2021年
10月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第124回

カテゴリ:医療関係

感染症パンデミックを踏まえた地域医療構想

兵庫県医師会医政研究委員会副委員長
岩永メディカルクリニック 院長
岩永 康裕 先生

─地域医療構想とは何ですか。

岩永 すべての団塊世代が75歳以上となる2025年の医療・介護のニーズは、都市部では高齢者の急激な増加により増大する一方で、地方では過疎化が進んで縮小すると予測されます。地域医療構想とは都道府県医療計画の一部で、2025年に向けて効率的な医療供給体制を築くために、それぞれの構想区域における将来の医療需要を予測し、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとに必要となる病床数を推計して、病床の機能分化と連携を進めるための構想です(図1)。各医療機関の自主的な取り組みや医療機関相互の協議を通じて、地域内での効率的な医療提供体制を目指しています。

(図1)地域医療構想

─病床の調整は順調に進行しているのでしょうか。

岩永 2015年にまとめられた「地域医療構想ガイドライン」に基づき効率的な医療供給体制を築くための機能区分ごとの必要となる病床数を推計すると、2025年の見込み数は約121.8万床となり、2015年時点の約125.1万床から3.3万床ほど減少すると予測されています。ところが、2018年の時点の病床数は約124.6万床と0.5万床ほどしか減少しておらず、思った以上に病床削減が進まなかったのです。そこで、厚生労働省は地域医療構想の実現に向け公立・公的病院の見直しを優先させることにして、2019年9月に「再編・統合等に向けた再検証が必要な公立・公的医療機関」として424病院の実名を公表しました。その数は全国の公立・公的病院の約30%にあたり、兵庫県も15病院がリストアップされましたが、これらの病院に2020年9月までに具体的対応方針を示すように要請しました。

─厚労省は実名公表までして公立・公的病院に病床削減など効率化を求めたのですね。

岩永 ところがその直後、ご存じの通り新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、名指しされた424病院のうちいくつかの医療機関が指定感染症機関やそのバックアップ機関として対応、地域で活躍したのです。

─もしコロナ前に病床が削減されていたら、もっと大変なことになっていたかもしれませんね。

岩永 再編・統廃合の判断基準は5疾患5事業でしたが、実はここに「新興感染症対策」は入ってなかったのです。今回のコロナ禍を踏まえて、2024年度~2029年度の第8次医療計画では「新興感染症対策」を6事業目として位置づけ、再編・統廃合に向けた再検証の期限を延期することになりました(図2)。

公立・公的病院の「再検証」における新型コロナウイルス感染症の影響
(図2)公立・公的病院の「再検証」における新型コロナウイルス感染症の影響

─実際に公立・公的病院ではどれくらいコロナ患者を受け入れたのでしょう。

岩永 地域医療構想の構想区域における人口規模別の患者受入可能医療機関の状況(図3)を見てみましょう。人口規模100万人以上の地域では民間病院の割合が半分近くありますが、20万人以上100万人未満では公的病院、20万人未満では公立病院の占める割合が大きくなっています。つまり、地方部では公立・公的病院の果たす役割が大きいことがわかります。

(図3)構想区域の人口規模別公立・公的等・民間別の新型コロナ患者受入可能医療機関の割合
出典:厚生労働省
※小数点以下を四捨五入しているため合計しても100%にならない場合あり

─公立・公的病院は大病院というイメージがありますが、規模が大きい病院でたくさん新型コロナの患者を受け入れているのですね。

岩永 確かに病床規模が大きいほど、新型コロナの患者の受入可能医療機関の割合も実際の受入実績も大きくなる傾向があります。しかし一方で、100床未満の受入可能病院のうち半数以上が実際に患者を受け入れ、医師や看護師の少ないところでも多く受け入れています。

─新型コロナ患者を受け入れている医療機関ではどのような問題が起きていますか。

岩永 小規模で余力がなくても患者を受け入れざるを得ず、医療従事者の疲弊が大きな問題になっています。感染患者受け入れのために一般病棟の縮小や閉鎖、さらに受診控えや風評被害などもあり一般診療が低調で病院経営の悪化も深刻です。また、手術の延期や外来制限など他の疾病の治療を制限したことにより患者さんの病状悪化という事態も発生しています。後方支援医療機関の不足も問題で、コロナは回復したけれど合併症の治療が必要な患者を転院させることができず、新規感染患者を受け入れられないことも病床の逼迫を助長しています。

─感染症パンデミックを踏まえた地域医療構想に重要なことは何でしょうか。

岩永 ウィズコロナやポストコロナの時代でも、人口減少や高齢化の進行により「少ない担い手で多くの高齢者を支えなければならない」という中長期的課題は不変である以上、地域医療構想を引き続き進めて「効率」的な医療体制を構築していく必要があります。一方で感染拡大時の短期的な医療需要に対応できるよう、受入候補医療機関、感染患者の入院する場所、医師や看護師などのマンパワー、感染防護具や医療資機材をあらかじめ準備し「余力」を確保すべきです。そして感染拡大時の医療機関間の連携や役割分担、例えば感染症対応と一般診療対応の役割分担や応援職員派遣などの連携にかかわる協議を実施しておくことも重要です。「効率」と「余力」という相反することの両立を、複数の医療機関で調整しつつおこなうことは大変難しく、強力なリーダーシップが必要ではないかと思います。

─医師会はどのような役割を担うのでしょうか。

岩永 地域医療構想では、必要な議論・調整は「地域医療構想調整会議」で行うことになっています。この会議が今後リーダーシップを発揮できるようにすることが重要ですが、その議長には医師会の代表が想定されていますので、地域医師会が主導的役割を果たすことになるでしょう。医師会は会議のメンバーである公立・公的病院と民間病院間、そして行政との橋渡し役として適任ですので、医師会が中心となって人と組織のネットワークを構築し、調整会議が円滑に進めば良いですね。

兵庫県医師会医政研究委員会副委員長
岩永メディカルクリニック 院長
岩永 康裕 先生
記事内容は取材日(2021年8月28日)時点での情報に基づいています。新型コロナウイルスに関する情報は日々変化しています。最新の情報は各自ご確認ください。

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