9月号
神大病院の魅力はココだ!
Vol.24 神戸大学医学部附属病院 放射線診断・IVR科 村上 卓道先生に聞きました。
あまり聞き慣れない放射線診断とIVR。どんな検査・診断、治療が行われているのでしょうか。村上卓道先生にお伺いしました。
―2つの分野がひとつの診療科になっているのですか。
放射線診断ではレントゲン、CT、MRI、核医学検査装置などを使って診療放射線技師が撮影する医用画像を基にして放射線科医が診断をします。放射線医学が関与する治療「IVR(インターベンショナル・ラジオロジーー)」とは、医用画像をガイドにして、いろいろな器具を使って行われる低侵襲(体の負担が少ない)治療です。
―放射線医学分野で検査・診断、治療までつながっているのですね。
そうです。ただしMRIやエコー検査などは放射線が関与しない検査ではありますが、元々の外来診療科名が放射線科でしたのでそのまま名称に残っています。
―レントゲン、CT、MRIの違いは?
検査にはX線とγ線という2つの放射線を使います。
主に背中側からX線を当てて、お腹側に置いた検出器で透過画像を撮影するのがレントゲンです。X線は空気が多い肺ではあまり吸収されず突き抜けるので画像では黒く映り、吸収する骨は白く映ります。CTは体の周りを回転しながらX線を当て、体内の吸収率の違いを輪切り(断層像)にして読み取ります。初期のCTは1周するのに1分、画像再校正計算に10分ぐらいかかっていましたが、今は高性能なコンピューターなどのお陰で1周するのに0・2秒、1秒間に40~50枚の画像の計算をします。MRIは放射線は使わず、体の中の水素原子から出てくる信号を拾って画像にします。
―核医学検査とは?
弱い放射線を出す放射性同位元素を特定の臓器や病変に集まりやすく加工して体内に入れ、放射線の出ているところを体の外からカメラで撮影します。例えば、心筋に集まりやすく加工した薬を入れて心臓を映し出したとき、画像に欠損部分が認められると心筋梗塞の疑いがあります。骨に集まりやすくした薬が、骨が崩れている部分に集中すると腫瘍が骨転移しているかもしれません。また、腦の特定部位への薬の集まりが悪いと認知症の疑いがあるなど、さまざまな診断が可能です。
―がん検診でよく耳にするPETも同じですか。
PETも核医学検査の一つで、放射性同位元素を使う点は同じです。前述の核医学検査とはちょっと原理が違うPET装置で撮影する検査です。感度が高い装置ですが、今のところは健康保険に適応があるのは主に腫瘍に集まるFDGという薬剤しかありません。アミロイドPET製剤が開発されており、脳内のアミロイドβに集まるとアルツハイマー型認知症という診断が可能です。
―画像診断はどんな場所のどんな病気の診断に適しているのでしょうか。
撮影しやすい場所が画像診断に適した場所です。例えば、頭の中や骨盤はレントゲンでは骨しか鮮明には映りません。CTなら細部まで見ることができますが、骨がX線を吸収するので骨で覆われた部分は十分なX線が届かずあまり詳細な画像は期待できません。MRIなら体の中の水素から出る信号を捉えているので、骨の影響を受けずに細部まで描出できます。つまり骨や脊椎骨にカバーされている中枢神経、骨盤や関節などの画像診断にはMRIが適し、逆に空気が多い肺や呼吸性の動きの多い上腹部はCTが適しています。核医学検査はCT、MRIより画素数が少なく幾分ボヤっとした画像ですが、PET検査ではFDGが行き渡る全身を見ることができます。例えば、がんがどこに発生しているのかを調べたいときには、がん細胞に集まるFDGを使うと集まっている場所にがんがあることが疑われ、CTやMRIで更にその場所を詳しく調べる次の段階に進めます。それぞれ特性のある検査を疑われる病気の種類に合わせてコンビネーションさせて検査を進め、診断しています。
―IVRはどんな方法で行われる治療ですか。
一つは血管系のIVRです。例えば外科の人工血管置換手術を低侵襲で行う方法として、X線透視で確認しながらカテーテルを血管内に通し、脳や心臓の血管が細くなっている部分でカテーテルに付いた風船を膨らませて血管を広げ、時にステントを留置して血流を確保します。大動脈瘤の治療では血管内にカバーのついたステントを入れて新たな血液の道をつくり破裂を防ぎます。また出血している部位に塞栓剤を流して止血したり、腫瘍を栄養している血管を詰めて兵糧攻めにする治療もあります。非血管性のIVRには、細い針「穿刺針」を超音波を見ながら皮膚面から肝臓内のがんに刺して、ラジオ波で焼き切ったり、手術後にたまったうみを抜き取ったりする治療があります。脊椎に転移したがんの細胞を針で吸引採取して病理検査し、どこから飛んできたのか(原発巣はどこか)を突き止めることも可能です。
―放射線科医が担当するのですか。
心臓や脳のIVRは循環器内科や腦外科が担当して放射線科のマンパワー不足が補われています。一方、新しい器具や技術が開発され、四肢や腹部や胸部など身体の他の部分で次々とIVRが担う領域が広がってきており、マンパワー不足はなかなか解消されません。
―人材育成が急務ですね。
大学を卒業すると最初の2年間は内科、外科などいくつかの診療科を回って研修します。放射線科は必須ではないですが必ず1―2か月は回るようにと学生たちには勧めています。そうすれば、放射線科で患者さんがどのように検査を受けて、どのような検査で何が分かり、放射線科のレポート(所見)に書いてある意味がよく理解できるようになると思います。放射線科に画像診断を依頼しない診療科はありません。
―院内のほとんどの診療科と関わっているのですね。
病気が見つかると内科的に薬で治す、外科手術をする、低侵襲のIVR治療をする、強い放射線を当ててがんをやっつけるなどいろいろな治療法があります。治療方針のガイドラインが学会から示されていますがあくまでも指針です。そこに経験で分かったこと、患者さんの状態や意志などを加味しながら関係する診療科の医師や看護師、スタッフが集まりカンファレンスを重ね、患者さんに最適な治療法を提案し、患者さんの承諾を得たうえでチームで医療を進めます。診断して治療に進み、その後の経過観察までの過程を分業する集学的医療です。神戸大学病院では各診療科がうまく連携を取り、レベルの高い集学的医療が確立されています。その中で内科系と外科系の中間的な立場で各診療科をサポートし、橋渡しをするのが放射線科の役目だと思っています。
村上先生にしつもん
Q.なぜ医学の道を志されたのですか。
A.高校生のころ、何となく「工学部でも行こうかなあ」と思っていました。ちょっと成績が上がり、先生から「医学部も行けるんちがうか」と言われて「そうします」と受験し、よく分からないままに医学の道を志しました。動機はあまり自慢できないですね(笑)。でも今は、人の役に立てる、バラエティーに富んだやりがいのある仕事である医学に携わることができて、勧めていただいた先生に感謝しています。
Q.放射線医学を専門にされた理由は?
A.「大学卒業後は出身の大阪に帰ろう」と阪大を見に行くと放射線科が充実していて「ここへ来よう」と決めました。当時の日本ではまだ他の診療科の先生が「画像診断をついでにやっている」というような状況でしたが、これからは日本の医療も放射線科のポジションが重要になると確信していました。今ではやることが多すぎて、忙しすぎて。
Q.これからの放射線科を担ってもらうために!学生さんたちにひとこと。
A.診断には理学的検査、血液検査、画像診断の3本柱があり、治療には内科的治療、外科的治療、精神療法、放射線治療、IVRの5本柱があります。放射線科はその中の画像診断、放射線治療、IVRという3つを担っており、非常にやりがいのある分野です。重要なポジションでありながらオン・オフがはっきりしています。昼間は検査に大忙しですが、一部のIVRを除いて、夜間はオンコールで対応できるというのは若い人にとって大きな魅力だと思います。
Q.村上先生もオフを存分に楽しんでおられるのですね。
A.ところが私自身はどうにもオン・オフの線引きをするのが苦手で(笑)。夜遅くまで病院にいて仕事や研究をしており、大阪の自宅へ帰るだけの毎日です。土曜日も研究会などがあり…たまの日曜日だけはゴルフでオフを楽しんでいます。