11月号
神大病院の魅力はココだ!
Vol.26 神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科 薬師神 公和先生に聞きました。
腫瘍内科と血液内科の先生方が他の診療科とも連携・協力しながら患者さん一人一人に最も適した治療の提供に努めている腫瘍・血液内科について、薬師神公和先生にお話を伺いました。
―腫瘍・血液内科とは?
肉腫を含め全身の臓器の固形がんと悪性・良性を問わず血液に関する病気全般を臓器横断的に診療しています。
―臓器横断的な診療とは?
例えば肺がんは呼吸器内科、大腸がんや胃がんは消化器内科というふうにがんの診断や治療は臓器別各科で行われてきました。がんが遺伝子の疾患であることに注目されるようになり、「がん」を一つの領域として捉える新しい考え方に基づき臓器別に分けず横断的に診療します。
―がんゲノム医療とは?
ゲノム、つまり遺伝子の情報に基づく個別化医療の一つです。具体的にはがんの組織や血液を用いて、次世代シークエンサーを使ってがん遺伝子を識別するパネル検査を行います。がんの発生や進行に関わる「ドライバー遺伝子」が臓器には関係なくたくさん存在することが分かっています。臓器別ではなく、それぞれのがんが持つ遺伝子の異常に応じた治療を進めるのがゲノム医療です。
―どの臓器のがん患者さんに適用されるのですか。
患者さんの入り口は臓器別の診療科です。その中でどの臓器のがん患者さんを腫瘍内科で扱うのかという線引きはありません。一人の患者さんが複数のがんを持つ二重がんや多重がん、症例が非常に少ない希少がん、また原発不明がんなどは当診療科で扱うケースは多いですね。
―腫瘍・血液内科で診断から治療まで一貫して行うのですか。
臓器別の診療科の先生方はそれぞれの視点で考え、当科は腫瘍内科の視点で考えカンファレンスを重ねます。もちろん内科的な治療に限らず、初期の段階であれば外科手術が最も適している場合もありますし、放射線治療が最良の方法という場合もあります。いろいろな診療科と連携・協力しながら、患者さんにとってどういった治療が最も良いのかを検討して治療を進めます。
―血液内科が扱う病気は?
血液は骨髄の中にある造血幹細胞で作られる赤血球、白血球、血小板という3つの血球と液体成分の血漿で構成されています。骨髄が血球を製造する〝工場〟だとすると、工場が壊れたり、攻撃されたりして血球の数が増減したり、異常が起きたりする病気を主に扱います。
―血球はそれぞれどんな働きをして、増減や異常でどんな病気が起きるのですか。
赤血球は酸素を全身に運びます。足りなくなると貧血になり、病気としては鉄欠乏症貧血が代表的です。増えすぎる病気としては多血症があります。白血球は異物の侵入から体を守る働きを持ちます。感染症やアレルギーなどに反応して増減するので、増えたからといって必ずしも血液の病気というわけではありません。白血球が腫瘍細胞化して増えるのが白血病です。血小板には血を止める働きがあり、減る病気として特発性血小板減少性紫斑病、増える病気として本態性血小板血症などがあります。
―血液のがんはどういうものですか。
白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫が主な血液のがんです。白血病は主に骨髄の中で腫瘍細胞である白血病細胞が増えて正常な血球が作れなくなってしまいます。腫瘍細胞が血液中に流れ出て全身を巡るので、一般的ながん細胞が全身に広がる「ステージ4」という概念はありません。悪性リンパ腫は主にリンパ節でリンパ球の腫瘍細胞が増え、リンパ液が流れる管を通って全身を巡り広がります。多発性骨髄腫は主に骨の中で腫瘍細胞が増え、骨が溶けて骨折したり、腎臓が悪くなったりします。
―治療法は?
内科的な抗がん剤を使う治療が主ですが、抗がん剤で治し切れない場合は骨髄移植という方法を取ります。また、他の診療科と連携を取り、緩和ケアや手術、放射線治療への橋渡しの役目も担っています。
―骨髄移植はどんな場合、どういった方法で行われるのですか。
白血病や悪性リンパ腫といった悪性腫瘍をはじめ、血球を全く作れなくなる再生不良性貧血といった命に関わる疾患で適用される場合が多いです。白血球の血液型「HLA」が一致するドナーさんの骨髄から抜き出した骨髄液を患者さんに点滴で注入(移植)するのが骨髄移植です。この他には、ドナーさんに白血球を増やす薬剤を投与し、血液中に流れ出した造血幹細胞を取り出して患者さんに移植する末梢血幹細胞移植や臍帯血に存在する造血幹細胞を移植するケースもあります。ドナーさんが持つ免疫力が働き、完治に導ける可能性を持った治療法です。
―HLAはどの程度の割合で一致するのですか。
兄弟姉妹であれば理論上は25パーセントの割合で一致します。近親者の中でドナーが見つからなければ骨髄バンクや臍帯血バンクに登録して適切なドナーを待ちます。また、ある程度までがん細胞をやっつけた段階で患者さん自身の造血幹細胞を取り出して凍結保存し、副作用のリスクが高い強めの化学療法(大量療法)を行った後、元に戻す自家移植という方法を選択する場合もあります。
―何が原因で血球の〝工場〟が壊れたり攻撃されたりするのですか。予防はできるのですか。
具体的な生活習慣との因果関係ははっきりしていません。どんなに健康的な生活をしていても老若男女問わず突然発症する場合もあり、日頃から何に気に付けたら予防できるのかを言えないのが現状です。
―どんな症状が出るのですか。早期発見するには?
さまざまな症状があります。例えば白血病では急性の場合は発熱や倦怠感が出ますが、中には慢性で自覚症状はなく、健診で白血球の数値に異常があり精密検査の結果、早期発見につながったというケースもあります。固形がんと同様にやはり早期発見には健診が大切です。
薬師神先生にしつもん
Q.医学の道に進んだきっかけは?
A.きっかけになるような特別な出来事はなくて、子どものころから「生命」というものに興味があり、それを扱う学問として「医学」があったということでしょうか。医学部を目指していた兄の影響もあり、高校に入るころには私も目指そうと決めていました。
Q.血液内科を専門にされたのはなぜですか。
A.病気にもよりますが、白血病の場合などはすぐに治療をしないと命が助かりません。研修医のころ、血液の病気が非常に多くて、どん底の状態におられる患者さんの診断をして、治療をして完治を目指せる血液内科の一連の流れに魅力を感じました。
Q.やりがいを感じるときは?
A.状態の悪い患者さんが快方に向かったときの笑顔が一番のやりがいです。治療はしんどいものです。特に白血病の根治を目指す治療や骨髄移植は最強の治療ですから最強の副作用が出てしまうケースが多いものです。QOL(生活の質)が下がってしまった患者さんが退院して、生き生きと生活されている様子を見ると、この仕事をやっていて本当に良かったと思います。
Q.患者さんに接するにあたって、また大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.ありきたりですが、寄り添う医療を目指しています。私はエビデンスを大事にしながら、「自分の家族がこの状態だったら何をやってあげられるかな」というふうに考えるようにしています。教育には成功体験は大切だと思います。医学部の学生たちが自身で体験するのは難しいことですから、私の体験をできるだけたくさん紹介するようにしています。
Q.リフレッシュ法や健康法は?
A.皆さんは一日の終わりにビールを飲んでリフレッシュされるのでしょうが、私は下戸なもので大好きな炭酸飲料でリフレッシュ(笑)。健康法は患者さんにいろいろアドバイスするのですが私自身はといえば…栄養バランスが取れた「うちのご飯」でしょうか。