10月号
福祉のまちを目指して シリーズ The welfare city “KOBE”
家庭養護に向けて世界で協働
~IFCO2013大阪世界大会より~
お話/
橋本 明さん
〈家庭養護促進協会事務局長〉
アジアで初めてIFCO世界大会が日本で開催
9月13~16日、アジアでは初めて大阪でIFCOの世界大会が行われました。IFCO(国際フォスターケア機構)とは、親と暮らせない子どもたちの社会的養護と家庭養護の促進を目的とした、世界で唯一の国際的ネットワーク機構です。世界大会は隔年で開催されており、今回の大阪世界大会には、25カ国から約1200人の里親や児童福祉関係者などが参加しました。
「子どもの声を大事にしよう」というのがIFCOのテーマです。4日間にわたり、基調講演やシンポジウム、58の分科会などが行われました。
シンポジウムの中のひとつに、里親家庭や児童養護施設で育った青年たちの「社会的養護経験者からの声」というプログラムがありました。12歳で養子となったアメリカ人青年は、里親と出会い、やっと求めていた家族ができたことの感動、もうこの家を出て行かなくても良いのだと思ったことなどを語りました。ただ、施設を出る際自分がこれからどうなるのかということをあまり教えてもらえなかったため、子どもがどうしたいのか、自分で決めさせてほしかったとの意見でした。またイギリス人の青年は、里親などで30回も生活場所が変わり、「怒りをぶつけることで、自分をコントロールしていた」とその頃の自分を振り返っていました。彼は今、里親制度を進めるイギリスの「コーアセット」という団体でプロジェクトリーダーを務めています。そこでは、自分と同じ経験をしている、同じ立場の子どもと話し合い、支援を進めています。「自分が苦しいときに、助けて、と言う勇気が必要で、話を聞いてくれる友人が必要である」と、彼は話していました。
印象的だったのは、日本人の里親からの質問でした。その人は、里子を家庭に迎えたものの、どうしても手に負えなくなり、中学生のとき里親子関係を解除してしまったのでした。その後、もと里子は社会人となってからたびたびその里親の家に遊びに来たりしている間柄だそうですが、その人は「一度子どもを手放してしまった私は、里親失格です」と語りました。その質問に対し、養護経験者からは「一度は離れてしまったが、今その子はあなたの家に帰ってきている。あなたのしたことは失敗ではない」「あなたは里親失格ではない」という答えが相次ぎました。
震災後の「親族里親」の課題
一昨年の東日本大震災と子どもたちについての分科会「被災地の親族里親支援」では、岩手県から、親族里親の現状報告がありました。東北では、241人の孤児、1483人の遺児があり、彼らはほぼ全員、祖父母や親戚など「親族里親」のもとに引き取られています。親族里親の問題として、ひとつに養育者の高齢化があげられました。中には92歳の祖父母が中3と小6の子どもを仮設住宅で育てているという例もあります。また、住宅がせまいという問題。3人の実子がおり、さらに3人の里子を引き取っている家庭や、里親も被災し、仮設住宅に住んでいて十分な生活空間がないという例があげられました。年ごろの男の子がいるところに、同年齢の姪が同居するようになった、という性の問題も見えています。
実子と里子の確執という問題もあります。親を亡くした里子の方は非常に辛い経験をしたためさまざまな取材を受けたりして注目を集めている一方で、実子の葛藤もあります。「今度津波が来たらどっちを助けるの」と、実子に聞かれた親もいるそうです。突然の震災によって、心の準備がないまま子どもを引き取らなくてはならなくなり、親族だからこその大変さもあるようです。また、今回、遺児たちには多額の義援金が集まり、金銭にまつわる問題もあげられました。
10月は里親月間です。神戸でも里親制度をすすめるための講演会を開催します。親と暮らせない子どもたちと里親制度について考えていただくきっかけになればと思っています。