9月号
【特集】神戸ファッション協会×台湾デザイン研究院 連携事業開始!|
8/6 豊岡のかばん×台湾デザイン研究院
豊岡鞄を目当てに訪れる訪日客が増えている
8月6日、姫路駅南口のロータリーから貸切バスで兵庫県の北部、豊岡市へと向かう。豊岡市は日本有数の鞄の産地である。その歴史は、1000年前の柳行李(ヤナギコオリ)から始まったとされ、素材が革や布に変わる中でも鞄を作り続けてきた。大手メーカーのOEM生産が中心だったが、2006年に「豊岡鞄」としてブランド化、2014年にカバンを核とする街づくりや人材育成に取り組み、ブランド力強化と販路拡大に力を入れている。「豊岡鞄」を名乗れるのは、兵庫県鞄⼯業組合が定めた基準を満たす企業によって⽣産され、品質を守るための厳しい審査に合格したものだけ。国内中心に普及を目指してきたがコロナ禍明けあたりからは、アジア圏を中心に豊岡鞄を目当てに訪れる訪日客が増えるなど注目を浴び始めている。
この日の目的は豊岡のかばん。初めに訪れたのは株式会社モリタ。1987年に鞄の“持ち手”を作るパーツ専門メーカーとして創業。現在では鞄製造全般を手掛けている。持ち手部分に至っては現在でも、その美しさや丈夫さなどに定評があり、大手ブランドメーカーにOEM提供するなど国内トップレベルの技術力を誇る企業だ。訪れたデザイナーたちも興味津々で、次から次へと質問を投げかける。素材やデザインについてはもちろん、コスト面やSDGsについて、台湾からサンプルとして持参したバッグを見ながらの素材加工などについて意見交換が行われた。
作業場見学でも職人の技術力の高さなどを実際に目にし、納得の様子。応対した谷口知之代表取締役社長は、「日本と台湾の作り方やニーズの捉え方の違いなど勉強になり、SDGsについての共通する思いなどを知り、今後が楽しみ」と話す。
次に向かったのは「株式会社タイムバックス」。OEM生産の経験をふまえ、独自ブランドを立ち上げている。1枚の裁断パーツで縫い目を2箇所にした商品など、廃棄を極限まで減らすことに挑戦している会社だ。プランナーの坂田恵子さんは「バッグを作ろうとするのではなく、この生地をいかに利用するのかという観点でものづくりをしている」と話す。海洋プラスチック問題にもなっている廃漁網を回収し再生させた繊維を組み合わせたデニム生地の製品など、環境問題に積極的に取り組む姿を視察した。
職人を育むカバンストリート
カバンの街・豊岡市を象徴する商店街「カバンストリート」へ移動。商店街にある店舗の半数がカバン関連の店で、個性豊かなショップや修理の専門店などが軒を連ねている。2014年に豊岡鞄の発信地として旗艦店「Artisan(アルチザン)」がオープン。鞄職人を養成するスクールの運営と、豊岡鞄を販売するセレクトショップを営業している。商品点数は約200種類あり、豊岡鞄・豊岡財布を取り扱う最大のショップだ。視察のデザイナーやスタッフらも気に入った商品があったようで購入していた。店長の橋本貴広さんは「コロナ禍明けから海外からの来店者が増えた」と話す。それまでは、ほぼ日本人客で、免税対応すらしていなかったという。「外国語で書かれた紹介サイトを見せてもらったことがあり、海外で知られるようになって喜んでいる。今回のプロジェクトにも期待している」と前向きだ。
カバンストリートにショップを構えている「Maison Def(メゾン デフ)」のオーナー下村浩平さんは、豊岡のカバンづくりに魅せられ、福岡から移住した。市内のファクトリーでものづくりを学び、2017年にMaison Defを創業、2020年に現在のショップをオープン。ものづくりの中で必要不可欠とされる「糸」を一切使わないという制約を課し、手打ちのリベットにより製作される人気の「rivet bag」シリーズは、豊富な素材のラインナップから選び、自分だけのバッグを仕立てることが可能。幅広いカスタム性に加え、強度やリペア性にも優れている。
2022年には、クリエイターの自由な創作活動と販売を支援するコワーキングアトリエ「Apartment」を創業。2階と3階が製作のためのアトリエやライブラリ、1階は製作した作品を販売するショップとなっており、施設内で行われるイベントを通じてものづくりの流れを体得しながら、クリエイターとして生計を立てることをひとつのゴールとしている。かばんの街・豊岡におけるクリエイターへの支援環境を充実させたいという自身の経験や思いから生まれたこの施設には、ものづくりへの情熱を持ったメンバーが全国から集まっている。
伝統を守りたい思いに国境はない
会員の中に伝統工芸を守ろうとしている女性がいる。豊岡杞柳細工作家の山本香織さんだ。杞柳細工の美しさに惚れ、後継者育成教室に応募してから10年になる。杞柳細工による鞄「柳行李」は、豊岡鞄の原点だ。原料となる柳が手に入りにくいこともあり、自ら育てている。台湾では竹細工が多く、今回参加したデザイナーらも興味があるようで、さまざまな質問が飛び交った。
伝統を守りたい思いに国境はない。お互いの文化が交わるところに、新たな世界への広がりがある。そう感じられる1日だった。