3月号
ビアンヴニュ・大下さんと歩く
KOBECCO パンさんぽ|Prologue
対談
サ・マーシュ シェフ 西川 功晃さん
サ・マーシュ 西川 文さん
ビアンヴニュ シェフ 大下 尚志さん
まちのパン屋さんを訪ね歩く“パンさんぽ”、再開します!案内役は、『ブーランジェリー ビアンヴニュ』大下尚志さん。パンを焼きながら、若者への指導や国内外でのイベントに大忙しのシェフです。初回は、『サ・マーシュ』西川功晃シェフとマダム文さんとの特別対談。大下さんの一歩先を歩んできた西川さんの、いま考えていることとは?
大下
パン屋さんって行きます?
西川
行きますよ。気になったら買うし。
文
子どもたちも買ってくるから、うちには町のパン屋さんのパンが普通にあるよね。
西川
流行りとか好まれるフワフワ感とか、それで知ることができてるね。
大下
『ビゴの店』で働いてたときにね、ビゴ(フィリップ・ビゴ氏)さんが、当時出始めたソフト・フランスを「ソフトなフランスパンってなんだ!」って言ってたのが忘れられないんですよ(笑)。「フランスパンが柔らかいのはおかしいだろ!」って。
西川
本来フランスパンは硬いものだからね。でも結局ビゴさんも作ってた(笑)。
大下
そのうち明太子フランスなんていうのも生まれて(笑)。
西川
はじめはパンにチーズを入れるのも「おかしいだろ!」って言ってたよ。今ではチーズどころか、ベーコンを巻き込んだベーコン・エピも普通だけどね。
大下
新しい日本のフランスパンを生み出した人ですね。
西川
そして流行らせてそれが今では定番になってる。そこもすごいところ。
ソフトなフランスパンの話に戻るけど、フランスの柔らかめのパンといえばパン・ブリエ。「漁師さんが航海中に硬いバゲットばかり食べてるのはかわいそう」って、ブルターニュのパン屋さんが漁師さんのために作ったの。優しさから生まれたパンなの。
文
そういう進化っていいね。ビゴさんの話も進化だよね。
大下
進化してます?
西川
考えてることはあるよ。最近まわりの人に聞いたんだけど、パンは朝と昼は食べるけど、夜はほとんど食べないって言うの。「普段はそんなおしゃれな食卓じゃない」って。いまだにそうなのかって、それはさみしいなって思ってね。
文
「おしゃれ」はいい言葉だけど、もっと身近にあってほしいね。うちでは子どもが小さい頃は今よりもパパのパンを食べてたね。パン・デピス(フランスで食される香辛料のたっぷり入ったパン)とか、タルティーヌ風にお肉や野菜なんかを色々のせたりして。
大下
それおしゃれです!
西川
楽しいと思うんだよ。例えば、たまにはカレーにパンを合わせてもいいじゃない。パンツァネッラ(硬くなったパンを再利用したトスカーナのサラダ)もいいし、パン・デ・アホ(スペインのにんにくスープ)はパンを具材にしたスープ。これもいいでしょ。北欧のスモーブローもいいね。晩御飯にパンが登場する提案をもっとしなくちゃいけないんだよね、僕たちパン屋が。
“新しいものを提案したい”とは常に思っていて、今は、志をもってがんばっている若いパン屋の助けになりたい。来る日も来る日も朝から晩まで小さいパンを何個何個も作って利益を上げるって難しいこと。身体に良いものだけを使って焼いている僕たちのパンは「安心」「安全」しかも「おいしい」からね、夜も食べて欲しい。
大下
豊かな食の提案にもなりますね。
西川
そう。豊かでありたいよね。今って皆、忙しなく焦って生きてる気がする。カリフォルニアに行った時、車が人に合わせてゆっくり走ってるように感じたんだ。僕らは逆でしょ、人が車を待つ。そうじゃなくて、人の歩調に合わせたらいいのにね。そして高い安いだけじゃない、本当においしい食べ物の話をしたいね。
サ・マーシュにて