6月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.8
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme このところ番組でカバーソングを積極的にかけてるんです。歌い手で雰囲気が変わるのも素敵だし、名曲を歌い継いでほしいと思って。
松 本 若い人たちが歌ってくれるのは嬉しいね。はっぴいえんどの曲を20代が歌ったり、海外のアーティストが歌ったりしているのを聴くと嬉しい。
宮本浩次の『赤いスイートピー』『木綿のハンカチーフ』なんかは名カバーだよね。
僕のおすすめは、草野マサムネの『水中メガネ』。オリジナルは架空のアイドルが歌ったんだけど、草野マサムネが歌うとすごくいい。聴いてみて。カップリング曲の『七夕の夜、君に逢いたい』は細野さんの作曲。これは森高千里のカバーがいい。
槇原敬之『SWEET MEMORIES』もよかったね。大村雅朗のトリビュートライブで聴いてた南佳孝が「マッキーって歌うまいね」って言ってた(笑)。
いいなと思う曲があれば歌ってみたらいいと思う。時代を経て曲がアップデートするのはいいことだから。
meme 南佳孝さんの『スローなブギにしてくれ』は出だしから難しそう。
松 本 「Want you」ね(笑)。南佳孝を越えるのは難しいだろうね。歌の上手さと声の艶と色気と。最近またよくなってる。佳孝には、Jean GabinやJean=Paul Belmondoをイメージした男くさい詩が書けるの。そんなにかっこよくないか(笑)。
鈴木茂はまったく違う。茂は今でも少年のような歌が歌えるから、はっぴいえんど時代に戻って詩が書ける。昨年作った『トアロードのハレ娘』もそんな感じ。歌ってるのを聴いたら、茂の歌だなと思ったよ。個性の違う2人の歌を作るのが今、おもしろい。
meme 自分らしさを出すって難しいですよね。まずは「自分らしさって何だろう」からです。
松 本 人間の歴史はたいていのことは真似から始まるんだよね。なんでもそう、絵画なんかも基本は真似から。でも右から左にそのまま真似するのはダメで、まずはひとひねり、1回だけひねって、自分のものにする。どうひねるかだと思うよ。
クラシックで例えると、モーツァルトの中にバッハのそっくりがあるし、ベートーヴェンにはモーツァルトのそっくりがある。シューベルトにもモーツァルトがある。真似しながら覚えていったんだよね。真似して、引き寄せて、自分のものを見つけていく。…センスなんだろうね。細野さんのセンス、佳孝のセンス。センスは真似できない。人工知能には持てない。みんなそうして自分のフィルターを作っていく。僕だってそう。松本隆をそうして作ってきたと思う。簡単ではないけど、僕はチャレンジするのが好きだから。