9月号
平尾誠二さんとの出会い、そして共に追いかけた 大学ラグビー日本一の夢
2023年1月2日、国立競技場。追い上げるも1点及ばず京産大は「第59回全国大学ラグビーフットボール選手権大会」決勝進出を逃した。「悔しいけれど、やり切ったという思いが強かった」と振り返る福西隼杜さんと渡辺龍さん。共に大学日本一の夢を追いかけた。そして今、福西さんはラグビーでさらなる高みを目指し、渡辺さんは今までとは違うフィールドで新たなチャレンジを始めている。
―お二人は高校時代から親交があったのですか。
渡辺 甲南はラグビーでは無名校、報徳は敵なしの強豪校。全然レベルが違い、面識はあっても親しく話をするようなことはなかったですね。
福西 印象に残っているのは、リザーブで出て来て僕の目の前ですごいタックルをした龍。「県内にこんな選手がいるんだ」と驚きました。
渡辺 その試合の結果はもちろん大敗(笑)。
―報徳と甲南、それぞれどんなラグビー部ですか。
福西 報徳ラグビーは〝自由なラグビー〟です。監督やコーチから気持ち的な部分で多くのことを学びました。今でも僕はラグビーの強さは立ち向かっていく気持ちの強さだと思っています。
渡辺 僕がキャプテンに就任した当時は、フルタイムのコーチがいなかったので、練習プログラムを考えて、ほとんどラグビー経験がない部員たちに練習の意図を説明するところから始めました。言葉で伝えるためにはまず自分がちゃんと理解する。この経験でラグビーへの理解が深まり、マネジメントの勉強もできたと思っています。
―そんなお二人がそろって国体に出場したのですね。
渡辺 県選抜はほとんどが報徳の選手の中、甲南から2人だけ選ばれました。「こんなにレベルの高いチームでプレーができるかな?」とすごく不安だった僕に隼杜が「龍!行くぞ」と声を掛けてくれました。この一言で「チームに入れた」と思え、リラックスして大舞台に臨めました。心遣いが忘れられないエピソードですが…。
福西 言ったかなあ?全然覚えていない(笑)。
―ラグビーを始めるきっかけは?
渡辺 父と親交があった平尾誠二さんです。中1になってすぐのころ、ゴルフ帰りの食事の場でお会いする機会があり「ラグビー部に入ろうか迷っています」と話しました。すると、「ちょっと練習しようか」と言ってくださって、そのうち山中伸弥先生も加わって、パスの基本を教えていただきました。僕は「ラグビーをやりたい!」と強く思い、その後、つらいとき、迷ったときには平尾さんがいつも言っておられた「龍、失敗してもいいからチャレンジやで」という言葉が背中を押してくれました。
福西 僕は報徳でラグビーをやっていた父の影響で子どものころからスクールに通い、小中学生のころ花園ラグビーで松島幸太朗選手を見て「すごいなあ」と思って憧れていました。平尾さんは僕にとっては雲の上の存在です。龍や先輩方の話を聞き、ラグビー選手としてはもちろん、人間として素晴らしい方だったんだと思います。
―京産大を選ばれた理由は?
福西 練習は厳しくても強くなりたい!という気持ちがあり、元木(由記雄)さんからアドバイスを頂きながら決めました。もう一つ、関西で関東のチームを倒したいという気持ちもありました。
渡辺 チャレンジしたいという気持ち。そして京産大はスクラムにこだわるチームなのでFWが成長するというお話を聞き、自分が成長するためにという思いがありました。でも誰のお話も最後は「しんどいけどね」。ホントに死ぬほどしんどかった(笑)。
―そんな中でレギュラーを勝ち取ったのですね。
渡辺 自分で勝ち取ったとは思っていません。失敗や挫折の度に周りのみんなが支えてくれました。僕が練習で残るときは毎回、隼杜が残ってFWコーチも残ってくれて一緒に練習してくれました。感謝しかないです。
―大観衆の中での準決勝。国立競技場に立ったときは?
福西 気持ちが浮ついてしまって、考えてプレーをするということがいつもより増してできなくて、緊張もあったと思います。
渡辺 3年生で国立競技場に立てず、悔しくて観客席から応援する気にもなれなくて…。でも帝京大との試合を観た瞬間、すごい感動と同時に悔し過ぎて「来年は絶対あそこに立つ!」と決意しました。今年の1月は夢のようでした。
―1点差でホイッスルを聞いた瞬間は?
福西 「今年こそはこの場所で勝つ」と臨んだので悔しさはありました。でも大学ラグビーとしてはやり切ったという思いの方が強かったですね。
渡辺 そうですね。僕は自分のラグビーは大学で終わると決めていたので、やり切ったという思いだけでした。
―春からそれぞれ全く違う道を歩み始めたのですね。
福西 コベルコ神戸スティーラーズから声を掛けていただき、子どものころから憧れていた地元チームでプレーできて嬉しい反面、スキルの差をすごく感じています。チームの一員になるために同じスキルを身に付け、自分の持ち味も忘れずに誰よりも努力したいと思っています。
渡辺 もちろんラグビーでさらに上を目指したいという気持ちはありましたが、それ以上にラグビーから離れたところで頑張ってみたいという強い思いがありました。平尾さんの「チャレンジやで」という言葉が僕を新しいフィールドへと押し出してくれました。
―ラグビーの経験が社会で役に立つと思うことは?
福西 ラグビーで大切なのは仲間。仕事をする上にも大事なことは人とのつながりです。ずっとラグビーをやっていて良かったと思っています。
渡辺 失敗を恐れずチャレンジすると新しい自分が見えてきて可能性が広がります。平尾さんの教えでもあり、何度も失敗してそこから立ち上がった京産大でのラグビー経験のお陰だと思っています。
―寺田倉庫に就職を決めたのは何故?
渡辺 社員一人一人の個性や可能性を大切にするというところに魅力を感じました。長い歴史がありながら時代に合う変化を続け、地域の活性化に貢献しています。そういう意味では家業である早駒運輸と通じるところがあると思っています。
―いよいよ今年はワールドカップですね。
福西 同期の李承信選手が候補に挙がっていて、大きな刺激を受けています。ラグビーをやるからにはワールドカップに出たい!今年は勉強を兼ねてしっかり応援し、次は出場を目指します。
渡辺 日本代表ラグビーは今では強豪国にも勝てるチームです。観戦・応援する人たちの反応を見るのが楽しみです。
―最後にお互いにエールを!
福西 龍と出会い、ずっと一緒にラグビーができると思っていたので就職すると聞いて驚き、いろいろ考えているんだなあと感心もしました。僕もずっとラグビーを続けられるわけではないので、龍を見習って広い視野を持とうと思います。大変なこともあると思うけれどこれからも支え合って頑張りましょう。
渡辺 おこがましいですが、試合に出て活躍してください!ずっとエールを送り続けます!
甲南ラグビー部は2024年に100周年を迎えます。
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