5月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 56
広域化で利用しやすくなる定期予防接種
市外のかかりつけ医でも安心して接種を
─定期予防接種とはどのようなものですか。
佐野 予防接種には定期予防接種と任意予防接種があります。定期予防接種は国民に努力義務が課されているもので、国により表1の6種が指定されています。高齢者以外のインフルエンザや水ぼうそう、おたふくは任意予防接種となります。児童向けの定期予防接種は、かつて学校で校医が集団接種をしていましたが、副反応の可能性があることから平成6年の予防接種法の改正で原則個別接種になり、それぞれの子どもの健康状態をよく知るかかりつけ医が接種することになりました。
しかし、予防接種は各市町が管轄しているため、居住している市町と違う市町にかかりつけ医がある場合、かかりつけ医の接種は受けられないので、居住地と同一市町内で接種のための医師をさがさなければいけなくなります。もちろん、医師も全く診たことのない患者に接種することになります。
─市町の枠を越えて接種することはできないのでしょうか。
佐野 そこで、予防接種の広域化が必要となります。広域化すれば市町の境を越えて医療機関を自由に選択できるようになり、かかりつけ医に安心して接種を受けられます。また、病気の予防にも結びつきます。
実は日本は先進国で最大の麻しん(はしか)の輸出国なのです。患者がほぼゼロになったと見なされるためには予防接種率95%という目安がありますが、未だそれが達成されていません。ですからかかりつけ医で接種できるようになれば、接種率も向上するものと思われます。この4月から神戸市も広域化に参加することになりました。
─神戸市周辺での広域化の現状について教えてください。
佐野 兵庫県では西の方から、姫路~明石~三木~西脇とその周辺の郡部で広域化が進んできました。この背景には医療機関の数が少なく、同一市町外にかかりつけ医を持つ方が多いことがあります。また加古川市・高砂市・明石市・播磨町・稲美町の東播3市町をひとつのエリアとして広域化がおこなわれました。東では尼崎市・西宮市・芦屋市・伊丹市・川西市・宝塚市・三田市・猪名川町もひとつのエリアとして広域化がおこなわれました。しかし、これまで神戸市は他の市町との広域化がおこなわれませんでした。
─それはなぜですか。
佐野 神戸市の予防接種での健康被害に対する補償は全国で最も手厚い「神戸方式」という独自のもので、他の市町と基準が違ったからです。予防接種で健康被害が生じた場合、通常は市町を通じ国に補償を請求しますが、健康被害調査制度による調査の結果因果関係が認められた場合にのみ賠償される仕組みになっています。この方式ですと時間がかかり、国の調査で因果関係が認められない場合補償はありません。
神戸市の場合は市の方でまず調査し因果関係あり、あるいは否定できないと判断された場合は市が独自に補償し、その後市から国へ請求します。仮に国が因果関係を認めない場合でも、市が認めれば補償します。
また、神戸市の場合は任意接種の場合も補償の対象となります。一方で最近、補償について国が「因果関係が証明できなければ認めない」から「因果関係が否定できない場合は認める」へとスタンスが変わってきました。さらに、HIB・肺炎球菌・子宮頸ガンの3つのワクチンが昨年から国の予算で接種されるようになりましたが、その際に国の制度を補う全国の市区町村を対象とした賠償制度に周辺の各市町が加入し、神戸方式に補償の手厚さが近づいてきました。以前より安心して接種を受けられる環境が整ったため、神戸市も加古川市や稲美町、三田市、芦屋市とともに4月から兵庫県の広域化に加入することになりました。
─広域化の課題はありますか。
佐野 神戸市周辺の市町でも播磨町や西宮市などまだ広域化に加入していない市町があります。また、依頼書の発行など手続きが煩雑な場合があります。利用しやすくするために接種券や予診票を共用化するなど手続きの統一も課題です。
─ワクチン接種で健康被害がおこる可能性は高いのでしょうか。
佐野 全国的にみれば小児への定期予防接種は年間延べ約1000万人に施行され、接種部位の肘を越える腫脹、39℃以上の発熱や痙攣などの報告が年間数百例あります。神戸市では過去15年間に定期予防接種による重篤な健康被害は報告されていません。
佐野 公彦 先生
神戸市医師会理事
さの小児科クリニック院長