10月号
神戸の老舗企業2社がコラボして生まれた古酒仕込み「紅茶梅酒」
沢の鶴株式会社 代表取締役社長 西村 隆 さん
富永貿易株式会社 代表取締役社長 富永 昌平 さん
300年の伝統を受け継ぐ灘の日本酒メーカー「沢の鶴」と100年にわたり世界の食を扱ってきた「富永貿易」。神戸の老舗企業2社が得意を出し合い、力を合わせて開発した新商品「紅茶梅酒」が完成しました。
今までにない新しい視野が開けた開発現場
―それぞれ自社の紹介をお願いします。
西村 創業は1717年、享保2年ですから八代将軍徳川吉宗の時代に、初代が米屋の副業として酒づくりを始め、私で15代目です。当時から六甲山北側は米どころで、冬には農家の人たちが杜氏として灘へ出稼ぎに来ていたという背景があり、酒づくりを始めました。元々が米屋ですから、酒づくりも米にこだわり「米だけの酒」「純米酒山田錦」「SHUSHU」などの純米酒を主力として、シンボルマークは「※」印を継承しています。
富永 1923年、青果物輸出業者として創業し、約60年間は、主に輸出事業を手掛けていましたが、1985年のプラザ合意後、輸出事業が成り立たなくなり、輸入事業に転換しました。1994年に清涼飲料ブランド「神戸居留地」を立ち上げ主力事業として展開しています。さらに、オリーブオイルをはじめ、パスタ、紅茶などの輸入グロッサリーやナッツの原料など、幅広いカテゴリーで事業を展開しています。
―2社のコラボレーションで「紅茶梅酒」が誕生したのですね。ここに至った経緯は。
西村 日本の紅茶文化発祥の地・神戸は一世帯あたりの紅茶消費量がトップクラス、最近は若い人や女性に注目されています。一方、弊社では10年前から、純米酒の古酒で仕込んだ梅酒を販売し、大変好評をいただいていました。そこで紅茶と古酒を使った梅酒を開発したいと考え、富永貿易さんに相談させていただきました。
―相談を受けていかがでしたか。
富永 私共はいろいろなメーカーさんとコラボして共創していこうと社内で取り組んでいます。今回は、沢の鶴さんから声を掛けていただき非常にありがたく、「ぜひご一緒に」とお返事しました。
―苦労されたこともあったのでしょうね。
西村 紅茶を扱うのは初めてのこと。知識も知見もなく、茶葉にはどんな種類があるのか、どんな特徴や味わいがあるのかなど基本的なところから富永さんに教えていただきながら何度も試作し、試飲をしていただきました。日本酒メーカーの枠にとらわれることのない評価や意見を頂き、ロンドンのHAMPSTEAD TEAのオーガニック茶葉を100%使用する「紅茶梅酒」が完成しました。私共は日本の伝統産業ということもあり、新しいマインドを取り入れる機会がなかなかありません。今までにない新たな視野が開けた開発現場になり感謝しています。
富永 沢の鶴さんは「さらにレベルアップした味を目指す」とおっしゃるのですが、試作品はどれも美味しくて、「これがいい」と好みを言わせていただくだけの私共は大した苦労をすることもなく(笑)。美味しさを追求する企業姿勢を見習わなくてはいけないと思っています。
西村 日本酒メーカーのアイデアではどうしても和のテイストになってしまいますので、ターゲットに合わせた商品デザインを富永貿易さんに一任し、スタイリッシュに仕上げていただきました。ご苦労はあったと思います。
古酒のうま味とコク、米由来の自然の甘みを生かして
―沢の鶴の古酒とは。梅酒に使うことの意味は。
西村 沢の鶴には古酒の品ぞろえがたくさんあり、半世紀近く前1973年ものは、市販されている古酒の中で最も古いものです。古いほど美味しいわけではなく、どの年代のものにもそれぞれ特徴があります。うま味成分やコクのある味わい、お米由来の甘みを持っています。この自然の甘みを梅酒に生かすことで、仕込みに使用する砂糖の量を少なくすることができました。古酒は量が限られる上に、どれでも梅酒に向くというわけでもありません。大量生産をするわけにはいかないのが古酒仕込みの梅酒です。
―店頭で目にする日が楽しみです。
富永 沢の鶴さんと私共の営業網のすみ分けをしながら、しっかり店頭に並べ、しっかり消費者の皆さまにお届けできるよう、営業活動を開始しています。
〝1+1〟が3、4…になるコラボレーションの可能性
―他の企業ともコラボされているのですか。
西村 農機具メーカーのヤンマーさんとのコラボで「新しい酒米を作る」というプロジェクトを2016年に立ち上げました。山田錦は開発以来80年にわたり「酒米の王様」といわれているお米です。逆にいえば、イノベーションが起きにくく、山田錦を超える酒米が生まれていないということです。このプロジェクトに共感いただいた農家で栽培された、新しい酒米で造る日本酒がXシリーズ。今年は第三弾「沢の鶴X03」が完成しました。
富永 ここ最近では、ガルシア社のエクストラバージンオリーブオイルを使用した鯖缶詰、イギリスの紅茶ブランドのアーマッド社の茶葉を使用したペットボトル飲料を開発し、好評いただいています。今後も食に関するカテゴリーであればあらゆるジャンルでチャレンジしたいと社内でもアイデアを募っています。神戸の活性化につながるのであれば、地元企業さんとのコラボレーションも積極的に取り組んでいきたいと思います。
西村 コラボレーションは1+1=2ではなく3にも4にもなる可能性を持っています。「紅茶梅酒」は商品に新しい価値を生み出すことはもちろん、神戸を代表する日本酒と紅茶という2つの文化の掛け合わせで新たな発信をしていけるのではないでしょうか。
―今後目指すところは。
富永 弊社は創業以来100年近くにわたり食と向き合い、食の価値とは何かを追求してきました。時代の変化と共に、食に対する消費者ニーズは多様化しています。「安心・安全」はもちろんのこと「健康」を軸とした商品にも注力していきたいと思っています。これからも食を通じて、より豊かな暮らしに貢献できる企業を目指していきます。
西村 新商品の開発や提案だけではお客様に届きません。これからは、お酒にまつわるライフスタイルや食事の一部としてのお酒の価値を、異業種とのコラボレーションにも積極的にチャレンジしながら提案していくことが大切です。ただし根幹の〝酒づくり〟の部分は決してブレることなく新しい価値を見出していく。これが300年続く沢の鶴歴代の当主や従業員、丹波杜氏たちへの感謝の意を表することになると思っています。
古酒仕込み 紅茶梅酒
300ml 1,280円(税別)
アルコール分 11度
https://www.sawanotsuru.co.jp/brand/tea-umeshu/