8月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第四十三回
サービス付き高齢者住宅(サ高住)とその課題
─高齢者向けの住宅の需要にはどのような傾向がありますか。
深森 日本の人口は2004年を境に減少しているにも関わらず75歳以上の人口割合が上昇しつづけると予測され、2055年には75歳以上の割合が約27%になると推計されています。一人暮らしや夫婦二人の高齢者世帯も増え、高齢者人口は今後20年間のあいだに、都市部で急増することが予想されています。高齢者は受療率が高く、高齢者人口が多くなれば入院患者の増加に結びつきますが、病床数の数は現状維持する方向ですので、医療が必要な高齢者が在宅にとどまることになります。
また、通院困難な患者も急増するでしょう。医療が必要な高齢者の方々が在宅にとどまることになるのであれば、その受け皿の施設や住宅の需要も高まってきます。
─高齢者の受け皿となる施設や住居の状況について教えてください。
深森 特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設の介護保険3施設や、有料老人ホームなどの居住系サービス施設がほとんどです(図1)。そのような中、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が注目を浴びています。住宅は高齢者にふさわしい住まいであるかどうかで日常生活のクオリティが大きく変わってきます。
ところが日本では住宅政策は現在の国土交通省が担当し、福祉を担当する厚労省には住宅政策の部門がなく、高齢者向けの住宅政策が進まない状況でした。しかし、平成23年10月に「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が全面改正・施行され、療養病床、介護施設に入居できない高齢者の受け皿として、バリアフリー構造と見守り機能を備えた住宅の建設を推進することとなりました。これがサ高住です。平成25年末の時点で全国に約13万5千戸ほどしかありませんが、今後増加していくものと思われます。
─サ高住では見守りや介護ニーズにどのように対応しているのでしょうか。
深森 地域包括ケアシステムが計画され、国から推進されていますが、住まいが中心となっていることがポイントです。超高齢社会では経済成長期のように医療や介護、住まい等を切り離して考えるのではなく、これらをひとつのまとまりとして(包括)、システム化することが高齢者の暮らしに求められる機能です。「一人暮らしの高齢者や夫婦のみの世帯」が、住み慣れた地域で安心して暮らすことができるように創設されたサ高住では、24時間対応の「定期巡回・随時対応サービス」などの介護サービスを連携させています。
─サ高住の問題点は何ですか。
深森 まず、「終の住処」となるかどうかという点です。数年経つと病気や介護を必要とする状態が増えると考えます。そうなると在宅での診療、看護、介護が増えます。住んでいるうちに病気や要介護状態になることも想定し、医療や介護サービスを確保できる環境を作っておく必要があるでしょう。
また、認知症は増加の一方であり、平成22年の時点で平成32年には認知症患者が400万人を超えるとも予測されていたのにもかかわらず、すでに平成25年には462万人と予測よりも早く増加しています。ですから、サ高住でも認知症の入居者の対応も求められるでしょう。
立地面では、都心部のような人口密集地帯にサ高住を作ることは不可能ですので、都心部よりも地価の低い地方に建設が増加するでしょう。そうなると、今まで通院していた医療機関へ通うことが困難になり、地域外から転居してきた利用者が救急疾患等で近隣の病院を受診した場合、病歴などが不明なケースが考えられます。
このような患者が増加すると医療機関にもシワ寄せが来ますので、地域外から転居してきた高齢者は転居後できるだけ早めに地域の医療機関にかかりつけ医を持つことが重要です。また、住所地特例の対象外であること、医療、介護事業者以外の営利を主な目的とした業者の参入、入居金額なども課題に挙げられます。
このような課題に対し、医療・介護・福祉を含めた地域医療を熟知しているかかりつけ医が、私たちの望む「終の住処」について検討し提言していくのみならず、サ高住が建設される地域の医療機関、地域医師会、サ高住の事業者、介護、福祉は互いに連携を取り、受診や入院、訪問医療、看護、看取りなどについて事前に対応策を作っておくことが求められると考えます。
つまり多職種連携のシステムを日常的に機能している状況にすることが今後ひとつの目標となります。こういったシステムの構築をしている地域はまだ少なく、都市部または都市部近隣の地域医師会は連携システムの構築を急ぐ必要があると考えます。
深森 史子 先生
兵庫県医師会医政研究委員
ふかもり眼科 院長