5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第142回
川西市民医療フォーラム「第20回特別記念講演会」について
─恒例の川西市民医療フォーラムですが、昨年は第20回を迎えたそうですね。
長谷部 川西市医師会では県内各市町の医師会に先駆け、平成15年から市民医療フォーラムを開催してきました。新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症で中止したこともありましたが、昨年で20回目を数え、記念公演と記念ミニコンサートの特別なプログラムで11月12日に川西市みつなかホールで開催しました。
─過去20回の実績がありますが、そこから新たに発展したことはありますか。
長谷部 平成23年に認知症をテーマにしたことがきっかけになり、高齢者とその家族が安心して自分の住む地域で医療と介護を切れ目なく受けることができるための情報を記載した連絡ツール「つながりノート」を作成し、先進的な取り組みとして厚生労働省のホームページでも紹介されました。また、平成30年には終末期医療を採り上げましたが、それをきっかけにACP(アドバンス・ケア・プランニング)の冊子を作成し、医療現場で活用されています。
─記念講演はどなたがどのようなお話をしましたか。
長谷部 2代前の日本医師会会長、横倉義武先生に「健康な社会に向けて」をテーマにお話いただきました。「医師会とは」「人生100年時代に向けて」「かかりつけ医機能のさらなる定着」「コロナとワンヘルス」の4つの話題を軸とした内容でした。
─日本医師会とは、どのような団体なのでしょうか。
長谷部 横倉先生のお話をまとめますと、日本医師会は医師自らが国民に対して医師と医療の質の保証に責任を負う専門機能団体で、平成29年時点で会員数が約20万人とのことです。日本医師会は全国組織で、それを支える都市区等医師会が891、都道府県医師会が47あり、日本医学会と車の両輪となって医学と医療を牽引しているとお話されていました。また、その歴史は古く、大正5年、初代会長の北里柴三郎先生らによって設立されましたが、実はそれ以前、明治時代に全国各地で医師たちが結成した西洋医学を学ぶ団体をルーツとし、やがて郡市区医師会や都道府県医師会へ発展して、それらが集まって大正3年に全国組織の日本連合医師会を結成、その後日本医師会になったそうです。医師会はお上によるトップダウンではなく、医療現場からボトムアップでできた組織なんですね。
─北里柴三郎さんは、来年から発行される新しい千円札の肖像に選ばれた人物ですよね。
長谷部 野口英世先生から医師の肖像が2代続くことについて、医師が社会に果たす責任の重さを感じると横倉先生はおっしゃっていました。人類の歴史は感染症との闘いの歴史ですが、ジフテリアやペストの病原菌を発見した感染症学の権威である北里柴三郎先生が初代会長ということで、我々もコロナとの闘いに尽力していきたいと改めて思いました。
─人生100年時代に向けて、大切なことは何ですか。
長谷部 わが国は世界的な長寿国ですが、これは必要な時に適切な医療を受けられる皆保険制度の賜物だと横倉先生は述べられました。一方で少子高齢化により社会保障の維持が問題になっており、そのためには生産年齢人口を増やしていく必要がありますが、74歳まで健康寿命を延ばすことで維持できるのではないかということです。世界最高の医療制度を守るためには、歳を重ねても健康を維持したり、病気になっても重症化を防いだりすることが大切で、そのためには、予防や健康づくりの取り組みを国全体で考えないといけないというご指摘もありました。
─かかりつけ医についてのお話はどのような内容でしたか。
長谷部 これまでは診断治療=医療という意識でしたが、医療とは本来、予防健康教育、診断・治療、再発重症化予防・見守り・看取りを含めてのものなので、かかりつけ医の役割が重要とのことでした。かかりつけ医を中心とした切れ目のない医療・介護の提供のためにも、デジタルを活用した患者の健康管理も重要になるとのことです。
─コロナとワンヘルスについてですが、ワンヘルスとはどのような概念ですか。
長谷部 新型コロナウイルスもそうですが、新興感染症の約7割が人畜共通感染症であることからも、人の健康と動物の健康、環境の健全性は生態系の中で密接に繋がっているので、これらの健全な状態を一体的に守ろうというのがワンヘルスの理念だそうです。また、コロナにかからないためには免疫力を高めることも重要で、適度な運動、睡眠や栄養の良好なバランス、そして笑うことなどなど毎日の生活が大切だということでした。
─記念のコンサートはいかがでしたか。
長谷部 マイ・ハート弦楽四重奏団ひろしまのみなさまが、モーツァルトや赤とんぼ、となりのトトロ、愛の讃歌など親しみやすい曲を美しい音色で演奏してくださいました。フォーラムでこのような企画は初めてでしたが、会場のみなさまもお楽しみいただけたのではないでしょうか。
─充実したフォーラムでしたね。
長谷部 川西市と猪名川町は健康長寿のまちですが、平均寿命と健康寿命の差を縮めることが課題です。最期まで安心して暮らせるまちづくりのためにも、地域における医療介護福祉の問題を提起し、川西市や猪名川町のみなさまと一緒に考える川西市民医療フォーラムを、今後も継続していきたいですね。