3月号
ノースウッズに魅せられて Vol.08
寒空の下で
一頭のアカギツネが雪原をトコトコと歩いてゆく。
急にピタッと立ち止まると、地面をじっと見つめはじめた。そして、首を傾げながら、耳をそば立てていた次の瞬間、ピョーンと高く宙に舞い上がり、頭から真っ逆さまに落ちて、雪面に首を突っ込んだ。
それは、キツネが雪の下の獲物を捕まえようと、狩りの跳躍をした瞬間であった。
獲物となるハタネズミなどは、体も小さく、毛も短くて、寒空の下で体温を長時間保つことは難しい。しかし、雪があるおかげで、この極寒の地でも生存が可能となっている。
以前温度計で測ったことがあるが、外気温がマイナス30度に下がったとしても、雪面から30センチ下の温度はマイナス2度ほどで安定していた。雪の層には多くの空気が含まれ、断熱効果が高く、いわば真っ白なブランケットのような役割を果たして、地面を柔らかく覆っているのである。
私たち人間なら、裸でこの地に放り出されたら、1時間も経たずに、凍えて息絶えてしまうだろう。
かつてはムースやバイソンや、カリブーの毛皮を身に纏うことで寒さを凌いできた。それでも火を使えることが不可欠だ。
現代でも、羊の毛であるウールや、水鳥の毛のダウンを着ることを考えれば、野生ではないが、どこかで動物の助けを得なければ、生きていけないことに変わりはない。
それに比べてキツネのたくましさはどうだろう。自前の冬毛と尻尾にくるまって外で眠り、道具も火も使わずに、約半年にも及ぶ冬を生き抜くのだから。
2020年5月に新たに公開しました
写真家 大竹英洋 (神戸市在住)
北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに、人と自然とのつながりを撮影。主な写真絵本に『ノースウッズの森で』(福音館書店)。『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。2020年2月、これまでの撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)を刊行した。