11月号
ゼクシオとわたせせいぞうが描くゴルフ 「はじまりの響き」
神戸に本社を置く住友ゴム工業株式会社。ダンロップブランドでも知られている世界的企業です。2019年秋に人気のゴルフクラブXXIO(ゼクシオ)が「飛びやスコアだけではないゴルフの魅力」を掲げリブランディング。イラストレーターのわたせせいぞう氏とコラボして、ゴルフの魅力を教えてくれています。コラボ企画に携わった平野 敦嗣さんにお話を伺いました。
―住友ゴム工業さんの創業地は神戸、日本でのゴルフ発祥の地も神戸。何か縁を感じるのですが?
住友ゴム工業の創業は1909年で、イギリスのタイヤメーカー、ダンロップ社の極東支店として、ここ神戸・春日野道に設立されました。最初は自転車のタイヤやチューブ、1913年から国産初の自動車用タイヤの生産を始めました。
ゴルフはイギリス発祥のスポーツで、日本初のゴルフコースは1903年、六甲山の上に今もある神戸ゴルフ倶楽部が開業されました。道具はもちろんボールも海外から輸入していたのですが、1930年に国産初のゴルフボールとテニスボールの製造を神戸で始めたのがスポーツ事業のスタートになります。
―ゼクシオは「日本で一番売れているゴルフクラブ」だそうですね。
ゼクシオの発売前は、アメリカブランド商品の代理店契約を結んで販売していましたが、1990年代後半には「自分たちで日本支社を作って販売するから住友さんとは契約しません」と言われまして。そうなるといきなりビジネスがゼロになるどころか、一生懸命育てて大きくしたブランドがライバルになるわけです。震災とのダブルパンチでスポーツ事業を身売りするような話も囁かれるほどのピンチに、なんとかしなければと自分たちの意思でゼロから作りあげてきたブランドが「ゼクシオ」です。2000年にデビューしました。ゴルフクラブブランドは、ロングセラーでも2年1サイクルでモデルチェンジをして3代6年が寿命といわれていたのを、ゼクシオは2000年のデビューからずっとお客様の支持をいただいています。それは、新しさを出しつつもファンを裏切らないベーシックな物作りに向き合ってきたからだと思っています。
社内の誰もが言うことですが「変えていいものと、変えちゃいけないものがある」ということ。最先端の素材を使って、より打ちやすく飛びやすくなるように、新しさを毎モデル追求していく一方で変えてはいけないものは、お客様が期待を寄せてくれる部分。ゼクシオという名前や基本機能コンセプトにつながる3つのキーワード「飛び」「打ちやすさ」「爽快な打球音」。ゼクシオが初代から変えずに残しているものです。
―2019年秋にリブランディングされましたね。
世の中これだけ変わっているんだから新しい価値を試そうと「飛びやスコアだけではないゴルフの魅力」を掲げリブランディングしました。
今は価値観や趣味が多様化しています。ゴルフもセグウェイに乗って楽しんだり、ツーサム(2人でプレイするスタイル)だったり、ゼクシオも個人の多様なゴルフの楽しみ方「体験価値」を提案するブランドに生まれ変わるためです。2019年10月にリブランディングを発表し、ムービーなどで「楽しむことが上手い人になりたい」という世界観を打ち出しましたが、コロナ禍に入ってしまいブランドメッセージが十分に浸透することはありませんでした。今回、再出発にあたり、漫画家・イラストレーターのわたせせいぞうさんとのコラボを思いついた訳です。
―わたせさんとのいきさつを教えてください
リブランディングの再始動に悩んでいた頃に出かけたのが、2021年9月に神戸阪急で開催されていた「わたせせいぞう展」。「これだ!」と思いました。わたせさんの世界観で「飛びやスコアだけではないゴルフの魅力」を描いてもらうと、どんな風になるのかなと。
僕の青春時代は、わたせさんの漫画作品『ハートカクテル』全盛の時でした。高校・大学とボート部で、淀川の川縁の合宿所に寝泊まりし、早朝から練習をして朝ご飯を食べて大学に通うだけの生活が年間200日くらいありました。合宿における唯一の娯楽が青年誌で、週刊モーニングの連載で見ていた『ハートカクテル』は憧れの世界でした。
それだけではないのです。僕より15歳くらい上でお世話になった先輩がいて、今はリタイアされ某ゴルフ場に再就職されましたが、スポーツ事業部でゴルフウェアを担当していた時に、わたせさんと一緒に仕事がしたいと商品企画の企画書まで作られていました。実現はしませんでしたが、先輩の思いを引き継いで形にしたいと思ったのも理由のひとつです。
企業タイアップができるか調べてみると、ゴルフ界では前例が無いうえ、過去にゴルフレッスンの本を書かれていて、師匠として登場するのが田原紘(たはら ひろし)プロ(2021年9月にご逝去)。わたせさんにゴルフ指導をされていました。初代ゼクシオの発売当初ゼクシオを使ってくれていた数少ないプロゴルファーでプロモーションビデオにも出演してもらったことがあり、ご縁を感じました。
―今回の企画ではアニメーションまであって、すごく体感できますね
最初に完成したメインイラストを社内で見せたところ、何かメッセージがあった方がこちらの意図が伝わるのではないかと、メインコピー、ボディテキストがつきました。
絵の世界観をわたせさんからお聞きし、それを文字にするのは我々サイド。ゴルファーマインドをよく理解していて、コピーが書けて、夜は神戸でバーを3時頃まで営業してそのまま早朝ゴルフに出かけるようなパワフルなクリエイティブ・ディレクターにご協力頂き、一緒に作り上げました。僕たちが伝えたかった世界観が、より伝わるようになったと思います。
大切な仲間との語り合いや、スコアの話だけではなく誰とどのように時間を過ごしたか、笑顔が絶えない時間に仲間との絆を確かめ合う。コロナ禍でゴルファーが増えているのは、まさにそこで、密を避けて、体のコンタクトもないスポーツでありながら、人との繋がりを再確認できるという要素がゴルフにはあるのかなと。
物語「はじまりの響き」は、ゼクシオの打球音につながるストーリーです。この話に登場する当社の道具に関しては、全て現物をわたせさんご自身があらゆる角度から見て緻密に書いてくださっています。クラブも過去のシーンは当時の物を、現在のシーンは最新モデル。レディースはちょっと色が明るい面があるなど、注目してみてください。アニメーションで流れるショット音は、もちろん実際の打球音。ゴルフをしたことがない人も爽快さを感じてもらえるはずです。
ゴルフコースは一応架空の設定ですが、今回のテーマに合わせて難易度よりも景色の良い日本のコースを参考に描かれています。そのうちひとつには、以前にわたせさんとの商品企画を進めていた先輩が現在勤めているコースをモデルにしてくださいました。ティーグラウンドのティマークが白鳥になっているので、わかる人も多いのではないでしょうか。
―今後の展開などお聞かせください。
わたせさんの作品を見て「こんなふうにゴルフを楽しみたいな」と感じた人が、実際に体験できるようなゴルフ旅行を企画しています。名門コースというより、行って思い出に残るようなコースとグルメ・観光を合わせたツアーでゼクシオを使って爽快さを体験してもらいたいと思っています。
text. 塚本 隆司
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