10月号
ものづくり 100年企業
バンドー化学株式会社
代表取締役社長
谷 和義さん
バンドー化学は1906年創業以来、ゴム・プラスチック製品メーカーのパイオニアとして、直接、私たちの目には見えないところで日本の産業を支え続けてきた。
―昔は兵庫の阪東調帯として市民に親しまれていましたが、ポートアイランドにはいつ本社を移転されたのですか。
谷 2006年の100周年を機に、ものづくりの会社として兵庫区にあった中央研究所を新しくして次の100年に繋げようというのがきっかけでした。新しいR&D(リサーチ&ディベロップメント)センターの建設と共に、三宮の賃貸ビルにあった本社も同じ場所に構えて技術開発に注力していこうとの思いから2007年にこのポートアイランドに移転しました。
―谷社長は神戸大学システム工学科を第一期生として卒業後、入社されたということですね。
谷 私は卒業後、ものづくりの現場に関わりたいと就職を選び、いくつかの候補の中の一つがバンドー化学でした。ところが第一期の卒業生ですから案の定、面接担当の方もシステム工学科が何を専門とするかがよくわからず、私も説明するのですが、やはりはっきりしない。そこで、大阪府泉南市にある南海工場を自分で一度見に行くこととなり、その結果、自分として当社でものづくりの仕事をしてみたいという報告をして入社の許諾を頂くこととなりました。
―やりたい事があったのですね。
谷 材料から加工してそれらを組み合わせて製品としていく、一見泥臭さもあるものづくりに非常に興味を覚え、ここで一から覚えていけば自分の身につく、これはおもしろいと思いました。入社後は生産技術部門に配属され工場のあちこちを回り、ものづくりの現場がよく見えるようなったのは大変良かったと思っています。
―研究・開発に長く携わってこられ、特に思い出深い事例は。
谷 生産技術部門から伝動ベルトの開発部門に異動し、色々なベルトの開発に携わりましたが、自動車用の伝動ベルトの開発が多かったです。当時の日本の自動車はまだ欧米に追いつこうとしていた時代で自動車メーカーは開発に力を入れていました。大気汚染防止のため、排気ガス対策も言われはじめていました。排気ガス対策に関係の深いエンジン関係部品も長寿命・メンテナンスフリーの流れになり、張力低下によるスリップが少なく長寿命のベルトが求められ、従来のV型ベルトから厚みを薄くして伸びが少ないVリブドベルトに変えていこうという動きがありました。その後、ディーゼルエンジン乗用車においても商品性を高める開発を各自動車メーカーがはじめました。加速性を良くするためにエンジン回転周りを軽量化するのですが、高い圧縮比で爆発させるディーゼルエンジンでは、回転が実はぎくしゃくしており、その影響でベルト負荷が増大し厳しい条件での使われ方となっていました。その様子を良く見るとベルトが引っかかっているようで、Vベルトの常識だったV角度40度を変えてみようと考え、50度に変えて回してみました。すると、非常にスムーズに回るんです。広角Vベルトとして採用もいただき、高い評価をいただきました。
―伝動ベルトは日本の自動車産業を陰で支えてきたのですね。
谷 たかがベルトですが、これがないと車の機能が発揮されません。ボンネットの中で140度からマイナス40度くらいまでの温度範囲で使え、耐久することが必要です。近年の車は、基本性能が高く、故障しにくいことに加え、静粛性、乗り心地などの高い商品性が求められます。ベルトがスムーズに回って、異音もしないという条件も揃わなくてはいけません。部品も車の商品性を高める重要な要素ですが、ベルトもその一つです。
―伝動ベルトのほかにも、色々な分野の製品も出してますね。
谷 産業資材事業では、土砂、鉄鉱石などの重搬送コンベヤベルトや食品製造や物流などの自動化で活用される軽搬送樹脂ベルトを、化成品事業では、建築資材用フイルムや絆創膏などの医療用フイルム、看板などの装飾表示用フイルムなどを作っています。また、MMP事業では、耐薬品性、耐摩耗性に優れたポリウレタンを活用した製品として、伝動ベルト、コピー機などに組み込まれるトナー掻き取り用のブレードやスクリーン印刷のインク塗布用スキージーなどを作っています。
―そういった研究はどこで。
谷 基本的なスペックが決まったものは、南海工場や和歌山工場、加古川工場、足利工場などをかかえる各事業部が担当します。新しい開発は本社にあるR&Dセンターと生産技術センターが受け持ち、配合や接着技術、製法開発など新しい技術を開発しています。それを基盤技術として事業部では実際に製品にする段階を受け持っています。
―これからの先端技術は。
谷 オプトエレクトロニクス、ロボット、環境、医療介護などの分野が伸びていくだろうと考えており、各分野での研究開発を進めています。
―最近話題のナノの研究もされていますね。
谷 当社が取り組んでいるのは、金や銀を数十ナノ程度の粒子に生成し、有機材料でコーティングした金属ナノインクです。インクジェットプリンターに入れてプリントすると電子回路の配線が描けます。ナノ粒子に生成すると、金属の特性が変わります。例えば銀の融点は961度ですが、ナノ粒子にすると120度くらいで溶ける現象が得られます。従って、製造工程において高い温度条件を嫌う半導体などの製造において低い温度で焼成加工できる材料として有効となります。
―社内には「技術塾」があるそうですが。
谷 私が入社した当時と比較すると開発のサイクルが随分早くなり、また専門性が深くなっています。ところが専門性が高くなると、広く全般的な知識を持つことが弱くなりがちです。そこで、当社技術のベーシックな部分は持ってもらうように、入社したら半年間、まずはゴムや接着技術などの基礎知識を、その後も3~5年毎に段階的に高度な内容を受講して勉強する「技術塾」を設けています。
―世界に広く、拠点がありますが、生産もしているのですか。
谷 ほとんどが生産機能のある生産販売拠点です。現地に工業が興れば工場ができ、そこには空調設備や機械を稼働するモーターがあり、新規設備と補修用のベルト需要があります。また、自動車が走っていれば、アフターマーケットがあります。一方、日本の完成度の高い農業機械は、タイ、ベトナム、中国などに普及し出しています。中でも、収穫率が95%と高水準な米作用コンバインは、幾種類もの伝動ベルトが用いられ、当社は農機専用の高性能なベルトを供給しています。
―環境への配慮も?
谷 当社では、「環境・省エネ・クリーン」をキーワードにした新製品開発に取り組んでいます。具体的には、従来の製品に比べて動力損失が少ないベルトの開発や、工場で生産するときに使うエネルギーを削減できる製法の適用、有害物質を含まない製品の開発などです。環境負荷低減活動をより一層推進するため、自社の基準を満たした環境配慮型製品に環境ラベル「eco moving」を表示しています。
―これからのバンドー化学を支える若者に望むことを。
谷 会社に入ってから知識を習得することは大変役に立ちますが、それを知恵に変えていくには、自ら経験して問題をブレークスルーすべく自分で動く元気がないとだめです。先輩がワクワクするようなことをやっているのを見れば元気になれます。会社としても、そういった雰囲気、風土を作ることが大切だと思っています。
―経営スローガンの「変える、変わる、挑む」ですね。今後もグローバル企業としてご発展をお祈りします。
インタビュー 本誌・森岡一孝
谷 和義(たに かずよし)
1952年神戸市で生まれる。1976年神戸大学工学部システム工学科を卒業し、同年、バンドー化学に入社。伝動技術研究所長、中央研究所長、伝動事業部長、取締役常務執行役員コーポレートスタッフ本部長などを歴任して、2007年6月より現職。