1月号
新春インタビュー|肩肘張らずにシンプルに、今日の空を面白がりたい
お天気キャスターとして活躍中の蓬莱大介さん。明石出身の蓬莱さんにとって神戸は遊び場だったとか。異常気象が騒がれる昨今、企業や自分の身を守るために必要なこと、気象に興味をもつことの面白さなどを伺いました。
2023年冬の天気予報
神戸の気候ってどう感じておられますか?
めちゃくちゃ暮らしやすい場所ですよね。明石もそうですが瀬戸内気候は穏やかで過ごしやすい。山も川も海もある。生活に便利で自然にも囲まれ、海の幸、山の幸、灘五郷の日本酒など美味しいものがあって、恵まれていると思います。
この2023年冬の神戸の予報をすると、ラニーニャ現象で多分寒いはず(取材時11月の予想)。冬は北風が吹くので日本海側の雪も中国山地までに全部降って、あとは冷たいからっ風だけが山を下ってくる六甲おろしに。だから、元旦も晴れる確率は、かなり高いんです。さて、結果はどうなっているでしょうか(笑)。
冬が寒いと温暖化のことを忘れてしまいそうですね。
100年前と比べると、神戸の平均気温は2度くらい上がっています。それは100年前の鹿児島や宮崎、熊本と同じぐらいの気候です。だけど、1年単位で見ればラニーニャ現象やエルニーニョ現象のような変化に左右されます。「温暖化なのに寒いじゃないか」と思ってしまいがちですが、長期目線・短期目線、別で考えなければなりません。
例えば「雪」。簡単に説明すると、温暖化で大気中の温度が高くなると海の温度も高くなって、どんどん水蒸気が湧き出します。空気中でいっぱいになると、気温が0度以上なら凝結して水滴になって雨、0度を下回ると凝固して雪になります。わずか1度の差で、水分を多く含んだベチャ雪は雨になります。近畿の日本海側で降っていたベチャ雪は雨に変わり、昔より降雪は少なく、一方で強い寒気がきた時は大雪と極端化しています。
神戸は梅雨の大雨にご用心
神戸の災害や水害についての危険性はどう考えたらよいのでしょうか?
普段は過ごしやすい神戸ですが、梅雨の時期は要注意です。何十年に1回、災害級の大雨になります。過去の災害を調べると、阪神間で起きた「昭和3大水害」では、川が氾濫し土砂崩れが起こり、多くの人が亡くなっています。
平成になってからも昭和3大水害に匹敵する大雨がありました。2018年の西日本豪雨です。神戸の水害の傾向としては、1年のうちで6月~8月頭の梅雨の時期に集中しています。梅雨前にはしっかり対策をとって、他の時期はゆっくり恵まれた自然環境を楽しめばいいわけです。
ここ数年、頻繁に「異常気象」という言葉を耳にしますが、本当に地球はおかしくなっているのでしょうか?
昔と比べて、雨の降り方が激しく気温の高い日が多いのは、観測データが示しています。1970年代に配備されたアメダス(※1)を見れば、いわゆる土砂降りの雨、道路が冠水するぐらいの1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が降る回数は、40年前と比べておよそ1.4倍です。確実に昔よりも雨が激しくなっています。
地球全体でみても産業革命前の170年程前と比べて、気温がおよそ1.14度上昇しています。ほんの数十年前と比べ、人生の中で気候の変化を感じるのは、よほどの事態。少なくとも過去2千年にはなかったことです。地球46億年の歴史でいえば、今より気温が高かった時期もあるし、もっと寒い時期もありましたが、今の気温変化は急上昇なんです。
指摘されている原因は、大気中の二酸化炭素濃度が、年々観測史上最高を更新していることです。二酸化炭素は、大気中の熱を閉じ込める性質がある温室効果ガスです。産業革命以降、石油・石炭・天然ガスを燃やしてエネルギーにして、我々の生活は便利になった。一方で二酸化炭素を短期間で大量に排出してきました。その二酸化炭素を光合成で吸って酸素を出してくれる森林は伐採されてきました。温暖化は最新の科学でも証明されている事実で、今は次の段階に来ています。
私たちはどうすればいいのでしょうか?
温暖化は急には止まりません。2023年もどこかで観測史上1位になる災害級の大雨に見舞われるリスクがあります。それを受け入れて適応策を考えなければなりません。同時に未来について、今から何ができるか、今のうちにやっておく取り組みが必要になります。
企業は、災害が起こった時に事業を継続するにはどうしたらいいのか、会社の中でBCP対策(※2)が必要です。会社をどう守るのか、従業員や顧客、地域の人のための備えが必要です。
一人一人が気をつけるべきことは、お決まりの言葉ですがハザードマップの確認です。例えば引っ越しをする時、駅から何分とか、学校やコンビニ、公園が近くにあるかとか便利な所は調べるのに、リスクはあまり見ないものです。近くの川は氾濫したことがあるのか、どれくらいの雨であふれるのか、避難所はどこか、そのルートに危険はないのか、ハザードマップに書いてあります。
「50年に一度の大雨」という言葉を耳にしたことがあると思います。災害が1回起ったら次は50年後じゃありません。その場所で50年に1度レベル、発生確率2%の珍しい現象のことです。異常気象頻発化の時代、災害リスクのある所では連続することもあります。
企業も同じです。工場や会社がどういう場所にあるのか。大雨や台風が来た時、従業員が安全に帰れるのか。会社が避難所代わりになれるのか。BCPやハザードマップを活用してください。特に1月は阪神・淡路大震災の追悼行事や報道も多く、防災意識が高まるタイミングなので良い機会だと思います。
天気の面白さを伝えたい
蓬莱さんが出されている本『空がおしえてくれること』(幻冬舎)が面白くて。気象って理科的なものだと思っていたのですが、ちょっと違って見えてきました。
理科的なものも、仕組みがわかると身近なものになります。単純に「空はなぜ青いか」「雷をなぜ稲妻と書くのか」とか知るだけで楽しくなります。雲にはいろんな呼び名があって、粒々の雲がいっぱい浮かんで魚のウロコみたいに見える「うろこ雲」も、手を伸ばして人差し指の第一関節、爪の大きさよりもはみ出るくらいになると、ヒツジの群れみたいに見える「ひつじ雲」に呼び名が変わります。
1月の空はシャッシャッとハケで掃いたような薄い雲がよく出ます。8千メートルくらいの高いところにできる「巻雲(けんうん)」です。「すじ雲」ともいい、鳥の羽のようにも見えます。冬の薄い雲は氷の粒でできていて、太陽の前にかかると、虹色に見えることがあります。「彩雲」といい、昔から縁起がいいといわれています。
雲を眺めていて動物などに見えると写真を撮るようにしているんです。この雲はこの瞬間だけで、一生出会えませんから。美術館に絵を見に行くのもいいけど、空はタダで見せてくれます。ふと足を止めて空を見上げると、今日しかない一日で何かできることないかなとか、家族でいる時間を大切にしようとか、空に気づかされます。
僕は、雨が降ると、大体1時間に何ミリぐらいの強さなのかなとか、実際にその体感が合っているのかなど調べるので、強い雨が降ると「これ、何ミリぐらいの雨やな」って楽しんでいます。
ずっと天気のことを考えているみたいですね。
そうですね。例えば、晴れの日が続いていて「明日も今日と同じく晴れるでしょう」って言うより、もう少し心に響く表現はないかって、ずっと探しています。同じ晴れの天気でも、誰かの特別な記念日だったりイベントの日だったりします。その天気をしっかりと心をこめて伝える、その気持ちを忘れてはいけないと思っています。お天気マークも大切ですが、お天気キャスターの話す予報にも耳を傾けてもらえたら嬉しいです。
2011年から天気キャスターを始め、13年目になります。今まで24時間天気のことを考えてきました。寝ていても「竜巻に会った夢」とか見るんですよ。竜巻に会ったことはないけど、本で読んで知っている仕組み「竜巻の中に入ったら気圧が低いから耳がキーンとなる」みたいな感覚を夢で体験するんです。
お天気キャスターは「10年で一人前」といわれています。とにかく最初の10年、がむしゃらに勉強して、いろんなことを知って、常にアンテナ張ってきました。最初の10年間、そのことだけを考えている時期って、僕は必要だったと思います。
2022年8月にコロナに感染して初めて10日間休みました。休んでも代わりに誰かがやってくれる。もっと言えば、窓の外では、勝手に晴れるし雨も降る。天気は予報をしなくても変化するんですよ。世の中から隔離されて、いなくなった感覚に襲われて、すごく凹みました。色々考えながら空を見ていたら、晴れたり雨が降ったりしている。「思い詰めて頑張らなくてももっとシンプルに空の変化を伝えられないか」って、諸行無常を感じたんです。
「自分に与えられた役割をしっかりとやればいい」って。手は抜かないけど、肩の力は抜いて。もう10年間やってきたんだし、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかって。コロナ明けに仕事に戻る時に「気持ちを入れ替えよう!」と、散髪に行って坊主頭にしたんです。肩ひじを張らなくなって、すごくシンプルに考えられるようになりましたね。
第2シリーズ始動ってことですね。何か新たにやりたいことはありますか?
お天気のことをもっと上手に喋れる人になりたいんですよ。お天気漫談じゃないけど、もっと天気の面白さとか、天気を通じて自分が感じた人生観や知っておくと生活に彩りある話とか。防災の知識が皆さんの生活に役立つように天気予報の見方や地球全体、自然の話を上手に話せる人になりたいというのが目標ですね。読売テレビで「かんさい情報ネットten.」や「情報ライブ ミヤネ屋」から天気をお伝えしていますが、講演などいろんなところで皆さんの顔を直接見ながら話をする機会が増えればいいなと思っています。
あと「かんさい情報ネットten.」の中で、2011年からずっと天気予報のイラストを描いてきたのが2500枚くらいあります。これを並べた展覧会を地元の明石かよく遊んだ神戸で開催したいですね。
※1 全国各地20キロ四方に配置された雨量計データが自動で気象庁に集まるシステム
※2 企業が緊急事態時に事業継続するための手段を決めておくこと
蓬莱 大介(ほうらい だいすけ)さん
~気象予報士・防災士・健康気象アドバイザー ~
1982年兵庫県明石市生まれ。2006年早稲田大学政治経済学部卒業。2009年第32回気象予報士試験に合格。2011年~読売テレビ気象キャスター。現在出演中のレギュラー番組(いずれも読売テレビ)は「かんさい情報ネット ten. 」「情報ライブ ミヤネ屋」「ウェークアップ」。コラム「空を見上げて(読売新聞 全国版)」連載中。著書「空がおしえてくれること(幻冬舎)」「クレヨン天気ずかん(主婦と生活社)」。