6月号
コロナ禍の社会を考える|安藤 忠雄|新型コロナウイルス禍で思うこと
コロナウイルスの猛威は、まさに世界を震撼させました。私たちは力を合わせて、この恐ろしいウイルスとの闘いを乗り越えていかなければなりません。それには相当の覚悟が必要ですし、時間もかかると思います。
しかし、希望的な側面もあります。それは、ここ数週間で、コロナによる感染者数の増加が、少しずつではありますが落ち着きを見せ始めていること。そして、ここまでの日本の感染者数、死者数が、比較的少なめに抑えられていることです。もし、このまま収束へと導くことが出来れば、甚大な被害を受けた欧米の諸国と比べても、日本はコロナとの戦いをうまく制することができたと言っても良いのではないでしょうか。
では、今のところ日本での被害が抑えられているのはなぜか―諸説ありますが、私は、江戸時代から続く日本人の生活習慣に因るところも大きいのではないかと思います。その清潔で規則正しい国民性によって、手洗い・うがい・マスク着用を自発的に励行し、国や自治体に求められれば、強い抵抗もなく外出自粛に努めました。それらが感染拡大の抑制に功を奏する結果となりました。
元来日本人は、自然と共に生きることで細やかな感性を育んできた民族です。家族や隣人を大切にし、命あるものに対する愛情が深い。そんな先人たちの高い民度が受け継がれ、コロナによる感染収束の一翼を担ったのだとすれば、日本人はそれを誇りに思うべきだと思います。
もちろん、最前線で感染症と闘い続ける医師や看護師の皆さんの決死の覚悟と献身を忘れてはなりません。常に感染のリスクに晒されるため、家族にうつさぬよう、家に帰ることも出来ず、ただただ人々を助けたいという強い使命感を持って、日夜働き詰めの毎日を送られています。その仕事に対する誇りと責任感には、深く感銘を受けました。
医療従事者のこうした献身的な努力をサポートするために、大阪府や兵庫県、神戸市が基金を設立しました。私たちも、自分たちのできる範囲で、サポートしていくことが出来ればと考えています。
感染者数の拡大が沈静化しつつあると言っても、まだまだ油断は禁物です。止まっている経済活動を再開させれば、また第2弾、第3弾の感染拡大が予想されます。しかし、人々が生活していくためには、経済も重要な要素です。コロナウイルスとは、まだまだ長く地道な戦いが続いていくと思います。
それでも、今回改めて認識した日本人の持つ忍耐力と協調心、そして医療従事者の方々に見た誇りと責任感、それらをもってすれば、必ず乗り越えることが出来ると信じています。