3月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九十三回
西宮市医師会市民フォーラム
「ひょっとしたら認知症?~これからどうする~」について
西宮市医師会広報活動委員会担当理事
奥窪耳鼻咽喉科院長
奥窪 明子 先生
─西宮市医師会市民フォーラムとはどのようなものですか。
奥窪 平成14年より毎年開催しているフォーラムで、年に一度、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い世代を対象に、健康について考えていただこうと、生活習慣病や喫煙、がん検診や予防接種など身近なテーマを取りあげて、シンポジウムや講演などをおこなっています。第18回を迎えた昨年は、9月29日に西宮市フレンテホールで開催しました。
─どのようなテーマでしたか。
奥窪 「ひょっとしたら認知症?~これからどうする~」というタイトルで、認知症について市民のみなさまと考えました。今回初めて事前予約制とし、当日も台風接近であいにくのお天気でしたが、それにもかかわらず満席に近い258名もの方にご来場いただき、その半数ほどが70代以上でした。
─第1部はどのような内容でしたか。
奥窪 基調講演としまして、「認知症の基礎知識~アルツハイマー型認知症を中心に~」と題し、西宮市で開業されているつちやま内科クリニックの土山雅人先生にお話しいただきました。平成24年の統計によれば認知症の高齢者は全国に462万人、65歳以上の7人に1人、85歳以上の4人に1人が認知症といわれていますが、中でも一番多いのがアルツハイマー型認知症で、日本では認知症の約6割を占めるそうです。
─アルツハイマー型認知症はどのような特徴がありますか。
奥窪 脳の中にタンパク質の一種が蓄積して神経細胞にダメージを与え、特に記憶を司る海馬の脳神経細胞が減少し、もの忘れ、道に迷う、徘徊などの症状があらわれます。根本的な治療法はありませんが、お薬である程度進行を遅らせることはできますので、早期発見も重要です。
─早期発見にはどのようなことに注意すればいいですか。
奥窪 講演によれば、認知症発見の目安として、もの忘れがひどくなる、判断力や理解力が衰える、時間がわからなくなるなどがある一方、本人に痛みや苦しみがないために自分では気がつきにくいので、家族など身近な人の情報が大切になってくるということです。また、加齢によるもの忘れと認知症は違い、加齢の場合、例えば食事をしたことは覚えているけれど献立が思い出せないなど体験したことの一部を忘れますが、認知症の場合は食事をしたこと自体を忘れてしまうそうです。
─基調講演で印象に残ったことはありますか。
奥窪 治療には介護者の接し方も大きな部分を占めているというお話ですね。認知症の方に対し「どうせ何もわかっていない」という態度ではなく、一人の人間として尊重して、その人の視点に立って理解してケアをしていくことが重要と土山先生はお話しされました。また、介護者さんがイライラするとケアができず、それが患者さんのストレスになって悪循環が生まれるので、時には専門家の力を借り、介護者さんの肉体的・精神的に楽になる時間を持つことも重要というお話も印象に残りました。
─第2部はどのようなプログラムでしたか。
奥窪 今回は初めての試みで、マンガをスライドで放映しながら朗読の会の方にボランティアでアフレコをお願いし、ポイントごとに基調講演をおこなった土山先生、西宮市認知症地域支援推進員で社会福祉士の齋藤環さん、西宮市認知症初期集中支援チーム員で保健婦の山本裕佳子さんの3名の専門家にアドバイスをいただくという形でした。
─マンガはどんなストーリーでしたか。
奥窪 「こんな時どうする?ある夫婦のストーリー」というお話です。70代の夫婦が二人暮らしをしていましたが、ある頃から奥様が鍋を噴きこぼしたり、お買い物の時に計算が苦手になったりして、自分でちょっとおかしいと感じてもの忘れ外来を受診し、初期のアルツハイマー型認知症と診断されました。それをきっかけに息子夫婦や孫と同居するようになり、みんなで助け合いながら過ごしていくというストーリーでした。でも実際はこのお話のように自分から受診するという例はそう多くなく、周りの方が気になってご本人に受診を勧め、それを拒否することが多いそうです。
─受診を納得させるにはどうすればいいのでしょうか。
奥窪 妻や夫、息子さんや娘さんなど身近なご家族よりも、少し離れた関係のお孫さんやお友達に言ってもらうと受け入れることが多いというアドバイスがありました。また、かかりつけ医に勧められるとスムーズに進むことが多いので、ご家族がかかりつけ医に相談するのもひとつの方法ということです。認知症になってしまったら、残念ながら徐々に進行し根治が難しいのが現状です。しかし、早期発見・早期対応で進行を遅らせることができ、住み慣れた家や地域でその人らしい生活を続けていくことが可能になってきています。ですからためらわずに、おかしいと思ったらもの忘れ外来や認知症専門医、神経内科などを受診しましょう。
─認知症は地域で支えることも重要ですが、西宮市ではどのような取り組みがありますか。
奥窪 一昨年、認知症初期集中支援チーム、通称「オレンジサポート」が設置されて、認知症の方をサポートしています。市内に15か所ある地域包括支援センターの高齢者あんしん窓口でご相談いただいたら、オレンジサポートを通じ医療機関や介護サービスへ結びつけてくれます。
─次回の西宮市医師会市民フォーラムはいつですか。
奥窪 今年の9月28日(土)に、JR西宮駅前のフレンテホールで開催予定です。テーマは未定ですが、決定し次第ご案内いたしますので、ぜひご来場ください。