12月号
神戸鉄人伝 第108回 BBプラザ美術館顧問 坂上 義太郎 (さかうえ よしたろう)さん
剪画・文
とみさわかよの
灘区のミュージアムロード上に位置するBBプラザ美術館。株式会社シマブンコーポレーションが経営する美術館で、コレクション展に留まらず地元作家を再評価するなど、地域に根差した活動を展開してきました。また展示に前衛的な表現手段を取り込むなど、ユニークな試みでも知られています。その仕掛け人、坂上義太郎さんにお話をうかがいました。
―前職は伊丹市立美術館の館長でしたが、ずっと美術関係のお仕事を?
それが40才までは普通の伊丹市職員で、しかも若い頃から演劇にのめり込んでいました。その頃伊丹市は「伊丹劇場都市宣言」を標榜してギャラリーやホールの建設を進めており、私はその準備の仕事をしていました。当時の矢埜與一(やのよいち)市長に「芝居を辞めて美術の勉強をしろ」と言われ、覚悟を決めて学芸員資格を取得したのが人生のターニングポイント。柿衞文庫を経て伊丹市立美術館の開設準備に関わり、2007年まで美術館に勤務しました。
―BBプラザ美術館にいらしたのは?
2008年にこの館の開設準備の仕事を紹介いただいたのがご縁です。この厳しい時代に美術館を開設しようという会社の思いに共鳴しましたし、私自身がもう美術から離れられなくなっていましたから、嬉しい限りでした。以来ずっと展覧会の企画に携わっています。
―民間企業が母体の美術館は、規模も収蔵品も様々です。
サントリー美術館やブリジストン美術館、出光美術館などコレクションの充実した大規模館は、やはり東京に集中しています。ここ阪神間には香雪美術館や白鶴美術館など特徴ある館が存在し、BBプラザ美術館は後発の小規模館。私は美術館は個性的であるべしと考えていますので、当館を魅力ある美術館に育てるにはどうしたらよいか、真剣に考えました。
―まず収蔵品の充実、そして展覧会の企画力が求められますね。
当館のコレクションは日本の近現代作家の作品です。私が準備室に来た時は100点程でしたが、この10年で10倍に増えました。これらを単に展示するだけではなく、展覧会にインスタレーションやパフォーマンスを取り入れていきました。名品を並べた展覧会は観客数も多いので、企業の美術館はいわゆる名画路線に陥りやすい。そこを乗り越え、前衛的な展示もできる美術館にしたかったのです。
―前衛路線は、賛同を得られましたか?
もちろん最初は社内でも疑問視されたり、よくわからないといった意見もありました。現代美術の表現を知ってもらうために榎忠さんに大砲を撃ってもらったり、堀尾貞治さんにビル内の空きスペースを活用した作品を制作してもらったりして、壁に展示するだけが美術展ではないと繰り返し訴えた結果、会社や観客から一定の理解も得られ、館の認知度も少しずつ上がりました。
―これまで評価されていなかった画家を取り上げたこともありましたね。
神戸の埋もれた作家、タカハシノブオや石井一男などを発掘して展覧会を開催したり、1館ではできない展示を複数館で連携して行なったりしました。神戸に来てからは様々な出会いに恵まれ、おかげで新しい発想の企画につながりました。
―これからの美術館運営の抱負は?
アカデミックな路線と前衛路線、どちらもやっていきたい。この10年間と同じく、オーソドックスなことも押さえつつ新しいことも加味し、両者を融合させながら運営していきたいですね。神戸の美術館として、この地の芸術文化に少しでも寄与できればと願っています。
(2018年10月15日取材)
40歳から美術一筋に生きてきた坂上さん。豊富な人脈と確かな企画力で、美術館を支えておられます。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。