1月号
有馬温泉史略 第一席|有馬温泉の起源とは?神話の世界から
語り調子でザッと読み流す、湯の街有馬のヒストリー。
有馬温泉の起源とは?神話の世界から
日本三古湯の一角である有馬温泉でございますが、意外にもその歴史を概略的にまとめた最近の文献資料はあまり多くないもので、そこでこのたび僭越ながら、本誌編集部が有馬温泉の歴史を連載で紹介することにしましたので、しばしお付き合い願います。
さて、温泉と言えば火山がつきものというイメージですが、関西には活火山がない。なのに熱い湯が涌くのはなんじゃラホイ。実は有馬温泉というのは火山性温泉ではなく、珍しいプレート性温泉というやつで、地下60kmでプレートに熱せられた水が断層の割れ目を伝って沸き出でたようなんです。プレートは血の気が多い男どもみたいなもので、基本的に若いほど熱いものだそうでして、アチアチの有馬のプレートは世界一若いんだとか。といっても2千5百万年前ですけどね。ちなみに火山や火山性温泉の多い九州のプレートは5千万年前ですから、それと比べりゃ確かに若いんでしょうが。
それでもホモ・サピエンスの誕生が20万年前とか30万年前とかいわれていますから、そのずーと前から有馬温泉の湯を沸かすプレートがあった訳で、当然その頃から生きていた人はいないし、記録もないのでわかりませんが、有馬温泉は我々よりもパイセンだという可能性は大いにある訳ですよ、みなさん。
じゃ、開湯、つまり人に発見されたのはいつになるかというと、これまた本当かどうかは知る由もありませんが、有馬神社の古刹、温泉寺の縁起にこんな話があるんです。
それはそれは神代の昔、大己貴命と少彦名命が人々を病から救うべく、薬草を探して全国をめぐっていたところ、有馬の地にやって来たら、傷ついた三羽の烏が湧き出ている赤い水を浴びてケガを癒やしているのを見つけ、それが温泉であることと発見いたしました、とさ。
いわゆる「開湯伝説」というんでしょうか、鳥獣が温泉発見の手がかりだったというこの手の話は実は有馬だけじゃなくて、日本津々浦々の温泉地にあるんですね。で、その動物をちょっと整理してみると面白い。
まずサギ。オレオレじゃないですよ、鷺ね。これは下呂、和倉、山中、道後など有名な温泉地に多い。白鷺とかイメージが良いからでしょうか。ほかにも山形の上山と温海が鶴、新潟の岩室は雁、岩手の鶯宿は文字通り鶯、そうそう、城崎はコウノトリ。鳥類だけなく、長野の鹿教湯なんて鹿が教えた湯と書き、島根の温泉津はたぬき、山口の湯田はきつねと、身近な哺乳類もいるんです。
で、有馬は烏。鷺や鶴と比べて地味で、たぬきやきつねと同じように人間との距離が近い。一方で烏は古来、吉兆を示す鳥であったそうで、八咫烏は素戔嗚尊のお仕えですし、神様と深い繋がりがあるという面も持ち合わせております。つまり身近でありながら、神聖。そんなアンビバレントな感じって、人々を魅了しちゃいますよね、ツンデレ女子が男子たちのハートを掴んじゃうようにね。もしかしたら有馬のそんな側面を、伝説で烏というキャラに投影させたのかもしれません。
そして発見した神様も錚々たるメンツで、大己貴命はご存じ、大黒天さま。出雲神社のご祭神で、医療やまじないの法を定めた神とされております。一方の少彦名命は大己貴命に協力して国づくりをおこなった神様で、大阪・道修町の少彦名神社は日本医薬総鎮守でございます。つまり、医を司る神々が見つけた湯ですから、いかにも体に良さそうじゃないですか。
そんな伝説に彩られた有馬へはその後、険しい山道をものともせず、多くの人たちがはるばるやって来るようになります。烏に縁があるだけに、わざわざクロウしても入る価値があったんでしょうな。