5月号
[海船港(ウミ フネ ミナト)]ライン河クルーズ⑤ 古城渓谷クルーズ(その1)
文・写真 上川庄二郎
【ハイライトのライン河古城渓谷】
リューデスハイムからローレライを経てモーゼル河との合流点であるコブレンツまでが古城渓谷と呼ばれ、ライン河の中でも最もハイライトで人気の高い区間である。金融商業都市・フランクフルトから近いこともあり、デイ・クルーズでも賑わっている。この区間を二回に分けて紹介しよう。
この区間は河幅が狭くなり険しいがしかし美しい渓谷美を呈しており、その両岸一帯には古城が多く点在して見る人の目を引き付けて止まない。
何故にこのように古城が多くあるのか。それは河幅が狭いことを利用して武力(城砦)を背景に行き来する船から通行税を取り立て、また盗賊が根城を構えるのに又とない都合の良い地形だったからだということだ。日本でも、瀬戸内海で村上水軍をはじめ多くの水軍が跋扈していたのと同じである。
このように思いを巡らせていると、ライン河をクルーズしていながら何となく瀬戸内海をクルーズしているかのような錯覚に囚われている自分に気付く。
それでは、ここから約2時間にわたってライン河の両岸を眺めながらいくつかのポイントを紹介してゆくとしよう。
【リューデスハイムからローレライまで】
ニーダヴァルト記念碑 — ワインのまち・リューデスハイムの背後地は一面のぶどう畑。そのぶどう畑を見下ろすように河面から225mの高台にニーダヴァルトが立つ。1871年のドイツ帝国統一を記念して1873年に建造された高さ25mの上に旧ドイツを象徴する女神・ゲルマニア像(10・5mのブロンズ像)を戴く。台座は、皇帝ヴィルヘルム一世、鉄血宰相ビスマルクそしてそれらを200人の武装した兵士が取り巻いている。富国強兵を推し進めた明治の頃の日本を彷彿とさせられる。
ラインシュタイン城 — ライン河畔で最も美しいといわれる城の一つ。900年頃、帝国税関として建てられたという。
ゾーンエック城 — 11世紀頃に建てられた城だが、13世紀になって盗賊騎士団の根城となった。
ヒュルステンベルク城塞 — ケルン大司教の税関権保護のため、1220年前後に建てられた。1689年に破壊され現在は廃墟となっている。それでも、船から見る概観はなかなかのもの。
砦ブファルツ — ライン河の中洲にある船のような格好をした砦は、14世紀にブファルツ選帝候の税関用の砦として建てられた。
グーテンフェルス城 — この城は、1200年前後に建てられたが、30年戦争で荒廃した。現在は修復され古城ホテルとして、ライン河沿いの城砦の中で最も美しく広々とした古城という。
ローレライ — ライン下りの中で最も有名なのが、河岸にそそり立つ岩山・ローレライである。ここは、ライン河の河幅が通常の1/3、僅か90mしかなく、そこに高さ132mの岩壁が迫るという船乗りにとっては難所とされる場所だった。水嵩の減っている時には、「7人の乙女」と呼ばれる危険な暗礁が姿を見せる。この暗礁が伝説となり、ハイネが読んだ「なじかは知らねど、心侘びて 昔の伝えは、そぞろ身にしむ さびしく暮れゆく、ラインの流れ…」は、多くの日本人にも愛され歌われ続けてきた。ライン河への憧れの詩であり歌でもある。私たちの船が通過する時にも、河岸からこの歌が聞こえてきた。しかし、通ってみると何の変哲もない岩山の麓を回りこんで行過ぎるだけのこと。ライン河クルーズの中で最も期待に背く光景と言う声が多いとか。
かみかわ しょうじろう
1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。