6月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第132回
後発医薬品(ジェネリック医薬品)の推進と現状について
─後発医薬品とはどのようなものですか。
三浦 先に開発・販売されてきた先発医薬品(新薬)に対し、先発医薬品の特許が切れたあとに同じ有効成分をもつ同等の原薬を使って製造された医薬品のことです。ジェネリック医薬品ともよばれ、先発医薬品より安い価格で販売されています。
─なぜ価格が安いのですか。
三浦 先発医薬品は開発のために何年もかけて試験をする必要があり、長い期間を要して結果的に莫大な費用がかかります。一方、後発医薬品は先発医薬品のように厳しい試験を必要とせず、短期間にコストを抑えて製造できます。また、原薬の約6割は中国、インド、韓国などから調達されています。
─でも「安かろう悪かろう」じゃないかと心配になります。
三浦 確かに、先発医薬品と遜色ない効果を持つ一流の後発医薬品がある一方で、効果の劣るものも存在します。厚生労働省は後発医薬品について「先発医薬品と同等」という表現を使っていますが、実際は全く同じものではなく、製造管理や品質管理はそれぞれの後発医薬品メーカー任せになっているのが現状です。後発医薬品に変更したら、先発医薬品を飲んでもらっている時には経験したことのない副作用が現れたという医師もいます。そもそも先発医薬品と違い、後発医薬品メーカーからの情報提供が少ないため、安全性に関して不信感を抱いている医師も少なくなく、副作用のデータ蓄積もほとんどされていません。
─それでは積極的に後発医薬品を処方しづらくなりますね。
三浦 でも、すべての後発医薬品の品質が劣る訳ではなく、逆に味や形状を変えるといった工夫により先発医薬品よりも飲みやすい薬もあります。先発・後発どちらを選ぶかは、主治医の判断や薬剤師の助言を参考に、最終的に患者さん自身が判断することが重要です。
─最近、後発医薬品が不足していると聞きますが。
三浦 後発医薬品を中心に薬の供給体制に支障が起きているのが原因ですが、その背景には後発医薬品メーカーで相次いだ不祥事があります。大手を含む何社かの後発医薬品メーカーが、国が承認していない工程で製造していたとして業務停止命令を受け、その後、業界団体の自主点検でも複数のメーカーで同様の問題が発覚し、結果的に後発医薬品の製造中止により医薬品の欠品が相次ぎ、出荷調整も余儀なくされました。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で海外からの原薬の輸入が滞っているのも一因でしょう。
─国は後発医薬品に対して、どのように考えているのですか。
三浦 政府は医療費の増大が見込まれる中で国民皆保険制度を維持するために、医療費を抑制したいと考えています。また、超高齢化社会が進行するにつれて医療費が国や健康保険組合の財政をひっ迫させている現状があります。これらを少しでも解消させる手段として、全医療費の約4分の1にものぼる薬剤費に着目し、国を挙げて安価な後発医薬品の使用促進を推奨しているという訳です。
─どのような使用促進策をおこなっているのでしょうか。
三浦 まず、数量シェア(使用割合)を重視した目標設定です。厚生労働省は2007年、2012年度までに後発医薬品の数量シェアを30%以上にする数値目標を設定し、その後、段階的に数値目標を引き上げ、後発医薬品の使用促進のためのロードマップまで策定して、2018年度までには60%以上、2020年月までに80%以上と目標が設定されています。協会けんぽのデータでは2021年6月時点で80.5%と目標を達成しています(図1)。また、都道府県別でも2023年度中に80%以上の後発医薬品の数量シェアになるように目標が設定され、兵庫県のほか19府県はまだ未達ながらあと一歩という状況で、全都道府県での目標達成は時間の問題とされています(図2)。
─数量シェア以外にどのような促進策がありますか。
三浦 医療機関に対しての診療報酬上のインセンティブ付与です。2008年には処方せんの様式を後発医薬品の処方を意識したものに変更し、薬局に対しては後発医薬品調剤体制加算(調剤した後発医薬品への使用割合に応じた調剤基本料への加算点数)が導入されました。また、その後の診療報酬改定で、診療所や病院において後発品の院内処方に対しての後発医薬品使用体制加算(後発品への置換率を点数評価)や院外処方に対しての一般名処方加算(一般名で処方すると薬局で後発医薬品に変更して調剤が可能)が導入され、これらが後発医薬品の普及を後押ししたものと考えられます(図3・4)。
─健康保険組合からも後発医薬品への変更を勧めるようなハガキが届きます。
三浦 健康保険組合など保険者は組合員の保険料で運営されています。昨今、高齢者医療制度への拠出金等が増額され、保険者はどこも赤字状態だといわれています。組合員の保険料を上げるのはもう限界にきているでしょうから、後発医薬品の使用を推奨して少しでも健康保険組合の負担を軽減するための方策と考えられます。
─私たちも上手に後発医薬品を選んでいきたいですね。
三浦 繰り返しになりますが、全ての後発医薬品の品質が悪く安心ではないという訳ではありません。良質で効能・効果も確かで安心して服用できる後発医薬品もたくさんあります。納得して服用するためにもメリットとデメリットを理解し、疑問や心配なことがあれば医師や薬剤師に遠慮なく相談しましょう。