。神戸ではいい演奏ができるんですよ。今回のアルバム特典に、2022年のチキンジョージでのライブ動画を2曲収録しています。今年も行きます。神戸で会いましょう。

Photo.ReRa Photoworks 黒川 勇人


伊東たけし

1954年福岡市生まれ。大学在学中よりサックス・プレイヤーとして活動する傍ら、学生ビッグバンドではコンサート・マスターを務める。数々のコンテストで多くの賞を獲得。1977年にTHE SQUARE(現 T-SQUARE)に加入、プロデビューし、フロント・マンとして活躍。1991年に退団、ソロ・プレイヤーに専念。2000年にT-SQUARE復帰。
公式HPはこちら

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