2月号
ベトナムと日本 外交関係樹立50周年
お互いに敬意を持って、Win-Winの関係を築こう
目覚ましい経済発展を遂げつつあるベトナム社会主義共和国。
「新しい関係を築く必要がある」と話すのは
ベトナムと30年にわたる長いお付き合いを続けてきた上田義朗さん。
野澤拓郎さんとともにレ フィー ホアン臨時総領事を訪ね、今後のあるべき方向性について意見交換した。
今までとは違う。新しい関係が築けそうな予感
上田 私が初めてベトナムを訪れたのは1994年、流通科学大学の学生8人を連れて中国華南からベトナムに入り、車で2千キロ以上を走破しました。1998年には1年ほどハノイの国民経済大学で現地企業や当時進出していた日本企業を調査しました。その後も合作映画を製作するなど、ベトナムとは長いお付き合いです。直近では2022年9月から10月にかけて訪ね、今までとは違う新しい日本とベトナムの関係が築けるのではないかなと感じました。
そこで本日はレ=フィー=ホアン臨時総領事とジェトロ神戸貿易情報センターの野澤拓郎所長にお集まりいただき、これからの方向性などお話しいただこうと思います。まずホアンさんから自己紹介をお願いします。
ホアン はじめまして。私はベトナム外務省に入り4年間、東京のベトナム大使館に赴任しました。現在は在大阪ベトナム臨時総領事を務めています。2009年には約1年間、神戸大学大学院博士課程で勉強して、神戸で生活していました。とても素敵な街で今でも興味と関心を持っています。
上田 続いて野澤さんから自己紹介とジェトロの紹介をお願いします。
野澤 私はずっとジェトロに勤め、海外は米国のワシントンDCに3年、オーストリアのウィーンに7年赴任した経験があります。神戸には昨年に赴任しました。千葉県出身ですので初めての関西です。
ジェトロは現在、世界76カ所に事務所を置き、その中で2つ以上の都市に事務所がある国は珍しく、東南アジアではベトナムのハノイとホーチミンだけです。ベトナムは日本にとって、またジェトロにとっても重要な国です。
兵庫・神戸には友好発展の要素がいっぱい詰まっている
上田 野澤さんのご専門の経済の観点から、今後のベトナムと日本、また神戸との関りについてご提案など頂きたいと思います。
野澤 ジェトロ神戸としてベトナムには3つの関心事があります。1つ目はベトナムのスタートアップ企業を神戸に誘致すること。2つ目は兵庫・神戸の食の産品をベトナムに輸出すること。神戸空港が国際化され直行便がハノイかホーチミンに飛べばツーリズムだけでなく食の輸出もできないかと考えています。3つ目が大学以上を卒業した外国の高度人材が日本企業に就職するための支援です。今後もコミュニケーションを取りながら進めていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
ホアン 3つの関心事はベトナムにとって本当にありがたいお話です。若者はスタートアップに興味を持っていますが、どうすればいいのかが分かりません。海外から力を貸していただけたら大きな弾みになります。ぜひ神戸ジェトロをはじめ、神戸市、兵庫県の経済関係組織から支援いただきたいと思います。人材に関しては、日本企業でインターンシップをさせていただけたら、ベトナム人は多くのことを身に付け、日本の企業にも貢献できるのではないでしょうか。ベトナムと日本両政府が人材の育成と交流促進に力を入れることによって両国の発展に貢献すると期待しています。日本の製品や食品はベトナムで大人気。例えば日本に来たベトナム人の大多数が神戸ビーフを食べたいと思っていることは間違いないです(笑)。神戸の産品を輸出するにあたっては「ベトナムタウン」があれば、そこから神戸のものをベトナムへ発信できます。どちらも港がある神戸市とハイフォン市は将来の物流拠点を見越して交流を促進し、さらに兵庫県とホーチミン市は共同で経済フォーラムを毎年開催しています。神戸市にはベトナム人協会があり、2年前には神戸市議会で日越友好議員連盟も立ち上げられました。兵庫県では日本ベトナム友好協会兵庫県連合会が長年にわたり熱心に友好発展に努めていただいています。兵庫・神戸にはベトナムの要素がいっぱい詰まっています。一つ一つをつなぎ、力を合わせれば両国の関係をもっと発展させることができると思います。
野澤 神戸港はカーボンニュートラル港を目指しています。神戸市とハイフォン市の港湾間の交流に関して、ベトナムがアジアでも一歩進んで、共にカーボンニュートラルを目指せたらいいなと思います。
上田 「ベトナムタウン」というお話がありましたが、兵庫県内の在留ベトナム人数は中国に続き第2位、神戸市では2位の韓国に次いで第3位です。神戸市には自然発生的にベトナム人コミュニティーがあります。交流を深める素地は出来上がっていますから、もう一歩進めて経済発展にもつなげる活動を一緒にやっていければいいですね。
暮らしやすくて働きやすく、ビジネスしやすい神戸をPR
野澤 関西には京都・大阪・神戸という3つの大きな都市があります。教えていただきたいのですが、その中でも神戸をスタートアップに選んでもらうにはどんな要素が必要だとお考えですか。
ホアン まず政策は大事です。そして神戸市の経済はもっと発展するとアピールする必要があります。またベトナム人にとって暮らしやすくて働きやすく、ビジネスしやすい環境づくりをしていること、ベトナム人コミュニティーがあり団結していることなどPRするといいと思います。海外でのスタートアップは手続きが難しいです。日本語も分かりませんから、法的な手続き支援があると安心です。できればベトナム語の資料などあればいいかなと思います。神戸市でスタートアップに成功しているベトナム人の力を借りることも大事。日本側の支援チームに参加させてもらえたらいいと思います。
野澤 日本には日本での起業を志す外国人企業家向けに6カ月のビザを発給する制度があり、ジェトロ神戸が神戸市から相談窓口を委託されています。英語か日本語でコンタクトを取っていただくとビザの手続きやその他必要な手続きについてのアドバイス、ビジネスプランの審査に向けた神戸大学の先生によるサポートなど行っています。まずハノイかホーチミンの事務所で構いませんので、遠慮なくコンタクトを取っていただけたらと思います。
ウィズコロナ政策で経済成長入管政策も緩和
上田 ベトナムの経済成長は目覚ましいものがありますね。
ホアン 政府が目標にした経済成長は6.5から7.0パーセントでしたが、IMFや世界銀行はそれ以上を見込んでいます。また2023年、ベトナムの人口は1億人を超えると予測されています。日本も1億の壁を突破口にして経済発展を遂げました。ベトナムも期待しているところです。新型コロナやロシアによるウクライナ侵攻により、日本やアメリカなどの分断されたサプライチェーンをどう強靭化していくのかが課題です。地理的に良い位置にあり、政治が安定し高い経済成長率のベトナムは条件が整っています。将来性を見込んで日本の企業にはぜひベトナムに進出していただきたいと思っています。
上田 コロナのロックダウンを早い時期に解除しましたね。それが経済成長に寄与したのではないでしょうか。
ホアン 確かに、ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策にチェンジしたころから大きな経済成長に向かいました。まだ新型コロナ感染はありますが、うまくコントロールできている状態です。街の中には観光客が戻り、製品の生産量が復活して貿易量が増え、さらに新規企業設立数も増加しています。
ベトナムの入管制度も緩和しました。例えば日本人はワクチン接種、PCR検査、医療申告なし、パスポートだけで入国できます。またコロナ直前に決定した政策を適用し、14日間滞在後は1カ月間再入国ができなかった制度も撤廃し、翌日にでも再入国していただけるようになりました。
上田 それはありがたい!
昨年行ったベトナムでは、日本とともに発展しようという強い意志がベトナム企業経営者の皆さんから伝わってきました。実際にこれからどうすればいいとお考えですか。
ホアン 今までは日本から投資しようという話ばかりでしたが、これからはベトナムからも日本へ進出する時代へと変わるでしょう。私が本国で外務省に提案したのは「ベトナム人のビジネスを支援して彼らが日本に投資する」。具体的な方法はまだ見つけていませんが可能性はすごくあると感じています。日本に住むベトナム人向けのビジネスのスタートアップから始めたり、ベトナムのIT企業が日本からの発注を受けてベトナムで生産して日本へ輸出したり…方法を考えています。
神戸でもマッチングを!ベトナムから飛んで来ます
上田 これまでに蓄積された技術と販路を持っている日本は人口が減少して慢性的な人手不足です。お互いに足りない部分を補い合っていけると思います。その際、日本側の「教えてあげる」という考え方を「パートナーとしてやっていこう」という姿勢に変えていくことが大事です。時代は変わってきているのですから考え方も変えなくてはいけません。ホアンさんからは言いにくいでしょうから、私から(笑)。
ホアン 私が考えていることを言っていただきました(笑)。
野澤 ジェトロのハノイ事務所で今年の11月、日本の大手企業とベトナムのスタートアップのオンライン・マッチングイベントを行いました。日本企業によるベトナムのスタートアップに対する関心が高まりつつあるようです。日越企業の連携実績を重ねることで関係は良い方向に向かいます。その下地は出来つつあると思います。
ホアン 最近はベトナムからビジネス訪問団が日本へたくさん来て調査を行い、日本企業と何かできないか、何かビジネスを始められないかを探しています。今後はベトナム企業と日本企業をマッチングさせる機会を神戸でもぜひ設けてください。興味を持ったらベトナム企業はすぐに飛んで来ます。自費で(笑)。お互いのためになるビジネスができる環境があることをどんどんPRしてください。
上田 今年は日本とベトナム外交関係樹立50周年です。今後はお互いに敬意を持ってWin︲Winの関係を築いていきたいですね。
本日はありがとうございました。
令和4年12月12日
在大阪ベトナム社会主義共和国
総領事館にて
レ フィー ホアン
在大阪ベトナム社会主義
共和国総領事館 臨時総領事
ベトナム、ハテイン省出身。1999年ハノイ財政学院、2006年静岡大学修士課程、2009年に神戸大学博士課程で学ぶ。2010年ベトナム外務省に入省。2011年駐日ベトナム大使館大使秘書、2015年ベトナム外務省北東アジア局日本課、2019年在大阪ベトナム総領事館首席領事。2022年在大阪ベトナム総領事館臨時総領事を務めた。
野澤 拓郎(のざわ たくろう)
独立行政法人
日本貿易振興機構(ジェトロ)神戸貿易情報センター所長
1997年日本貿易振興会(現:日本貿易振興機構)入会。 ジェトロ本部では、対日投資部、農林水産・食品部、企画部等にて勤務。 海外は2001〜2004年、在ワシントンDC 「米国戦略国際問題研究所(CSIS)」に 出向。 また、2015〜2021年は、オーストリア・ウィーン事務所に勤務。2021年9月より 現職。
上田 義朗(うえだ よしあき)
流通科学大学 商学部経営学科教授
日本ベトナム経済交流センター 副理事長
大学院博士課程修了後、日本証券経済研究所大阪研究所研究員を経て、1988年流通科学大学助教授から現職。そのほかに大阪商工会議所国際ビジネス委員会委員、外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事、合同会社TET代表社員・CEOなど「実学」研究と教育を実践中。