5月号
新・日本型食生活を めざして
フジッコ株式会社 代表取締役社長
福井正一さん
「おまめさん」や「おかず畑」を始め、美味しくてヘルシー、便利なお惣菜でお馴染みのフジッコ。
半世紀以上にわたり健康的で安心・安全な食を提供し続けてきたフジッコの福井社長にお聞きした。
―フジッコさんが提案する「新・日本型食生活」とは?
福井 元々、日本の食生活はご飯が主食で、副菜が野菜中心でお魚が多いというものでした。ところが食の洋風化が進み、米離れや動物性脂肪の増加、炭水化物や良質なたんぱく質が減ってきました。1975年頃までは、きちんと取れていたPFC(タンパク質、脂肪、炭水化物)バランスがかなり崩れています。豆、海藻、根菜などをしっかり取って昔からの伝統の日本の食事を思い出さなくてはならないと考えています。とは言え、今さら稗や粟の食事ができるものでもありません。豆、海藻、根菜などの素材にアレンジを加え、栄養バランスがよく、バラエティに富む食材を使った食事の提案。「日本の伝統食の良さ」を活かしつつ「欧風食の良さ」「世界の長寿食の良さ」を融合させた新・和食。これが、フジッコが提案する「新・日本型食生活」です。
―体に良いといわれる成分について科学的に研究されていますが、例えば?
福井 皆さんもよくご存じの大豆イソフラボンは、「おまめさんの表面に白いカビのようなものが付いているけれど、これは何?」というお客さまからの声をきっかけに研究を始めました。私共でも、大豆イソフラボンの存在は分かっていましたが、研究を進めた結果、骨密度の減少を抑制する機能を証明できました。大豆にはそのほかにもサポニン、良質たんぱくも含まれています。また、黒豆にはポリフェノールも含まれています。社員を対象にした実験で、黒豆には体脂肪を減らす効果があるという結果が出ています。お肌がきれいになったという方もおられます。もちろん個人差はありますが…。
こんなに体に良い大豆なのに、昔に比べて摂取量が減ってきています。これは大きな問題です。
―人気のおかず畑シリーズですが、生まれた背景は? 誰の発案だったのですか。
福井 「おかず豆」から発展してきたのが「おかず畑」ですから、誰の発案かといえば…会長の山岸です。お取引先のスーパーの社長から「甘い豆じゃなく、男性にも好まれる煮豆を作ってはどうか」と提案をいただき、だし味にして色々な具材を入れて誕生したのが「おかず豆」です。これが非常に好評でした。そこで、健康的な食生活の提案という私共の理念に添えば、まずは根菜類と考え、それが「おかず畑」につながりました。
―「カスピ海ヨーグルト」はどんな経緯で開発したのですか。
福井 当初、「カスピ海ヨーグルト」は長寿の国で知られるコーカサス地方のグルジアから、長寿の研究で知られる京都大学名誉教授の家森幸男先生が、研究用に持ち帰ったのが最初です。その後は手づくりヨーグルトとして、人から人へと譲っていくことで広まりましたが、「これでは衛生上問題があるので安全な種菌を開発してください」と、家森幸男先生から依頼を受けたのがきっかけです。
ほかのヨーグルト菌は40度程度で発酵しますが、カスピ海ヨーグルトは25度前後、つまりほぼ常温で発酵が可能という特徴があります。阪神百貨店で「カスピ海ヨーグルト手づくり用種菌セット」を発売開始した当時は行列ができるほどの人気になりました。昨年はインフルエンザ予防効果が期待され、販売は好調に推移しています。
―食の安全・安心が重要な時代です。フジッコさんではどのように取り組まれていますか。
福井 もちろん力を入れて進めています。特に今は放射性物質の問題があります。厚生労働省の一般食品で100ベクレル/㎏以下という基準よりも更に厳しく独自の基準を設定しています。抜き打ち検査を実施して安全なものしか使わないと決めています。そこまでやるべきなのかという迷いもありますが、やはり小さな子どもさんをお持ちのご家庭などは心配でしょうからね…。
―フジッコさんの商品は関東、関西で味は変えていないということですが、それは何故?
福井 以前は関東、関西で変えていましたが、人の移動が多くなり味の嗜好にあまり東西差がなくなってきて、全国で同じ味の商品が増えてきたという自然な流れです。例えば里芋の煮物は、関東向けは味も色も醤油の濃いものでしたが、今では全国的に素材の色を生かしたものにしています。ただし、地域性の高いお惣菜は、関西の鳴尾工場、関東の東京工場と横浜工場で使う醤油が違いますから、味や色の違うものになっています。
―これからのフジッコが目指すところをお聞かせください。
福井 豆と昆布というコアな部分はこれからも変わりません。個食、簡便性ニーズに応える「おかず畑」や「カスピ海ヨーグルト」、デザート類、新たに豆の需要を喚起する「朝のたべるスープ」など洋風の商品を新しいニーズに合わせて開発していこうと考えています。中でもデザートの開発部門は、主に若い女性社員たちが次々にアイデアを出して開発し、社内を活性化してくれています。古いものを守りながら、新しいものにチャレンジしていく会社の風土を保ち続けたいと思っています。
―今後も健康な食生活を提案してください。楽しみにしています。
インタビュー 本誌・森岡一孝
福井 正一(ふくい まさかず)
フジッコ株式会社代表取締役社長
1962年、生まれ。1991年、東北大学大学院農学研究科修士課程修了。同年、花王株式会社入社。1995年、フジッコ株式会社入社。2000年、常務取締役。2002年、専務取締役。2004年、代表取締役社長就任、現在に至る。