8月号
対談/個性を育む私立中学の教育 第8回 賢明女子学院中学校・高等学校
日能研関西 代表 小松原 健裕
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賢明女子学院中学校・高等学校 校長 松浦 明生
「社会の役に立ちたい」という思いに応える学校であり続ける
名門私立中学校に多くの塾生を合格させている日能研関西代表の小松原健裕さんと
関西名門校トップとの対談第2弾。第8回目は、賢明女子学院中学校・高等学校 校長の松浦明生さんに
ご登場いただきました。
守られているという安心感で、生徒は明るくのびのびと
小松原 世界遺産姫路城がすぐそこにあり、城下町の文化が身近にある学校。生徒さんたちは当たり前だと思っているかもしれませんが、こんな環境はなかなかないですね。
松浦 姫路城に育ててもらっているという思いがあります。お城をはじめ、周辺も緑豊かで、中1のオリエンテーションでは姫路城公園へ出かけて親睦を深め、日頃も何かの折には公園でお弁当を食べたり、県立歴史博物館や市立美術館も利用させていただいたり、鑑賞は1時間の授業の中でも可能です。ミニマラソンは姫路城一周ですし。好古園のお茶室ではお手伝いもさせていただいています。
小松原 どういう経緯で姫路のこの場所に開校することになったのですか。
松浦 カトリック大阪教区から学校をつくってほしいという要請を受け、聖母奉献修道会のシスター4名が来日されたのが始まりです。場所を探していたところ、同じく要請を受けて姫路に男子校開校を決めていた淳心会から「女子校もぜひ」と誘っていただいたということです。ちょうど、この場所は教育施設としてのみ売却するという条件が付いていましたので、お陰さまで本当に良い環境で開校することができました。
小松原 そういう経緯で男子校と女子校が隣合せという珍しいケースになったのですね。親子孫三代にわたって賢明女子学院というご家庭も多いとお聞きしますが…。
松浦 親子面接で、保護者で卒業生の方に「何か学校に要望はありますか」とお尋ねしたところ、「信頼していますので何もございません。よろしくお願いします」という答えが返ってきました。そういうことなのでしょうね。信頼に基づく安心感がある学校なのだと思います。教師と生徒の距離が近すぎるわけではないのですが普段から目が行き届き、守られているという安心感があり生徒たちものびのびと学校生活を送っています。
小松原 私が持つ賢明の生徒さんのイメージは明るくて、楽しそう。特に活発というタイプではないものの、6年間を過ごした卒業生を見るとしっかりしてきたなと感じます。もう一つは、なぜか賢明の子は字がきれい。きちんとした子が多いのでしょうね。
松浦 よく見てくださっていて、ありがとうございます。おっしゃる通り、字がきれいな生徒が多くて、実は女性教員も字がきれいなんです。お習字を習っている生徒が多いという理由もあるのでしょうか…。
燈台のように周りを明るく照らす人になってほしい
小松原 「思いやる力、創る力、叶える力」とは具体的にどういう意味があるのですか。
松浦 燈台の光のように周りの人を明るく照らす、苦しんでいる人、悲しんでいる人に手を差し延べられる人間になってほしいという教育理念です。問題を発見して解決するために自ら行動する。そのためにはまず、周りの人を思いやる力、みんなで協力してよりよい社会を創り上げる力、知ることを大切にして教科の学習を通し達成する力を付けようというものです。
小松原 問題の解き方を教えるのは簡単でも、問題発見の方法を教えるのはとても難しいですね。学校行事などみんなで協力する中で気付き、身につくものなのだと思います。教科の学習達成にはどういう考えを持っておられますか。特に中学に入学したばかりの子どもたちに対しては?
松浦 高校では難関国公立大学を目指すソフィアコース、国公立大学、難関私立大学を目指しながら推薦入試などさまざまな入試のパターンに対応するルミエールコースの2コースありますが、中学ではそれぞれのJr.コースを設けています。まだ勉強する習慣と基礎学力を付ける時期だと考えていますので、中1では学校の授業を聴いていかに自分のものにするか、自学自習ができるかということを重視しています。中学に入ってすぐにこの習慣を身に付けた生徒は伸びます。子どもたちに自学自習の習慣をつけるのは塾でも難しいのでしょうね。
小松原 子どもたちは目標が定まったときや、点数が取れてやり方に気付いたときなど、何かのきっかけでスイッチが入ることがあります。入学試験に合格することで一度スイッチオフになります。中学に入った時点でまた思い出してくれるといいのですが、忘れている子もいます。そこをしっかり指導していただいているのはありがたいです。賢明ではユニークな授業もやっておられますね。
松浦 クロススタディという授業形式を取り入れています。教科書にとらわれずに、先生方の専門分野に特化した掘り下げた内容で授業をする、また専門を離れて先生方の趣味での研究をテーマに教えるなど、先生一人が基本4時間ほど受け持ちます。生徒は先生の熱意を感じ、知ることのおもしろさに気付いてくれたらいいなと思っています。例えば世界史の教師が宇宙の誕生から始まり、人類が誕生して自然と関わりながらどう進化していくのかを映像などを交えながら授業をする。理科や社会、環境などいろいろなことが複合的に取り入れられた授業です。
小松原 授業は脱線したときやマニアックな話になったときほどよく覚えていますからね(笑)。それをきっかけに興味を持つこともあるでしょうから、大事なことだと思います。卒業生の授業もあるそうですね。
松浦 卒業生の歩んだ道は、これから生徒が歩む道でもあると思います。母校での経験を交えながら、キャリアでの経験に基づく授業をしていただきます。生徒たちにとっては将来の希望に結びつき、卒業生は賢明が大好きな人が多いので、自分たちの学校の良さを再認識する機会にもなります。
社会での共生をベースに、役に立てる人を育てる
小松原 キリスト教精神に基づいた奉仕活動も伝統的ですね。
松浦 開校当初は有志がシスターと一緒に奉仕活動をするというものでしたが、生徒会ができてからは生徒全員に呼び掛けて活動し、今に至っています。フィリピンの子どもたちの支援では募金を集める際に自分たちが粗食ランチにして募金しています。施設訪問や街頭募金、熊本の復興支援、夢前川の清掃活動など、生徒会が中心になって行っています。
小松原 今の子どもたちも保護者も立身出世というよりは、社会の役に立ちたいという意識が強いですね。私が学校生活を送ったころは、猛烈に打ち込み、目標を達成することが最も評価された時代でしたけれど…。
松浦 そうですね。もう右肩上がりの成長は望めないと、保護者の方はもちろん子どもさんも敏感に感じていると思います。物の見方が変わってきていますから、学校選びについても昔のように競争社会を生き抜くというより、共生をベースに社会の役に立てる人を育てる学校が選ばれる時代です。国という枠にとらわれず世界的に貢献することを若い人たちは目指しています。それに応えられる学校でありたいと思っています。
小松原 まさに賢明女子学院の教育は共生がベースになっていると感じます。今後ともよろしくお願いいたします。
松浦 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
松浦 明生(まつうら あきお)
賢明女子学院中学校・高等学校 校長
1951年愛知県生まれ。六甲学院高等学校、慶應義塾大学文学部史学科を卒業。専門は西洋中世教会史。同大学大学院修士課程修了後、母校の六甲学院中学・高等学校に社会科教員として勤務。6年間の校長職を経て、2015年4月から現職
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶應義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる