11月号
建築で六甲の魅力にふれる
六甲山名建築探訪ツアー
六甲山と言えば緑と自然というイメージだが、実は近代から現代にかけてのユニークな建物が点在する「建築の名所」でもある。その魅力を伝えるべく、開催されている六甲山名建築探訪ツアーが面白い。
残暑と言うよりまだ真夏という感じの9月6日、それでも神戸市街よりは涼しく爽やかな六甲山に集った参加者たちは、集合場所でもある六甲ケーブル六甲山上駅から見学開始。今回もガイドは日本建築家協会登録建築家の長尾健先生。住宅などの設計のみならず、阪急六甲駅近くの「松泉館」の蔵のリノベーションや、異人館の修復などにも携わる、神戸を代表する建築家の一人だ。
六甲山に点在する近代化産業遺産
六甲山上駅ではまず、コンコースで解説を聴く。昭和7年(1932)築とあって、装飾や照明などに当時流行したアールデコの雰囲気が。ケーブルカーの心臓部、巻上場も見学。2両の車両を鋼索で繋ぎ、ここをフックとしてつるべ井戸の原理で昇降させるが、実際に動くとモーター音が響き、3つの大きな滑車がゆっくり回ってすごい迫力。機械は開業当時のものをメンテナンスして使っているそうだ。
程なくバスで記念碑台へ移動し、徒歩でヴォーリズ六甲山荘へ。その名の通り関西学院大学などの設計で知られるウィリアム・メレル・ヴォーリズによる建築。小寺敬一の別荘として昭和9年(1934)に建てられ、現在は保存活動をおこなうNPO法人アメニティ2000協会が保有し春から秋にかけて一般公開している。ていねいに手入れされており状態はすこぶる良好。避暑のための建物なのでリビングが北側にあるのが特徴だが、窓が多く開放的で居心地が実に良い。水が溜まらぬよう窓枠が斜めに切られていたり、マントルピース脇にベンチが備え付けられたり、使用人部屋に収納式のアイロン台があったりと、ヴォーリズのアイデアが随所にうかがえる。
山荘の庭先から室谷邸記念館へ。これはアメニティ2000が須磨区にあったヴォーリズ建築、室谷藤七邸(解体)の一部を用いて、その意匠を再現しつつ休憩所として建てたものだ。
次もヴォーリズの作品。六甲山の開祖ことアーサー・ヘスケス・グルームが創設した日本初のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部へ。お目当てのクラブハウスは昭和7年(1932)築ながら今なお現役で、外から見学。籐の椅子やテーブルも往時のものを大切に使っているとか。緑の芝とのコントラストが美しい。六甲山上駅やヴォーリズ六甲山荘と同じく近代化産業遺産でもある。
六甲ケーブル六甲山上駅
ヴォーリズ六甲山荘・室谷邸記念館
神戸ゴルフ倶楽部クラブハウス
記念碑台・六甲山ビジターセンター
建築家・三分一博志氏が込めた六甲枝垂れへの思い
ハイキング気分で記念碑台まで戻り、しばし六甲山の自然や歴史を学んだ後は、六甲山サイレンスリゾートの旧六甲山ホテルへ。昭和4年(1929)築で、設計は古塚正治。近代化産業遺産だが、現在はイタリア人建築家のミケーレ・デ・ルッキ氏の手により建築当時のデザインや痕跡を生かしつつリノベーションされ、カフェやショップ、ギャラリーに生まれ変わっている。一行は建築当時の輝きを取り戻した天井のステンドグラスの下でランチタイム。
続いてバスで移動し、本誌でおなじみ安藤忠雄氏が設計した風の教会へ。昭和61年(1986)築。長尾先生の解説でそのアプローチや外観に安藤建築の特徴を確認できたが、中は六甲ミーツ・アートの巨大なアート作品に占領されており、見どころの聖壇は全く見えずに残念、また次回。
最後は「自然体感展望台 六甲枝垂れ」へ。ただの展望台ではなく、実は緻密に計算されている。そもそもこの建築は若手建築家のコンペによるもので、そのコンペを企画・実行したのが長尾先生だとか。三分一博志氏のプランが採用された。網目によるドーム型という独特の形状は、冬に霧氷がつきやすいようにとの配慮から。内部にはこの場所で冬の間にできた氷を貯める氷室があり、夏はその冷気が室内を冷却するなど、ほとんど自然エネルギーのみで快適な環境を生み出している。吉野の檜をふんだんに使用し、山と一体化するデザインや展望をより楽しめる工夫、そして六甲の自然を体感できる仕掛けで、ツアーの最後に建築が文化であることを実感させてくれた。
以上、駆け足でツアーを紹介したが、各スポットでの解説は詳細で興味深いものだった。今期のツアーはすでに終了。2024年も開催予定なので、関心がある方はぜひ来年ご期待を。
六甲山サイレンスリゾート
風の教会
自然体感展望台 六甲枝垂れ