1月号
音楽のあるまち♬26 長年の経験と最新の技術で アマチュアバンドの「音作り」を支援
ロックバンド「ゴダイゴ」のベーシスト、スティーヴ・フォックスさんはデビュー当初からサウンドエンジニアリングも担当していた。人生二度目のバークリー音楽大学でデジタル技術を学び、今や「音オタク」。長年の経験と最新の技術でコロナ禍に苦しむアマチュアバンドを支援したいと立ち上がった。
六甲アイランドが大好き
まるでユートピアのよう
―六甲アイランドにお住まいなんですね!いつから、なぜ?
12年前から。ポートアイランドのオープニングテーマ曲がゴダイゴの「ポートピア」で神戸の島とは元々縁があって、隣にできた六甲アイランドには友達が住んでいて居候をしていたこともあった。「まるでユートピアだ」とすごく好きになってしまってね、ハワイから引っ越してくるときには「住むならここしかない」と思った。
―ポートアイランドとはまた違う雰囲気ですよね。
大きな映画館やスーパー、移転してしまったけれどP&G本社もあったしね。浮き沈みはいろいろ見てきたけれど、六甲アイランドができたころの子どもたちが立派な大人になって、この島でいろんな料理屋さんをやっているんだよ。どの店もめちゃくちゃうまい!
―生まれたのは仙台だそうですね。
4歳まで居たから、漬物や納豆が好きだし、東北弁も得意だよ。そこから神奈川県逗子に引っ越した。15歳の時にアメリカ人のパパががんで亡くなり、一気に経済状態は悪くなって、僕は“ぼっちゃん”から“不良少年”に(笑)。
不良少年が「ザ・ベンチャーズ」で音楽に目覚める
―音楽に目覚めたのは?
逗子に住んでいたころ、武道館に来た「ザ・ベンチャーズ」のステージを見て、あまりのカッコ良さに「僕はこれをやる!」と決めた。アメリカ軍基地で映画『ウッドストック』を観てさらに気持ちは固まった。弟が何故か持っていたエレキギターを借りて、下の4弦だけ使ってベースをやって、仲間を集めてバンドを組んだ。ミッキー吉野もいて、「サンライズ」っていうめちゃくちゃいいバンドで、「さあこれからだ!」と思った矢先にテキサスへ移り住むことになった。
―なぜ?
ママは日本人で、僕たち兄弟4人をアメリカンスクールに通わせようと一人で頑張ったけどやっぱり無理で、突然「テキサスへ行きます!」と。驚いたけど行くしかない。
当時のテキサスは差別意識がひどかった。こんな顔をしていても向こうへ行ったらアメリカ人じゃない。まして田舎だから長い髪なんてあり得ない。そんなつらい時に、先にバークリー音楽大学に行っていたミッキーから「早く来いよ!」って連絡が来てね。必死で成績証明をもらって高校は中退、アルバイトしながらバークリーに通った。でもその後、通信教育で勉強してちゃんと高校は卒業したよ。悲しませてばかりいたママに喜んでもらいたくてね。
ゴダイゴの「音作り」から
デジタル時代の「音オタク」に
―帰国し、ベーシストとして「ゴダイゴ」のメンバーに?
そうなんだけど、最初のレコーディングで困った。僕やミッキーがアメリカで聴いてきた音を出せるサウンドエンジニアがなかなかいない。みんなうまいんだけど、演歌や歌謡曲とはちょっと違う、僕たちが作りたいパワフルでロックな音は出せないんだ。若かったから譲れなくてね。欲しい音に出会えなくて、エンジニアを次々変えていた。4人目のときにはとうとう、僕、横に座っていたの。見て、聴いて、時々質問をしたりして、そのうち「ちょっとどいてくれる?」と自分でミキシングボードの前に座っていた(笑)。それが「なかなかいい音だ」と好評でプロデューサーにも認められて、専用のスタジオも用意してくれて、「ゴダイゴ」初のアルバム以降レコーディングもステージも全部、サウンドエンジニアは僕だったんだ。
―1980年にはゴダイゴをやめたのですね。
超忙しくてね、ニンニクサプリを自分で作って飲んで、楽しみといったら好きなアメリカのロックバンド「スティーリー・ダン」を聴くことぐらいだった。それで僕はアメリカへ戻って4年間、神学校に通って、牧師になった。そのあと、ゴダイゴは85年に活動を一時停止したけどね。
―デジタルでのミキシングとマスタリングを改めて勉強したのはいつ、どこで?
6年前、人生二度目のバークリーで。今度はオンラインで勉強したらすっかりハマってしまった。今でも毎日勉強しているよ。デジタルは場所を取らないから自宅にスタジオを作って、今やほとんど「音オタク」状態(笑)。年々少しずつお客さんが増えてきている。僕が手掛けた曲のサウンドライブラリーも公開しているよ。
配信の時代。プロ並みの音じゃないとチャンスはない
―それが「アマチュアミュージシャンを音作りで支援」につながったのですね。
コロナ禍でミュージシャンは演奏の場がない。特にアマチュアが苦しんでいる様子を見て「何かやらなくちゃいけない」と考えた。音楽も配信の時代、夢のある時代だけど、ある程度のクオリティーがないと誰も相手にしてくれないからね。プロ並みのいい音で、たくさんの中から一歩抜きん出ないとチャンスはない。僕は70年代以来、音作りの経験は積んでいるし高い評価ももらってきた。手法はデジタルに変わっても僕の音作りに変わりはないからきっと役に立てる。スタジオは自前、一人で全部こなせるから人件費は必要ないし、クラウドを使うから経費もかからない。納得がいくまで何度でもやり取りをするから遠慮しないで要望を言ってくれたらいい。アマチュアミュージシャンに気楽に利用してもらえたらいいと思っているよ。
―「次の世代を育てる」ですね。
今、ゴダイゴのヒット曲と僕が好きな曲全10曲でベースの音をマイナスワンしたカラオケDVDを作っているんだ。ベースの練習を始めたばかりの人にでも分かりやすいと思うよ。子どもたちに音楽の楽しさを知ってもらったり、若いミュージシャンを応援したりするのが楽しくて。僕もそんな年齢になったな(笑)。
スティーヴ・フォックス
ゴダイゴのベーシスト兼サウンドエンジニア。ゴダイゴサウンドを支える音作りは高い評価を得ている。個性的なベースライン、低音ヴォーカルでファンを魅了。80年にゴダイゴを脱退し日本で宣教師になった後、99年の再結成からゴダイゴ復帰。牧師。神戸在住。
サウンドライブラリー:
https://soundcloud.com/kobesteve-1