2024年
10月号
10月号
神戸倶楽部で語りあいましょう!
「陳舜臣さんと神戸のまち」
9月7日、神戸の文化の象徴とも言える神戸倶楽部にて、直木賞作家の陳舜臣さんの生誕100年を記念する特別企画、神戸倶楽部で語りあいましょう!「陳舜臣さんと神戸のまち」が開催された。
まずは国際音楽協会理事長の張文乃さんの指揮による、国際女声アンサンブルのコーラスからスタート。さらに中華同文学校前校長で声楽家の張述洲さんの独唱も。いずれも陳さんゆかりの曲で、美しい歌声が会場のボールルームを包んだ。
続いて今年の2月から6月にかけて開催された「陳舜臣ミステリツアー」の報告が、主催者である(一社)関西芸術文化共創代表のとみさわかよのさんから。スライドで現地の映像が表示され、まずは北野の陳さんの旧宅跡へ。現在でも門扉が残されている。
さらに深く、陳さん初期の名作『枯草の根』(1961)の世界へ。事件の発端となったトアロードでのシーンを、あおぞらドラマカンパニーの俳優でツアーにも参加した浅井祐介さん、前田伊都子さんが臨場感たっぷりに朗読。各テーブルでは参加者たちがその内容からヒントを探り、事前に配布された当時の住宅地図を頼りに事件の現場を探すという趣向。さまざまな情報をとみさわさんが付け加えると、なんとその場所が判明!そのモデルは現在のトアウエストに実在したアパートで、「実は陳さんが勤めていた家業の会社のすぐ近くで、このあたりは〝庭〟だったのですね」と、とみさわさんは、身近な街角が舞台になっていることも陳作品の魅力だと語った。
さらに、生田神社名誉宮司で陳さんと親しかった加藤隆久さんと、張文乃さんの対談が。妹が陳さんの弟に嫁いだことから「陳先生からは〝お姉さん〟とよばれていたんです」という張さんから、最初に披露した曲についての解説が。「鵲橋」は日中国交正常化と神戸中華同文学校家長会コーラスの15周年を記念して、陳さんが七夕の日に天の川に橋をかけたかささぎを友好の象徴として織り込んで作詞した曲だとか。「蘇武牧羊」は陳さんが張さんのもとで何度も練習しイベントで熱唱したという逸話も。また、阪神・淡路大震災の約1週間後に神戸新聞に掲載された「神戸よ」は、京都に滞在していた陳さんが新聞社へFAXしたがエラーが起こり、やむなく張さん宅を経由して入稿したというエピソードも披露した。
加藤さんからは、幼少期から生田の森に抱いていた郷愁や、江戸川乱歩賞受賞直前に鞄の取っ手が切れたことを「職業を変えろという生田の神の暗示」と受け止めたことなど、陳さんと生田神社の深い絆について述べるとともに、「お願いしたら〝酒も呑まずに書けるか〟と4合も飲んでから筆を執ったんです」という直筆の書がステージに飾られた。
対談の合間には今回の企画の〝仕掛け人〟、マキシンの渡邊百合社長も陳さんとの交流について語るなど、和気藹々のムードの中で思い出話に花が咲く。その後、参加者たちは温厚で誰からも愛された陳舜臣さんの人柄を明るく偲びながら、華やかな神戸倶楽部の料理を愉しんだ。