2015年
7月号

神戸の未来を考える 東遊園地の可能性について

カテゴリ:神戸


 神戸の都心部の再整備が始動。神戸市では、「神戸の都心の未来の姿」を市民から公募、様々なアイディアが寄せられた。神戸市では、これらの提言やデザイン都市推進会議での意見などを基に新たな街づくりの可能性について検証実験を行っている。
 三宮のターミナルとウォーターフロントをつなぎ、ビジネス街でもある旧居留地に隣接する東遊園地。市民のアウトドアリビングについて考える上でも絶好のロケーションに位置することから神戸再生の核として大きな可能性を秘めている。
 去る6月1日~14日には、東遊園地の再整備の可能性について考える東遊園地パークマネジメント社会実験「アーバンピクニック」が実施された。「無理なく、できることから」を掲げ、市民が本を持ち寄ってつくるアウトドアライブラリー、神戸の“食”の地産池消をめざすファーマーズマーケットを2本の柱に開催された。

緑に癒され読書を楽しむアウトドアライブラリー

これまでにない試み

 単なるイベントではなく、壮大な実験だ。アーバンピクニックは正式名称を「東遊園地パークマネジメント社会実験」。神戸を拠点に活躍する多彩なメンバーが集まり実行委員会を結成、神戸市とともに有志が力を合わせて実行した。
 この期間、東遊園地にはオープンテラスのカフェや、緑の芝生が登場。美味しいコーヒーやワインを楽しむ人がいるかと思いきや、芝生に転がる子どもたちの姿も。
 アウトドアライブラリーも設置され、カフェのカウンターなどの本棚には8歳から77歳まで36名のオーナーがそれぞれのテーマごとに寄贈・収集したおすすめの本が並んだ。一冊一冊の本にはメッセージが記されていて、来場者たちが自由に手に取り読書を楽しんだ。また、本の交流会もおこなわれた。
 期間の最後にはファーマーズマーケットも開かれ、神戸市内の若手農家が自慢の農産物を持ち寄り販売、さらにそれらを使用した料理の提案もおこなわれた。

東遊園地から神戸を変える

 東遊園地は、ルミナリエなどのイベント時は大いに賑わうが、普段は閑散としている。朝夕は通勤客が横切る「通路」という有様。ゴールデンウィークの昼下がりなど、人の姿がまばらだそうだ。
 しかし、ここは市役所に接し、三宮の中心と旧居留地、磯上、港湾地区との結節点で、都市公園としてまたとない立地。この強みを生かし、公園を核に都市を活性化させようというのがアーバンピクニックの目的の一つだ。
 実行委員会の事務局長、村上豪英さんは言う。「アメリカでは荒廃し治安が悪化した都市公園を不動産所有者や地域住民などの有志が整備することで、公園が再生しただけでなく周辺の地価上昇もみられたんですね。目指すは公園の活性化でなく、街の活性化です。限られた予算ではありますが、創意工夫で日常的な楽しみを創出し、さまざまな人々が集う場になれば、神戸の〝ハート〟になるのではないでしょうか。東遊園地にはそれだけのポテンシャルがあります」。

公園を通じさまざまな縁を

 「無理なくできることから」というコンセプトもまた、プロジェクトの将来には欠かせない視点だ。アーバンピクニックではさまざまなリユースが運営を支えている。
 椅子や書棚は廃校になった学校で使用されていたもの。カフェのテーブルも電線を巻き付けていたドラム。カウンターの書棚は六甲の間伐材でできている。さらに会場の芝生も、北野で開催されたイベントで使用したものを活用。そもそも「アウトドアライブラリー」も本の再利用である。
 リユースすることで予算が削減でき、エコであることは確かだ。しかし、真の狙いはもっと深い所にある。「リユースすることは、元の持ち主がアーバンピクニックに関わっていることでもあります」と村上さん。
 関わることは繋がること。さまざまな結びつきが、街を楽しくする。都市にはさまざまな人が混在している。公園がその交差する場所となり、繋がりを深め、広げられる拠点になれば、街の魅力に新たな奥行きが生まれることだろう。

東遊園地の一角に芝生とカフェが登場


平日の昼下がりのひと時を楽しむ



これぞ、都会の中のオアシス。週末には多くの利用者が訪れた


いつも見慣れた公園が、ちょっと違った風景に



村上 豪英 さん

アーバンピクニック
実行委員会 事務局長

神戸の“食”をまるかじりファーマーズ・マーケット

「食都神戸2020」の実現に向けて

 山と海のイメージが先行する神戸市。しかし、面積の1/3は農業地帯が占めている。
 神戸は都市と農村が近く、瀬戸内海に面した豊かな自然に囲まれており、品質の高い農水産物が数多く生産されている。いちご、桃、いちじく、トマト、キャベツ、葉物野菜、西洋野菜など食材の宝庫でもある。
 この神戸の“食”のポテンシャルを活用して、地産地消を楽しむ神戸ならではの新しいライフスタイルの創造を―。「2020年」、東京オリンピックが開催される年までに、神戸市では、“食”を軸とした新たな都市戦略「食都神戸2020」の実現を掲げている。
 その一環として、神戸産農水産物のブランド力向上のために、「神戸ビーフ」のように世界市場で通用するブランドを育成するグローバル・ブランド戦略と、神戸市民が地産地消を楽しむライフスタイルの定着化を図るローカル・ブランド戦略に取り組んでいる。

地域の農水産業は地域のコミュニティーで育てる

 今回の「アーバンピクニック」期間中の6月13日(土)・14日(日)に実施された「ファーマーズ・マーケット」は、ローカル・ブランド戦略の柱として、「食都神戸2020」の実現に向けたとりくみのひとつ。
 このマーケット開催のヒントになったのがアメリカのサンフランシスコ。サンフランシスコには、CSA (Community Supported Agriculture) という考え方が浸透している。
 この考え方は、「地域の農水産業は地域のコミュニティーによって育てられる」というもので、市場で生産者は消費者の声に耳を傾けて野菜や家畜を育てる。消費者は生産者を理解し、生産者は消費者を理解する。そして、定期的に農作物を購入することで、自分たちが暮らす町に少しでも貢献していこうというもの。
 その核となるマーケットの会場に検討されているのが、神戸の市街地の中心に位置する東遊園地なのだ。

高まる期待と可能性

 6月13日午前9時。初夏の緑に萌える東遊園地の一角に突如出現したおしゃれなマーケット。オープンと同時にファミリー、カップル、シニア層と年齢・性別を問わず多くの人々がつめかけた。
 今回参加したのは、農家5組、飲食店7組。2者がタッグを組んで新しい地産地消のライフスタイルを提案した。農産物では花ズッキーニ、食用ホオズキ、赤タマネギ、リーフキャロットなどスーパーではあまり見かけることのない商品も多数並び、購入する人たちが調理方法などを熱心に伺う姿が見受けられた。その隣では、惣菜、パン、焼き菓子、スープ、グラノーラなど工夫を凝らしたメニューが並び、こちらも飛ぶように売れていく。ドリンクも神戸ワイン用ぶどう100%のジュース、ビール、ワインなどが揃い、テーブル席では神戸の食を楽しむ人々であふれかえった。
 また、食器類などは直接店舗が引き取ることで、会場にゴミ箱を設置していないにもかかわらずゴミはほとんど見当たらず、マナーの良さも特筆すべき点であった。
 この日、記念すべき第一歩を踏み出した「ファーマーズ・マーケット」。同時にこのマーケットには、多くの期待が寄せられている。農家や漁師を訪れて自然と農漁業を体感する「ファームビジット」などの体験のハブとしての機能、農村や漁港から都市へ食材を運ぶ「ループ型配送」などの流通のハブとしての機能。今回の成功により、その可能性はさらに広がった。

東遊園地の一角に誕生したファーマーズ・マーケット





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