2015年
9月号
本社(左)には営業・総務、明石工場(右)には技術・製造関係を集約。従業員・パートを含め100人ほどの規模。

企業経営をデザインする① 制御技術のプロフェッショナル

カテゴリ:経済人

奥井電機株式会社 代表取締役社長 奥井 秀樹さん

奥井電機は配電・制御システム製品の受注から納品まで一貫して行い、この分野での長い歴史と信用を誇っている。〝技術力の奥井〟と言われるまでに至った90年の歴史、失敗や成功を重ね開発してきた唯一無二の製品についてなど、奥井社長にお聞きした。

90年前、受注製造、納品までラジオの一貫生産から始まった

―奥井電機は創業当時から制御盤に特化した企業だったのですか。
奥井 大正15年(1926)、創業者の奥井豊松が楠町に電気機械工場を創設し、当時はラジオを造っていました。今とは違ってラジオはお金持ちが買う高価なもので、工場で作り納品して、置く場所を決めアンテナを張り、音が鳴るように調整するところまでが仕事でした。結構よく売れて、小さいながらもラインを作ってパートさんも雇い好調だったようです。ところがある時、納めていた家電屋さんが夜逃げ。創業者はとても感情の激しい人でしたので、腹を立て、斧で工場ごと全部叩き壊して楠町の交差点に積み上げて燃やしてしまいました。大変な騒ぎになったそうです。

―その後、制御盤の開発を始めたのですか。
奥井 いいえ、創業者は「一般消費者相手の商売ではだめだ、官公庁や大企業相手の商売を」と船舶修理の仕事を始めました。同時に現在本社がある兵庫区西出町に移転し、船が入港すると電装品の修理に入っていました。ところがエアコンや扇風機修理は、港にいる2、3日ではなかなか間に合いません。そこで工夫し、自社で持ってレンタルするという形を取ったのです。戦時中は軍の船会社の仕事もやっていたようです。

―制御盤は戦後になってからということですね。
奥井 昭和26年(1951)、スウェーデンの会社から火力発電所に使う自動制御盤の製造を受注しました。当時の日本には制御盤をつくる技術などないと思われていたのに、何故か受注したんですね。製造のために使う電線すらなく、何もかも手探りで大損はしながら無事に納めることができました。記録は残っていないのですが、恐らく日本で初めて制御盤をつくった会社ではないでしょうか。これが今の奥井電機の基礎になっています。

技術を駆使し、配電・制御システムを一つひとつ手づくりで

―制御システムの製造から納品まで一貫して行っているそうですね。
奥井 はい。私どものつくっている制御システムや配電システムというものは一品、一品、全部違います。設計段階から、最後に収める箱の色まで、ほとんど同じものはありません。ですから全部手づくりです。出来あがったけれど部品が一つ入らない、などということもあります。そこは蓄積してきた技術を駆使しかなり原始的な課程を経てつくっています。

―私たちの目に触れることはない制御盤ですが、例えばどういうところに使われているのですか。
奥井 工場で製品を造る機械を動かすシステム、火力発電所や原子力発電所内の機器を稼働させるシステムなどです。家庭にあるもので分かりやすく言えば…テレビが工場や発電所だとすれば、それを操るリモコンが制御システムというようなものです。

―それに付随するものも造っているのですか。
奥井 自然に付随発生してくるものがあります。例えば、下水処理場の制御システムに付随して作っていた超音波センサー類が製品になり、全国シェアの約50%を占めています。またETC導入前から、高速道路の料金システムに使われる、車両の種類を判別するセンサーを造っています。製品は日本全国に普及し、韓国へも輸出したのですが、韓国からは次々返品になってくる。「なんでやろう?」と実際に見に行ってみたら高速道路を戦車が走っていたんです!戦車にも耐えられるように工夫しました(笑)。

―全く関係のない分野でのヒット商品もありますか。
奥井 マイナス30度くらいのアルコールにつけて肉や魚を急速凍結させる液体凍結という技術を使った製品「OLF(オルフ)」があります。食品は冷凍すると細胞膜が破壊されて品質が落ち、解凍した時にうま味が水分となって出てしまいます。細胞を破壊しない液体凍結という技術は以前からあったのですが、数千万円もするかという大規模な装置しかありませんでした。それを何百万円レベルでできる小型装置のノウハウを開発者から譲り受け、製品化して販売するようになりました。肉屋さんや魚屋さん、料理屋さんにかなり売れましたが、残念なことにうちの製品はなかなか壊れないんです(笑)。新規で売れるよりもメンテナンスが多くなっています。そこから派生して、環境試験装置を受注し、開発したのですがこれは1台限りで大赤字に終わりました。
その他にも…JCメンバーから頼まれて城崎温泉に納品した、「一日に2000個の温泉卵ができる装置」は好評でした。全国の温泉地から注文が来る!と思ったのですが全然。これも全く儲かりませんでした(笑)。

―制御システムという基本事業があるからできることですね。今後、奥井電機の技術を持って展開していきたい分野はありますか。
奥井 水素ステーションの周辺機器を考えています。液体凍結機を造っていますので開発のお話をいただきました。これからは水素自動車が増えていくと思います。水素ステーションもたくさん必要になってきます。これは儲かるのでは?と期待しているのですが(笑)。

誠実・信用・合力

―現在の奥井電機の規模は?
奥井 従業員73人、パートを含めると100人弱でしょうか。本社に営業・総務、明石工場に技術・製造関係を集約しています。

―経営で大切にしていることはありますか。
奥井 社是でもある「誠実・信用・合力」です。一貫して手づくりしていますからたくさんの製造工程があります。皆で協力していかないと製品は完成しません。

―今の課題は?
奥井 技術・技能者がどんどん高齢化しています。次の世代へとどうやって技術・技能を継承していくかが課題です。特に若い人に人気のない板金塗装の技能者は周りでも不足して、同業他社でも板金塗装工程は外注に頼っている所が多いのですが、高齢化により廃業する板金塗装業者が増え、忙しくなると箱を外注する業者を探すのに苦労している所が増えてきました。当社の場合は、技術を継いでくれる若い人が頑張ってくれています。これに関しては本当にありがたいことだと思っています。

―今後の展望をお聞かせください。
奥井 人を大切にして、技術を継承し、信用を積み重ねていくこと。そして、「ちょっと難しいけど、奥井電機へ図面を持って行ったら何とかしてくれるだろう」と言ってもらえる存在であり続けたいと思っています。

優れた技術を持つ企業は神戸の誇りです。これからも技術を守り、伝えていってください。本日はありがとうございました。

本社(左)には営業・総務、明石工場(右)には技術・製造関係を集約。従業員・パートを含め100人ほどの規模。

制御盤や配電盤をはじめ、ひとつとして同じものがない製品は、すべて自社の手づくり



奥井 秀樹(おくい ひでき)

奥井電機株式会社 代表取締役社長
1961年神戸市生まれ。1985年に大阪大学法学部を卒業後、1986年に奥井電機株式会社に入社。取締役、常務取締役、専務取締役を経て、1999年に同社の代表取締役社長に就任。現在に至る

奥井電機株式会社

http://okuielec.co.jp
本社:神戸市兵庫区西出町1-4-3
TEL.078-651-1331
明石工場:明石市大久保町西島
310番地
TEL.078-946-2266

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