10月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.12 作家 筒井 康隆さん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第12回は作家、筒井康隆さん。
〝SFの巨匠〟が伝える現代への警鐘
映画青年でもあった文学青年
かつて日本人が誰も読んだことのなかったSF文学を日本に根付かせ、確固たるジャンルとして築きあげた巨匠。9月に87歳となったが、その創作意欲は衰えを知らない。コロナ禍とあり、今回はリモートとなるメール取材での特別編。映画への思い、新作へ懸ける飽くなき創作魂、現代社会へ投げかける警鐘、そして未来への展望とは…。
―まずは、新書版の新作『活劇映画と家族』について。筒井さんは古今東西の映画への造詣が深いことで知られていますが、どういう経緯からこのテーマで書くことになったのでしょうか?
筒井 これは現代新書から『愛妻物語』をテーマに何か書けと言われ、お断りしましたところ、ではどんなテーマでなら書けるのかと問われ、今までに書いていないものは、書きたいものはといろいろ考えた末、この『活劇映画と家族』に思い至ったという次第です。
(戸津井康之)
筒井 康隆(ツツイ ヤスタカ)
1934年大阪市に生まれる。57年同志社大学文学部卒業。作家。65年にSF小説『東海道戦争』を処女出版。以後『家族八景』『大いなる助走』などで人気を集める。80年代は前衛的な方向に転じ『虚人たち』で泉鏡花賞を受賞。『夢の木坂分岐点』(谷崎潤一郎賞受賞)、『朝のガスパール』(日本SF大賞)、『わたしのグランパ』(読売文学賞)、『モナドの領域』(毎日芸術賞)、2002年に紫綬褒章、2010年に菊池寛賞を受章。主な作品に『アフリカの爆弾』『時をかける少女』『虚航船団』『残像に口紅を』『文学部唯野教授』『誰にもわかるハイデガー』『世界はゴ冗談』などがある。