3月号
歩きたくなるまちづくりのために
点と点をつなぐ グランドデザインを描こう
都心・三宮再整備が神戸三宮阪急ビルのオープンを機に動き始める。三宮センター街「マック」「毛利マーク」「英國屋」、そしてトアロードから「マキシン」に加わっていただき、長い歴史を受け継ぐ老舗の若手商業者4人にこれからの三宮の街づくりについて話し合っていただいた。
やっとスタート地点に立った。
これからどう人の流れを変えていくか
植村 「神戸三宮阪急ビル」オープンを三宮の街全体をみると再整備がようやくスタートしたというのが正直なところです。駅北側は許可車両以外進入禁止とし、アモーレ広場を中心にオープンテラス風になるようです。これに触発され近隣エリアも変わり、ビルオープンが街そのものの在り方を変えてくれると期待しています。
小川 「神戸三宮阪急ビル」はほぼ予定通りに進行しましたが、東側の整備はまだ追いつかないのが現状です。JR三ノ宮駅前も足並みをそろえられたらよかったのですが…。
柳 それに続きデパート「神戸阪急」建て替え、サンパル跡地の活用…全部が連動しなくてはね。
植村 「神戸三宮阪急ビル」は震災後20年以上、駅ビルを「仮設」として営業していましたから、震災復興という位置づけもあるでしょうね。JRさんは駅ビル解体時点で既に費用がかかっていて、ある程度の規模がなければ採算が合わず、中途半端なものは造れないでしょうね。コロナ禍を受けての計画据え置きは致し方ないと思っています。
小川 三宮の再整備計画を見ると高い建物をあちこちに造っているように思えます。一つ一つが連携しているのかどうかが見えてこない。商業者としては不安です。
植村 将来をイメージできるグランドデザインが欲しいですね。点と点がつながれば、街の構造自体が変わり、人の流れも大きく変わると思います。
柳 私は住まいも三宮ですが、生活するのにもなかなか便利ですが、高層マンション建設は規制していますね。
植村 神戸市の人口は減っているとはいえ中央区はそうでもない。規制しているのは理にかなっていると思います。30年後にはどうなるのか誰にも分かりません。災害が起きたらどうする?地震が起きたら?学校の建設は間に合うのか?いろいろな問題があります。
実現の可能性を議論していても進まない。
ヤル気を見せなくては!
藤井 高知県檮原町に隈健吾さんの建築群があり、高層の木造建築も各地にどんどんできています。まちづくり協議会でさんプラザ、センタープラザの建て替えも視野に入れつつ勉強会を進めていく中で、「山を背景に、街の中に木材を使う建物が立っている」という景観が神戸には似合うんじゃないかとイメージを膨らませてきました。
植村 地主さんとも話をするのですが、今のところプランが思いつかないのが大きな課題の一つ。そんな中で木材を使う建物はなかなか面白いイメージです。
藤井 進め方はいろいろあると思いますが、こんなことをイメージして進めようとしている商業者もいることを見せることがまず大事かなと考えています。いつまでも実現の可能性を議論していても前には進めません。まずヤル気を見せることが重要。隈さんご自身は神戸との縁はなかったのですが、偶然のつながりもあり講演会開催までこぎつけました。コロナがあり中止にはなりましたが話題になったのだから目的は一つ達成したかな。一度つかんだ絶好のチャンス!改めて開催に向け準備します。
小川 旗振り役がきっかけを作ることは大切だということですね。
植村 私は商業施設マニアで新しい施設ができたらどこへでもすぐ視察に行きます。渋谷のミヤシタパークは素晴らしい!商業施設やホテルが入るビルの屋上が全部公園なんです。三宮センター街をミヤシタパーク化する。どうでしょう?勝手にイメージしているだけですが…。
海・山・街の景観を生かし、歩いて楽しめる街をつくろう
植村 三宮再整備で「歩いて楽しめるまち」という構想はずっと変わっていません。歩道を広げているのはいいと思いますが、2号線と阪神高速で遮られている。そこで造ったのが歩道橋、関所のイメージ。「それじゃない」って気がするんだけどなあ。歩道橋を造るなら、せめて街中に広場があり、海と山と街を見渡してからウオーターフロントへ下って行く。そんな歩道橋を造ってほしかったなあ。
小川 そうですね。神戸は小さな街ですから市民の共通認識としてあるのは「歩行者に優しい街」「歩きたくなる街」。例えばウオーターフロントのような、歩いて行きたくなる場所があり、途中には休憩したくなる場所がある。その補助として移動手段がある。そういう街には自ずと人が集まります。店の前をたくさんの人が通れば、商業者としてはどんな仕掛けでも作っていけます。
柳 私が気になるのは、商業施設内にはあるのに、商店街にはトイレがない。誰でも使えるバリアフリーで、授乳室もあって、その場所は分かりやすく表示されていなくてはね、歩いて回るには不便だと思いますね。
小川 昔は、トイレは奥の方に隠しておくものという感覚があったので、街のつくり自体が古いのでしょうね。今は、市民サービス、観光客サービスの観点から、トイレも表から分かりやすい場所に置かなくてはいけませんね。
柳 もう一つは、駅に降り立っても案内所が非常に分かりにくい。例えば新神戸駅から三宮へはJR線でつながっていないので、よそから新幹線で来た人はどうやって街に出たらいいのか分かりづらい。観光でせっかく来てくれた人に不親切すぎますね。
植村 名古屋駅を例にとれば新幹線や在来線で駅に着くと、ど真ん中に大きなインフォメーションがあり、そこへ行けば何とかなります。三宮のインフォメーションは?ポートライナーのエスカレーターの裏(笑)。駅前広場がないのは致命的で、「三宮交差点の上に広場をつくろう!」と言い続けてきたのですが、道の上は難しいのでしょうね。今回の計画では、車を通さないようにすることになって、とりあえずいいんじゃないかな。
小川 理想を言えば、広場から海と山を見渡せて、そこにインフォメーションがあって…そうしたら「神戸に来た!」と思ってもらえるでしょう。
柳 海と山と街がある、こんな場所は他にはない。うまく活用してほしいな。私は九州出身だから比べてしまうのだけど、人口規模は福岡市と同じなんだけどなあ。
藤井 福岡は九州全域のエネルギーが集まっているのでしょうね。神戸の場合、東に大阪・京都があるからちょっと事情が違う。そう考えたら、もっと西に目を向けるべきじゃないかな。
小川 西から見たら神戸は京阪神の入り口なのだから、大阪・京都と対抗する必要はないと思いますね。
SNSでフォロワー数を競う時代は終わった。
きちんとした情報に人は集まる
藤井 人があまり住んでいないのでまとまった地域コミュニティーがないのが三宮です。アイデアをどこへ持って行って、どこで話し合えばいいのか分からないのが課題ではないかな。
植村 いろいろな意味で世代交代の時がきていますが、私たちの次の世代がいないのも課題です。
藤井 センター街もほとんど過疎地のようになっていて、いつも同世代で集まるのはほとんどこの3人(笑)。だから「三宮だ」「元町だ」と言っている場合じゃない。神戸市が進めるスタートアップのメンバーも含め、みんなを巻き込んで一つのコミュニティーとしてまとまらなくてはどうにもなりません。
植村 仲間集めの手段は私たちの世代から下の人たちはSNSです。メディアや新聞より、個人に頼るところはすごく大きくなっていますね。
藤井 Clubhouseを見ていて思うのは、フォロワーが多いから人が集まっているかといえば、決してそうではない。大した話をしていないと分かれば人はどんどん離れていき、きちんとした情報発信をしているところに人が集まっています。フォロワーを競う時代は既に終わっています。原点回帰して、自分が信じることをきちんと伝える。SNSをそういう場所にして市民一人ひとりがどんどん発信していけば街も盛り上がると考えています。