11月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.24 中山 優馬さん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第24回は、俳優、歌手の中山優馬(なかやま・ゆうま)さん。
自分ではない人生を生きるのが俳優…
役者に必要なのは想像力
かつてない〝難舞台〟
「一つの舞台を作りあげるためには俳優だけでは何もできません。演出家、音楽家、衣装、照明など大勢のスタッフ。そして何よりも、僕たちのお芝居を見に来てくれるお客様がいて初めて完成するのが舞台だと思っています」
所属するジャニーズのメンバーたちとの舞台での共演はもちろん、近年は〝他流試合〟に挑むかのように、歌舞伎や、劇団☆新感線などジャンルを超えた表現者たちと共に舞台に立つ機会が増えてきた。
11月3日から大阪で上演される新作舞台も、そんな他流試合と呼んでいいだろうか。
「いえいえ。実は次に僕が戦う相手は、共演者や演出家の方たちではなく、〝この演劇そのもの〟だと思っています。これが、かなりの強敵なんですよ」と困惑した表情を浮かべた。
俳優で演出家、池田純矢が主宰する舞台公演「エン※ゲキ」シリーズの第6弾。
タイトルは「即興音楽舞踏劇『砂の城』」。その主演に抜擢されたのだ。
「このシリーズでは第4、5弾の舞台を実際に観劇していて、ずっと興味を持っていました。シリーズのすべての脚本、演出を務めてきた池田さんとは俳優として共演もしていて、いつか一緒に舞台をやろうと、2年半ほど前から約束していたんですよ」と明かす。
新作は、このタイトル通り、歌も踊りも即興で演じるというのだが…。
「芝居の中で僕たち役者は、ピアノの伴奏に合わせて歌を歌い、踊るのですが、歌詞も踊りも基本的には自由なんです。ピアノの伴奏さえ、僕たち役者の歌でリードすることも許されている。でも、即興で自由に演じられるだけに、役者の技術、力量が問われる。何度も練習を繰り返していますが、難しい。本当に〝強敵〟なんですよ」
なぜ、「池田さんは演出家として、自分を主演に抜擢したのだろうか?」。その理由は明白だった。
「この強敵を倒すには?何カ月も費やし、必死で戦い続けないと絶対に勝てない。自分と一緒に戦ってくれないか?こんな芝居へ懸ける彼の情熱を知っているから、引き受けないわけにはいかないでしょう」
今回の舞台は、脚本も読まずに出演を決めたという。それは異例のことだった。
「これまで出演依頼を受けた場合、僕はその脚本をじっくりと読んだうえで、出演するかどうかを決めているのですが、彼から〝次の舞台に出てほしい〟と依頼されたときは、『出ます!』と即答していました。まだ、脚本もなく、どんなお芝居かも分からない状況だったのですが…」と打ち明けた。
初挑戦づくし
舞台は、大海の孤島アミリア。街外れの農地で暮らすテオ(中山優馬)は、幼馴染で領主の娘、エウリデュケ(夏川アサ)との婚礼の日を迎え、人生の門出に立っていた…。
「今、舞台本番に向け、クラシック・バレエを猛練習中なんです。即興で踊りも自由なのですが、基本の形はあり、それがクラシックバレエ。体幹だけでなく手先、足先の動きまで大切で。これが本当に難しい」と語る。
12歳でジャニーズ事務所に入り、トップアイドルとしてステージの中央で歌い踊っていたのだから、踊りは得意なはずでは?
「そう想像するでしょう。それが、これまで僕が踊っていたダンスとはまったく趣が違って。別物なんですよ」と苦笑した。
即興の演技に歌、そして、これまで未経験で最高難度のテクニックが求められるクラシック・バレエ…。今回の舞台がいかに〝難攻不落の強敵〟なのかが想像できる。
「大海原へ泳ぎだすような舞台。そう考えています。俳優が泳ぐ方向を間違うと遭難する危険もある。でも、遭難しないように、途中、ところどころにブイが置かれてある。つまり即興劇の最低限のルール、規範があり、それがブイです。俳優は即興で演じていて、途中、どの方向へ泳ぐのかが分からなくなったとき。このブイに向かえばいい。そしてまた、次のブイへ…。ブイを頼りに泳ぎ進んでいくと、目的の地へと近づいていくことができるようになっているんです」
舞台の演出意図を、演じ手の立場から冷静に分析する。この理路整然とした解説はさらに続いた。
「芝居の途中で目指すこのブイですが、その地点ごとに複数置かれてある。つまり俳優には選択肢がいくつもある。ゴールまで、この選択肢が複数あるブイが、計数十地点に設置されているんですよ」
これから挑もうとしている即興劇のハードルは想像以上に高そうだ。
演技を極めるために…
18歳のときにCDシングルで ソロデビューし、今年10周年を迎えた。
俳優を意識し始めたのは15歳の頃だという。きっかけは主演を務めた連続ドラマ「恋して悪魔~ヴァンパイア☆ボーイ~」(2009年、関西テレビ系で放送)。
「自分の演技を振り返ったとき。プラン通りに演技ができていない。表現が思うように具現化できていない…。そんな反省点ばかりで、悔しくて…」
演技を極めたい―このとき、そう決意していた。
以来、舞台に映画、ドラマなど俳優としての活動に精力的にエネルギーを注いできた。
そのストイックさは、多くの映画監督や演出家たちも認めるところだ。
今回の演出家、池田さんは芝居に取り組む彼の真摯な姿勢をそばで見てきてこう評する。
「こんなにいい俳優はなかなかいない。間違いなく、これからの日本の演劇界を背負って立つ逸材です」と。
作品ごとに違ったアプローチで取り組む役作りの手法は凄まじい。
「役者に必要なのは想像力」。これが持論だ。
4年前のドラマ「北斗―ある殺人者の回心―」(WOWOW)では、主演を演じるために12キロもの減量に挑んでいる。
「減量はオーディションのときに出された条件でしたからね。普段の体重ですか?約61キロですよ」。さらりと語るが、体重を40キロ代まで落とし、演技を続けていたのだ。
だが、彼にとっては激しい減量も、役作りの上では一つの要素に過ぎない。
「撮影期間中は持っている物をほぼ整理しました。スマホも持ちませんでした。誰とも連絡もできないし、現場でも誰とも話さないようにしていましたし…」と打ち明けた。
望んだロングラン公演
3日に開幕する大阪での舞台公演は13日まで続く。計14回の長丁場だ。
「故郷の大阪で14回も公演できることがうれしくて。即興劇ですから、一回、一回すべて違ったお芝居になるでしょう。同じ日の昼公演と夜公演でも、まったく違った内容になるはずです」
コロナ禍、入念に準備をしていた舞台公演などが延期や中止に追い込まれてきた。それだけにこの舞台に懸ける思いはひとしおだ。
「間違いなく、僕がこれまで演じてきた中でも、最も難しい舞台になるでしょうね」
こう語るとさらに表情を引き締めた。
「お客さんたちは貴重な自分の時間やお金を、僕たちが演じるこの舞台を見るために使ってくれる。僕たち俳優は、その期待にこたえることができなければ、舞台に立つ資格はない。そう思っています」
これまで見せたことのない顔、声、そしてこれまで俳優として培ってきた最高峰の芝居を見せる覚悟を全身に漲らせる。
「俳優の魅力?自分ではない他の人の人生を、その瞬間、生きることができる。なかなかできない貴重な体験だと思っています」
これまで何十通りの自分ではない人生を歩んできただろうか。
「僕の演技を見てきてくれるお客さんたちの期待を絶対に裏切るわけにはいかない。でも、いい意味で、そんな期待を裏切りたい…とも思っています」
15歳で決めた俳優への道―。ストイックに追求してきた集大成の演技が、最高難易度の舞台の上で試されようとしている。
text. 戸津井 康之
中山 優馬(なかやま ゆうま)
1994年1月13日 大阪府出身
2006年ジャニーズ事務所に入所。08年NHK連続テレビドラマ「バッテリー」でドラマ初出演にして初主演を務める。17年にはドラマ「北斗―ある殺人者の回心―」に主演、バンフ・ワールド・メディア・フェスティバルでロッキー賞を受賞。多数の映画、ドラマ、舞台に出演し、活躍している。近年の主な出演作品に【舞台】「ダディ」(22)、「ロック☆オペラ『The Pandemonium Rock Show』」、「『蜜蜂と遠雷』~ひかりを聴け~」(21)、「ゲルニカ」(20)、「偽義経冥界歌」(20,19)、「Endless SHOCK」(19,18)【ドラマ】「全力!クリーナーズ」(ABC-22) 、「ペットドクター花咲万太郎の事件カルテ」(BS-TBS-22)、「さすらい署長 風間昭平」(TX-22)、「アンラッキーガール! 第7回」(YTV・NTV-21)、 「トッカイ」―不良債権特別回収部―(wowow-21)【映画】「189(イチハチキュー)」(21)、「曇天に笑う」(18)など。