8月号

連載エッセイ/喫茶店の書斎から 111 島田陽子さんの詩
西宮のラジオ「さくらFM」に出演させてもらっている。奇数月の第四火曜日ということで二カ月に一度の出番だ。
その五月の時のこと、わたしの都合で一週間遅れの六月三日の出演となった。
テーマは島田陽子さん(1929~2011年)の詩と人生のこと。
女優の島田陽子さんではない。同姓同名の詩人である。
いつもは40分間とたっぷり時間があるので、そのつもりで準備していた。
ところが、振り替えてもらったコーナーは25分間とわたしは認識していた。実際はいつも通りの40分を用意してくださっていて、そのことは予め伝えて下さっていたのだがわたしは勘違い。話をコンパクトにまとめなければならないと考え、紹介する詩も初めに予定していたよりも減らして臨んだ。
番組は進み、そろそろ終わりかなと時計を見ながらおしゃべりしていたのだが、テーブルを挟んでお相手して下さっているパーソナリティー、久保直子さんの様子がまだまだといった感じ。わたしは平静を装いながら、え?何時までやるの?と頭の隅でうろたえていた。
やがて彼女もわたしが勘違いしていることに気づいた様子で、機転を利かせたフォローをして下さり、なんとか終了。冷や汗ものだった。予め構成したものとは違ったものになってしまって落ち込んでしまった。生放送の恐いところだ。
後で久保さんが「同録を聴きましたが分かりやすかったですよ。先輩から、『上手く行ってないと思う時の方が自然に流れている時がある』と教えられたことがあります」と慰めてくださった。自分でも録音を聞いてみたがやはり後半はまとまりが悪かった。が、済んだことは仕方ない。これも経験だ。
さて島田さんである。
わたしは何度かお会いしている。ちょっとしたエピソードがあり、笑顔でのツーショット写真もある。ここで彼女の人生を書くゆとりはないが少しだけ。
今、大阪で万国博覧会が開かれているが、彼女は前回の万国博のテーマ曲「世界の国からこんにちは」の作詞者。「こんにちはこんにちは」と三波春夫が歌ったあの歌の。ラジオではそのことにまつわるエピソードなども話したのだが、実は彼女の真骨頂は大阪弁で書かれた詩集だ。
『大阪あそびうた』(編集工房ノア刊)は朝日新聞の「天声人語」で全国に紹介され大きな話題になった。そしてわたしが大好きなのは、やはり大阪弁で書かれた詩集『うち知ってんねん』(教育出版)。ラジオではその中から何篇かを朗読紹介した。
そのうちの一篇。
「おんなの子のマーチ」
きかいに つようて/げんきが ようて/ スピードずきな おんなの子やで/うちのゆめは パイロットや/ジャンボジェット機 うごかしたいねん/
おんなの子かて やれるねん/ やったら なんでも やれるねん
しんぼう づようて/あいそが ようて/
しゃべるん すきな おんなの子やで/うちのゆめは 外交官や/せかいのひとと あくしゅをするねん/ おんなの子かて やれるねん/おかあさんになったかて やれるねん
ちからが つようて/どきょうが ようて/ スリルのすきな おんなの子やで/うちのゆめは レンジャーや/災害おきたら たすけにいくねん/ おんなの子かて やれるねん/そやけど せんそう いややねん/へいたいさんには ならへんねん
ほかにも何篇か朗読したのだが、先に書いたように時間がないと思っていたので、惜しみながら外したものがあった。その中から一篇。
「いうてんか」
いうてんか/すきなら すきやと/いうてんか//いけずを せんと/いうてんか//いうてんか/いやなら いややと/いうてんか
きィ もたさんと/いうてんか//いうてんか/やんぺなら やんぺと/いうてんか/かってに やめんと/いうてんか
島田さんの詩は、楽しいながらも風刺がピリッと効いていてわたしは好きだ。

(実寸タテ8㎝ × ヨコ19㎝)
六車明峰(むぐるま・めいほう)
一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・代表者。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。
今村欣史(いまむら・きんじ)
一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。












