02.18
WEB版 エンタメ情報|映画『道行き』
監督 中尾広道さん
奈良県御所市から始まる
静かな「時間」の物語
舞台は奈良県御所市。そこに暮らし、人々と交わり、時には在りし日を共に懐かしむ。「時間」を旅するような映画『道行き』が公開される。監督・脚本を務めた中尾広道さんは自ら御所市に移り住み、時間をかけて丁寧に物語を紡いだ。「自分が感じたことを伝える」。一作目から変わらない、創作へのまっすぐな想いを聞いた。
STORY
主人公の駒井は奈良の古民家を購入し、自ら行う改修作業のために大阪から引っ越してくる。元所有者である梅本は、駒井に町の歴史や古い屋敷について語り、駒井も自ら町をたずね歩く。改修工事が徐々に進むにつれ、過去の出来事やかつて存在した古びたものたちから少しづつ埃が払拭されていく。
―御所市に移り住み、古民家で暮らす主人公。監督そのままですね。
自分の身の回りにあることや、それについて感じたことを繋いでいくのが僕の制作スタイルなので、そうですね、駒井は自分自身と言えます。
脚本があって場所を探すのではなく、まず舞台となる場所を決める。次に自分の興味の対象があり、書いたもの、撮ったものをまとめていく。駒井の日々は自分がやっていることそのままです。

―ストーリーより先に場所なんですね。
今回は場所と家、駒井が住む古民家も大きな出会いでした。撮影に使うには家を買い取るしかなくて移住を決めました。映画と同じく、あちこち修繕しながら今も住んでいます。
―どんなところが気に入ったのですか。
初めは、人と話して暮らしを聞いて、町に遺された建物などを見て、時間の流れがゆったりしていると感じました。当時は大阪のわりと賑やかな町に住んでいたので、余計にそう感じたのかもしれません。この町の人みたいに、時間に支配されずに生活できたらいいなと思いました。
でも実際に住んでみてわかったのは、どこに住んでも自分次第ということ。町が生活を変えてくれるわけではありません。
―田舎が変えてくれると思いがちですね。
確かに目に入る風景で気分が変わることはありますが…。仕事を詰め込んだらどこにいても忙しいですし。
例えば、家の近くにコンビニがないのは不便ですよね。でも、なくてもいい生活に変えていくことで、不便とは感じなくなります。こちら側が合わせることも必要です。
―登場人物がそれぞれの視点でこの町を語ります。
思い出話や歴史も語りますが、「田舎はいいな」とか「昔はよかったな」という話にはしたくはありませんでした。登場人物の「今」を物語にしたいと思いました。
僕の視点でいうと、デジタル化が進んだ今だからこそ移住という選択ができた。ある意味では、今の方が自由です。それに田舎にいると、長い時間をかけて築かれてきたものが壊されていく光景を目の当たりにします。時間の流れが直接的に見えてしまう、厳しい現実もあります。
―「時間」が物語のテーマですね。
構想は、江戸時代に生まれた和時計との出会いから始まっています。西洋の機械時計の仕組みに、当時の日本の時刻制度である「不定時法」を取り入れた時計です。日本では、明治の初頭まで月の満ち欠けや太陽の動きに合わせた暮らしをしていたんですよ。そんな自然のリズムを「からくり」で捉えた時計職人たちのクリエイティブさに衝撃を受けました。
―不定時法とは「丑の刻」「子の刻」ですか?
そうです。季節や昼夜によって一刻の長さが変わる時刻制度で、現在の定時法に比べるとややアバウトです。
各家庭に時計がないので、お寺さんが時鐘を打って時間を知らせるんです。まず城下町のお寺さんが鐘を打つ。それを聞いて、近隣のお寺さんも鐘を打つ。音が届く範囲で次々に鐘を打って時間を知らせるけれど、最初の時間とのズレが生じてきます。でもそんなことは気にしないし、問題にもならない。大事なのは、お日様が出ているかどうか。明るければ仕事をするし、暗くなると寝る。
―感覚がまるで違いますね。
時計が普及しても、大正12年(1923年)ごろはまだ時報がなく時計を合わせることができなかった。舞台となった町の時計店が、正午に花火を打ち上げて時を知らせたこともあったそうです。
真昼の花火の音に一斉に耳を澄ます…。なんてロマンチックなんだろうと思いました。それに、時間に対して、自然に対して、人の感覚は今よりも鋭敏だったと想像しています。
―その時代の感覚を細馬宏通さん演じる時計職人が語っています。俳優ではなく学者さんですね。
お会いしたことはなかったのですが、著書を読んでいて梅本の祖父を細馬さんに重ねていました。音楽家でもいらっしゃるので、わらべ唄を歌うシーンまで併せてイメージできましたし、ちょっと風変わりな役を違和感なくこなせるのも僕の想像通りでした。
―配役には独自の考えがあるのですね。
本作では、演技を仕事とはしていないけれど、それぞれの道を生きてきた方、それから地の人にも出演いただいています。多くの方に、「演じる」ではなく「そのまま」で話してくださいとお願いしました。話すテンポ、話の間、声、使う言葉、「そのまま」が登場人物そのものになると思いました。

―人形浄瑠璃文楽座の人形遣い(人間国宝)、桐竹勘十郎さんへのオファーも「そのまま」ですか?
語り口も気品も、桐竹さんはそのまま梅本です。
僕は文楽が好きで時々観に行くのですが、演者のお一人お一人にたおやかさを感じていました。特に桐竹さんの纏う雰囲気には圧倒されていました。
文楽の技芸員の方は、先人が作ったものをその先へ伝えていくのが仕事という認識をもっています。過去を語ることに対してものすごく謙虚です。桐竹さんにお願いしたのは、その謙虚さを含む佇まいに尽きます。
―題字は桐竹さんの書ですね。モノクロームの映像に合っています。
「道行き」とはそれぞれの道を行くということ、「行く」には遠く離れて消えていく、目的を達成する、死ぬ(居ぬ)という意味があります。僕が制作期間に感じていたこと、映画に込めたおもいがすべて込められた言葉です。
「道行き」という古い書物をめくるような始まりにしたいと考えていたところ、台本に書かれた桐竹さんの字が目に止まりました。桐竹さんという人を表す字の力を感じて、「道行き」にも物語を与えてほしいとお願いするに至りました。
―文楽『面売り』のシーンは印象的です。
過疎化が進んで厳しい現状にある町も、長い歴史をみると、大勢の人で賑わい、活気のある時代があったりします。御所も同じで、資料としてお借りした古い写真に、商人の町だったころの賑わいが残されていました。『面売り』は、名もなき商人たちの日々を描いた作品。写真との類似性に運命みたいなものを感じて、撮影をお願いしました。
人の営みによって繋がってきた町、人から人へ伝承されてきた文楽。どちらにも尊い歴史があって、今、生きている人が未来に繋げています。
―お話も過去から未来まで、時間の旅のようでした。ありがとうございました。
text.田中奈都子
【プロフィール】

中尾広道(なかおひろみち)
映画監督、脚本家 。
1979 年、大阪市住吉区生まれ。2013 年に友人の映画撮影を手伝ったことがきっかけで映画制作を始める。2015 年『船』で「ぴあフィルムフェスティバル/PFF アワード」入選。2017 年『風船』で PFF アワード入選、オーバーハウゼン国際短編映画祭出品(ドイツ)。2019 年『おばけ』でPFF アワード グランプリ受賞、フィルマドリッド最優秀賞受賞(スペイン)、全州国際映画祭(韓国)出品など。本作『道行き』では NY JAPAN CUTS にて大林賞(最優秀作品賞)を受賞。
【作品情報】
『道行き』
監督・脚本・編集:中尾広道
出演者:渡辺大知 桐竹勘十郎
細馬宏通 田村塁希 大塚まさじ ほか
制作プロダクション:エリセカンパニー
配給:マジックアワー
©2025 ぴあ、ホリプロ、日活、電通、博報堂、一般社団法人PFF
2026年2月20日(金)~シネ・リーブル神戸
2月27日(金)~テアトル梅田 ほか全国順次公開
公式サイト:https://www.michiyuki-movie.com/












