9月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.34
お笑いタレント ゆりやん レトリィバァさん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第34回は、「ダイハツ アレグリア–新たなる光–」大阪公演のスペシャルサポーターに就任したお笑いタレント、ゆりやんレトリィバァさん。
文・戸津井 康之
限界を超えた技に魅了され…
目指すは世界のエンターテイナー
憧れのサポーターに就任
「人間に限界はない…。心の底からそう思えるように、自分が変わってきていることを最近、実感しています」
理由を尋ねてみると、現在、大阪で上演中の「ダイハツ アレグリア-新たなる光-」大阪公演のスペシャルサポーターに抜擢されことが、「大きく影響しています」と打ち明けた。
世界屈指のサーカス・エンターテインメント集団シルク・ドゥ・ソレイユの人気の世界ツアーショーのひとつ「アレグリア」が、より磨き上げられ、新しく「アレグリア-新たなる光-」として生まれ変わり、5年ぶりに来日した。
「世界トップクラスのアーティストたちがここ大阪に集まり、鍛え上げた技を披露しています。全員が心から楽しみながらお客さんの前で演じて見せている…。その姿を間近に見ていて、舞台に立つお笑い芸人として、私ももっと芸を磨かなければ、とインスパイア(影響)されました。大阪公演のサポーターに選ばれ、貴重な経験をさせてもらっていることに感謝しています」
日本ツアーは東京で今年2月に始まり6月まで開催、52万人を突破した。そして、大掛かりな舞台装置とともに巨大なテントがそのまま東京から大阪へとやって来たのだ。
7月14日に開幕した大阪公演は10月15日まで、森ノ宮・ビッグトップで開催される。
この大阪公演のスペシャルサポーターに抜擢されて以来、ゆりやんさんは、「アレグリアの魅力を一人でも多くの人に伝えたい」と現在、精力的に活動中だ。
「アーティストたちに実際に会いに行き、演技を目の前で見せていただきながら解説してもらったり、そのトレーニングの方法を伝授してもらったり。また、コスチュームを作る衣装担当の方など裏方としてステージを支えるスタッフの人たちには〝ステージ裏の秘話〟を聞きに行ったり…」
アレグリアについて話す、その真剣な表情から、ゆりやんさん自身が、アーティストやスタッフをリスペクトするとともに、心からアレグリアを楽しんでいる熱心なサポーターであることが分かる。
「私が話を聞いたアーティストたちはみんな、こう言うんです。『このステージに立つことが、ずっと自分の夢でした』と。夢を信じ、毎日技を鍛え、努力し続け、トップに立ったアーティストだけが、世界中から選ばれ、このステージに立つことができるんです」
膨らむ世界進出の夢
ゆりやんさんは、「女芸人№1決定戦THE W」や「R︲1グランプリ」など人気のお笑いコンテストを次々と制覇し、将来の目標は〝米国進出〟と公言してきた。
実際に、英語や演技などを学ぶために、これまでニューヨークやロスアンゼルスなどで留学経験も積んできた。そんな〝国際派コメディエンヌ〟を目指すゆりやんさんにとって、「アレグリアから私自身が勇気をもらっています。努力すれば、世界進出も夢じゃない」と、つい力が入ってしまうのも無理はないようだ。
大阪公演開幕前。大阪公演の記者発表イベントが、大阪市の関西テレビ「なんでもアリーナ」で行われた。
フリーアナウンサーの小倉智昭さん、GENERATIONSの片寄さん、数原さん、中務さん、AKB48のセンター、本田仁美さんら日本公演のスペシャルサポーターが集合する中、一人、派手な衣装を身にまとったゆりやんさんが登場すると会場は沸いた。
アレグリアにインスパイアされて作った、全身シルバーに輝く衣装を着たゆりやんさんの姿に、小倉さんたちサポーターたちも驚いていると、「アレグリアのすべての演目を取り入れ、まとめてみたら、この衣装になりました」と説明。次の瞬間、胸を張ってアレグリアの中でアーティストが披露するポーズを決めて叫んだ。
「ゆりグリアです。みなさん絶対に見に来てグリア!」
会場は爆笑に包まれた。
衣装の秘密を聞くと、
「実は、イベント直前に私から関西テレビのスタッフにお願いし、急きょ作ってもらいました。先日のイベントでは背中の羽が折れたので、改良したんですよ」と、取材中、目の前で新バージョンの衣装の構造を説明してくれた。
限界への挑戦
トランポリンを使って14人のアーティストが空中を飛び交う「パワートラック」。
高さ10メートルにセットされた4つの空中ブランコが激しく躍動する「フライング・トラピス」…。
ゆりやんさんお勧めの演目を聞くと、「どの技もすばらしいですよ」と前置きしつつ、挙げたのが、「ファイヤーナイフ・ダンス」だった。
火が燃え盛る棒を「ファイヤージャグリングアーティスト」が体の近くで勢いよく振り回すスリル満点な演目だ。
「アーティストの体には実際に火があたっていますし、素手で火をつかむんですよ。『鍛えているから熱くないのですか?』と聞いてみたんです」
どう、答えたのか?
「〝熱いけど、我慢している〟。そう教えてくれました」
決して、冗談やギャグで答えていないことが、ゆりやんさんの真剣な表情から伝わった。
実際、観客席の前方で、この演目を見ていると、火の熱さに圧倒されてしまう。
実は、ゆりやんさんとアレグリアとの関係には長い歴史が隠されていた。
「幼い頃、奈良の地元の子供たちが集まり、大阪で開催されていたシルク・ドゥ・ソレイユの公演を見に行ったことがあるんです。そのときのサポーターが『モーニング娘。』のメンバーだったんです。私の憧れのアイドルでした。まさか同じシルク・ドゥ・ソレイユのサポーターに、私が選ばれることになるなんて。当時は想像もできませんでした」
「夢は叶う」と信じ
奈良県の吉野町出身。吉野スギや吉野ヒノキなどの産地として知られる林業の町だ。
山の中の自宅から最寄りの鉄道の駅までは十数キロも離れていたため、県立高校1年から関西大学を卒業するまでの7年間、「父が毎日、自動車で送り迎えをしてくれていました」と言う。
その父は大手電鉄会社の社員だったが、定年前に、突然、会社を辞め、自分の夢だったエッチングの工房を始めた。
「当時、家族はみんな驚きましたが、今も父は頑張って工房を続けています。その工房の名前が、実は『ソレイユ(フランス語で太陽、ひまわり)』というんですよ」。そう明かすとニヤリと笑った。
「やっぱり、シルク・ドゥ・ソレイユと私は、ずっと何かの縁でつながれていたのかもしれませんね」
米国進出の夢は、遡れば中学生の頃から持ち続けてきた。英語を猛勉強し、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が好きで、主演のマイケル・J・フォックスに会いたいがために、一時は本気で米国の高校への留学を考え、中3のときには、同映画をテーマに英語のスピーチコンテストにも出場した。
「アレグリアには米国のほか、世界各国からアーティストが集まって来ています。米進出はもちろん私の夢の一つですが、今では、もっと広く世界中で活躍できたら、と思っています。私の心の中では、海外はこれまでよりもずっと近くに感じられるようになり、その分、世界はより狭くなった。なりたいものになる。それが私の目標でしたが、アレグリアを通じて、より自信が沸いてきました」
大阪公演は10月15日までの長丁場。
スペシャルサポーターとしての務めはまだまだ続く。
ゆりやんレトリィバァ
1990年生まれ、奈良県吉野郡出身。2013年にNSC大阪校を首席で卒業。2017年に第47回NHK上方漫才コンテストと第1回女芸人NO.1決定戦THE Wで優勝を果たし、女性ピン芸人としての地位を確立。2021年には第19回R-1グランプリ優勝。近年は女優としても活動の幅を広げており、「ドラゴン桜」「スパゲティコード・ラブ」などに出演。主演を務める
Netflix制作「極悪女王」が配信を控えている。10月より、ゆりやんレトリィバァ単独ライブ「ゆりやん日本最終ツアー!」開催。