1月号
縁の下の力持ち 第23回 神戸大学医学部附属病院 移植医療部
みんなで仲良く。それがなければ移植医療は立ち行かない
シリーズ23回目は「移植医療部」。チーム医療の基本は、「みんなで仲良くやろうよ」と言う蔵満薫先生のお話には、今までお話をお伺いした「縁の下の力持ち」が次々と登場します。
―移植医療部とは。
私は肝胆膵外科で肝臓専門、主に移植医療に携わっています。他に膵臓移植や腎臓移植に携わる医師、他診療科の医師、コーディネーター(移植医療専門看護師)や検査技師等が加わり、診療科の枠を超えて立ち上げられたのが「移植医療部」です。
―神戸大学での移植医療の状況は。
生体と脳死を合わせて肝臓移植が月1回程度、腎臓移植が月3回程度、膵臓移植は脳死移植のみ行っています。
―どんな患者さんが肝臓移植を受けるのですか。
肝臓移植の主な対象は進行した肝硬変の患者さんで、移植をするとほぼ完治します。年齢は65歳くらいまでに限っています。肝臓がんは初期の段階なら移植可能ですが、進行して大きくなると再発の可能性が高くなるので適応にはなりません。生体移植のドナー(提供者)はご家族です。脳死移植の場合、ドナーが入院している病院で肝臓を摘出し、神大病院で移植手術を行います。
―移植医療部ではどんな連携を取っているのですか。
例えば肝臓移植の患者さんは消化器内科の患者さんでもあり、術前術後連携を取りながら治療を進めています。手術中には麻酔科の先生、術前術後ICUでは集中治療部の先生、心臓や呼吸器に問題が起きた時はそれぞれの専門医に治療をお願いします。食事ができるようになると栄養管理部の先生と栄養士さん、リハビリテーション部には、術後だけでなく術前から治療に加わってもらいます。肝生検が必要なときは朝から内科の先生が肝生検を行い、夕方には顕微鏡を覗きながら病理の先生からアドバイスを受け、その日のうちに適切な治療を開始します。医師とともにコーディネーターが退院後も外来で患者さんが健康に過ごせるように見守り、病棟とICUにもコーディネーターがいて力になってくれますし…数えたらきりがないほどです。
―この体制が取れる理由は。
神戸大学は肝移植に関しては後発組ですが先発の施設に負けないような成績を得るため、病院の各部門の協力を得て総力を結集する必要があると当初から考えていました。それが領域横断的な神大病院移植医療部に繋がったのだと思います。私自身も術後の患者さんの状態が良くなくて悩んでいたとき集中治療部の先生に声をかけていただき、一緒にやってもらったらいいのだと気づきました。朝日勤の治療方針を決め、夕方夜勤の方針を決める1日2回のカンファレンスを必ず行い、患者さんがICUにおられるときは可能な限り様子を見に行くようにしています。
―チーム医療ですね。難しいこともあるのでは。
10年以上かけて次第に輪が広がっていきました。『縁の下の力持ち』に登場した先生にもたくさん輪に入っていただいていますよ。チーム医療という難しいことではなく、「けんかしないで、みんなで仲良くやろうよ」です(笑)。全ての先生、看護師さん、スタッフがいなければ、私たちの移植医療は立ち行かず、患者さんもご自分の足で歩いて元気に退院することはできません。若い先生は一人で抱え込みがちです。私もそうでしたが、今はベテランの域に入ってきた同年代の先生と協力し合う体制ができています。
―患者さんが元気になったときも、みんなで喜べますね。
患者さんが退院するときには必ずコーディネーターと一緒にICUへ行ってもらいます。一生懸命に治療した成果を実際に目にすると、ベッドで寝ている姿しか見ることがない集中治療の若い先生や看護師さんの意欲につながります。
―蔵満先生の役目は。
臓器不全に至った患者さんを元気な日常生活に返すことです。退院後の患者さんは仕事をしたり結婚したり、つい最近は神大病院で出産した女性もいました。手術で終わりではなく、臓器提供いただいたドナーのためにも、ずっと元気で過ごせるよう患者さんに寄り添うことが移植医としての役目だと思っています。